番外編3「夢」
更新滞り、申し訳ありませんでした。
明日からは毎日更新再開します。
活動報告に更新しなかった理由(言い訳)が載っております。もし、時間がありましたら読んでくださると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
あまり眠くはない……つもりであったが、身体が熱を持っていたからかいつの間にか眠りに落ちていた。
僕はベッドに寝ていて、女の子がキッチンで何かを作っている。その子は黒い髪を腰の下まで長く伸ばしており、とてもエプロン姿が似合っていた。
しばらくその後ろ姿を眺めていると、料理が完成したようで僕の方へと彼女が向かってきた。
「ーーーー、ご飯できたよ」
「ありがとう、ーーーー」
差し出された器の中にはお粥があり、とても美味しそうに見える。
「自分で食べれる?」
「大丈夫だよ」
れんげでお粥を掬う。息を吹きかけて、少しずつ冷ましていく。
十分に冷ましたと思ったところで、口に運ぶ。
少し冷ましすぎたかもしれない。
「どう?」
彼女が少し不安そうに僕の顔を覗き込む。
「とっても美味しいよ」
「ほんと? 嬉しい」
彼女が頬を綻ばせるのを見ると、僕も嬉しくなる。
「ーーーーがそう言ってくれるなら、また作ってあげるね」
「ありがとう、ーーーー」
「今のは……」
「大丈夫か?」
気がつくと僕のことを見下ろしているサラ様の顔がすぐ側にあった。彼女はベッドの横に椅子を持ってきて腰掛け、僕のすぐそばにいてくれたみたいだ。
「寝て少しは楽になったか?」
「今、クロは寝ていたんでしたっけ」
自分が今まで寝ていたという自覚がなかった。
「何を言っているんだ、普通に思い切り寝ていただろう」
「そうですか……」
言われれば、今と違う場所だし、そこにいたのはサラ様でもなかったし、夢だったのは確かだと納得することができた。
夢、というには見ていた光景がリアルだったけれど。
しかも、目を覚ました今でも明確に思い出すことさえできてしまう。
「何かあったのか?」
「いえ……」
「今はあまり調子も良くないんだ。何かあったら些細なことでも教えて欲しい」
何もないと言おうかとも思ったが、彼女に心配ばかりかけるのは僕の本意ではない。彼女が納得してくれるところくらいまでは話すべきであろう。
「……夢を見ていました」
「夢?」
「はい」
「一体どんな夢だったんだ?」
「今と同じようにベッドに寝ていたことはおぼえているんですが、それ以上は思い出せなくて」
僕は、夢の内容を正直に話すことができなかった。
いや、あれは恐らく夢ではない。僕の前世の記憶なのだと思う。証拠があるわけではないが、かなり確信に近いものを感じていた。
別に僕とサラ様は恋人関係にあるわけでもない。隠す必要なんてないのに、僕は自分に彼女がいたことを話したくないと思ったのだった。
「そうか、まぁ無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます」
僕がまだ目覚めても万全というわけにもいからないからか、彼女は少し残念そうな表情をしていた。
「ですが、痛みはだいぶマシになりました。これもサラ様のおかげです」
「そうか、それは良かった」
サラ様の表情が少し明るいものになる。
彼女は僕に起きたことをいいことでも悪いことでも、自分のことのように受け止めてくれる。
そこは本当に彼女の素晴らしいところだと思うし、僕からしたらとても嬉しいことでもある。
「私はこの前アデーレに勧められた小説でも読んでいるから、何かあったら声かけてくれ」
「かしこまりました」
「君も今起きたばかりだし、寝れないだろう? いくつか押し付けられたんだ。読んでみるか?」
「では、せっかくですので」
「少し待っていてくれ」
彼女はそう言うと立ち上がり、鞄の中から一冊の本を取り出してくる。
「これなんかどうだ?」
「『私をここから連れだして』?」
なんか王子様とかに連れ出されたりしそうなタイトルだ。
「なんとなく内容が想像できるだろう?」
「なんとなくはわかる気がします」
「恐らく、君の想像に近い話だと思う」
「面白かったんですか?」
「中身は結構面白かったぞ。ただ、ジャンルがジャンルだからな。アデーレが好きって感じの話だ」
「なるほど、わかりました」
あまり好きな話の種類ではないと思われるが、彼女が面白いというのなら面白いのだろう。
彼女の言葉を信じて、読んでみることにする。
「終わりました」
「どうだった?」
サラ様は読んでいた小説を中断させて、僕に尋ねてくる。彼女は今の小説を途中から読み始めていたので、僕の方が読むスピードは早いようだ。
「二人の王子に取り合いにされるという展開が好きというわけではありませんでしたが、最後の婚約者であった王子がもう一人の王子に主人公である姫を託すシーンは良かったですね」
中身が男であるからか、あまり王子に対してはドキドキすることができなかったが、王子の間にあったホモソーシャル的関係性については色々と面白いと思える部分があった。
「流石、よくわかっているじゃないか。自分の婚約者を他の男に託すなんてきっと辛いことだろうが、それができるくらいに二人の王子の間には絆があったんだと感じさせられたな」
彼女も僕と同じようなところにこの話の魅力を感じていたらしい。
「サラ様は王子様に取り合いにされるとかいうことを夢見たりはしないんですか?」
僕が尋ねるとサラ様は少し唸ったあと答えてれた。
「全く興味がないと言えば嘘になるが、アデーレみたいにそれに憧れているわけではない。私は愛されるより愛する方が好きだしな」
僕からでもかっこよくて惚れてしまいそうになるセリフを彼女は簡単に言ってのける。
やっぱりサラ様はとても素敵で魅力的だ。
夜からは僕の体調も復調し、トイレでのあれこれと薬を飲む以外はいつも通りの生活に戻ったのだった。
YouTubeの女主人公作品紹介チャンネルで紹介されててビビりました。ありがとうございます。




