番外編4.休日1
更新遅くなり申し訳ありません。
ただいま、出したい賞がありそちらに向けて準備しているため、こちらが疎かになってしまっております。
そのためしばらく不定期更新となります。
「……ふぅ」
僕は休日にアデーレの住んでいる建物の前に立っていた。
今日はある目的を持って、ここを訪ねている。
一応約束はしてあるが、この国に来て一人で誰かの元を訪ねるということは一度もなかったからか、する必要のない緊張をしてしまっていた。
エルフの国でも一人で訪ねたことがあるのなんて、サラ様の部屋くらいしかなく、あれを一人で誰かの元を訪ねたと言うには規模が小さすぎるので、この世界に来てから初めてと言ってもいいかもしれない。
「……よし!」
必要以上の緊張を解いて、玄関にあるチャイムを鳴らそうとした時だった。
「お待ちしておりまたわ! クロ!」
向こうからアデーレが飛び出してくる。
「あ、アデーレ!?」
予想外の展開に戸惑いを隠せない。
「いい紅茶が入りましたの。パオラの作ったケーキと共にどうかしら?」
「大変嬉しいお誘いですが……」
「さぁ、どうぞクロ」
アデーレは私の腕を取って、中へと引っ張ってゆく。
そこに待ったをかけてきたのは、その様子を中から見ていて、いつもとは違い黒いワンピースにレギンスというラフな格好をしたパオラさんだった。
「アデーレ様、クロさんは私の御客人なんですが」
パオラさんがそう言うとアデーレが食ってかかる。
「パオラの客人ならわたくしの客人でもあります」
「流石に意味がわからないんですが」
パオラさんはジトっとした目で、アデーレを見つめている。主人の言動の理解不能さに、何言ってるんだこいつとも言いたげな表情だ。まぁ、半分以上は声に出てしまっているが。
「……自分でも無理があるとは思わなくもないですけれど、クロであればわたくしの友人でもあるのですし、わたくしの客人でも良いではありませんの」
「別にダメとは言いませんが、今日はクロさんには用事があるのでアデーレ様は引っ込んでいただけますでしょうか」
「引っ込んでって……流石にそれは私に対する態度じゃないでしょうに」
アデーレの言葉に対して、パオラさんは素直に頭を下げる。
「申し訳ありませんでした、アデーレ様。部屋に引きこもって、しばらく出てこないでもらってもよろしいでしょうか?」
「さっきより酷くなっておりませんの!?」
けれど、これっぽっちも反省してる様子はない。
「今回に関してはアデーレ様が先に邪魔をしてきたのであり、私に非はないと思いますが」
「……でも」
「でももクソもありません」
「クソなんて言ってなくてよ!」
「そもそも今日は私はオフなんです。アデーレ様の命令に従う道理はありません」
「パオラが冷たい……」
「私はいつも通りです」
僕としては別にアデーレがいてもいいのだけれど、パオラさんとしてはどうしても彼女を参加させたくないらしい。
寮を出てくる前のことを思い出す。
「本日はパオラさんのところに行って参ります」
「パオラの?」
「はい」
「ふーーーーん」
サラ様が不満そうにかなり間を伸ばしてそう言う。
「……何かまずかったでしょうか?」
「いや、何もまずくはないが?」
「では何故不満そうなのでしょうか?」
「別に全くもって不満ではない。少しだけ気に入らないだけだ」
「それは不満ということではないでしょうか……」
僕が思っている以上に彼女は僕のおでかけにご不満のようだ。
「せっかくの休みなのに主人をほったらかしにして、他の女のところに行ってしまうんだなと思っただけだ」
「私が浮気でもしてるように言うのはやめてください」
「……仕方ない。たまにはメイド同士の付き合いのようなものもあるのだろう」
それでもやはり、彼女は器が大きい。流石僕がお仕えしたいと思う主人だ。彼女の優しさに少し心は痛むが、今日は出かけさせてもらう。
「お許しいただきありがとうございます」
「帰りは何時ごろになるんだ?」
「夕飯までには帰るつもりです」
「わかった、楽しんできたまえ」
「ありがとうございます、サラ様はアデーレと会ったりはされないのですか?」
「アデーレ? なんで私があいつと会わないといけないんだ?」
「別に会わないといけないというわけではありませんが……」
「冗談だ」
本当に冗談だったのだろうか? お二人は表面上は仲良くなさそうにしているが、本当は仲がいい……はずだ。
「ただ、私も学校で疲れているからな。今日は一日部屋でゴロゴロとしているつもりだ」
「かしこまりました、できるだけ早く帰ってきます」
「別に私のことは気にしなくていいぞ」
「……ありがとうございます、それでは行って参ります」
家を出る前のことを思い出し、今にも泣きそうなアデーレが可哀想なので僕の方から助け舟を出してあげることにした。
「そういえばサラ様が今日は一日中家でゴロゴロしているとおっしゃっていたので、アデーレから声をかけてくれたらもしかしたら応じてくれるかもしれませんよ」
「ほんとですの!?」
目を輝かせたアデーレは一直線で魔法学校の方へと向かっていく。
「アデーレ様! 急に押しかけるのではなく、アポを取ってからにしてください!」
パオラさんが彼女に声をかけるが、聞こえていないのかそのまま走り去ってしまった。
「それでは私たちも始めましょうか」
「よろしくお願いします! パオラ先生!」
「先生はやめてください……」
僕たちは建物の中に入っていくのだった。