7.奴隷の朝はそこまで早くない
「ふわぁぁ〜」
目を覚ますと見慣れてはいないけど、見たことはある天井が目に入る。ここは昨日契約を終えた後にサラ様に運んでもらった部屋だ。
昨日はあのまま彼女と一緒にご飯を食べに行って、想像通りの豪勢な食事を頂いた。
しかし、アガタさんにこの待遇は今日だけであることを念押されてしまった。サラ様が反対してくれていたが、それでもアガタさんが折れることはなかった。
アガタさんには怒られないように注意しなければ。
そのあとは一人でお風呂に入り、サラ様の部屋までおやすみの挨拶をしに行ってベッドに入った。
ベッドに入ってからの記憶はないのですぐに寝てしまったのだろう。
時計を見ると6時過ぎを指していた。
昨日、部屋にある服を着て6時半には厨房まで来るようにアガタさんに言われていた。
急いで顔を洗うと部屋のクローゼットを開ける。
「やっぱり……」
そこに入っていたのは予想通りメイド服であった。しかも、アガタさん達が着ているのと違って少し裾が短いような気がする。
もうどうにでもなれと着替えた僕は厨房へと向かう。
「おはようございます」
すでに多くの使用人が厨房周りを忙しなく動いていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
やはり人間を快く思ってないのか、全員私の方を見るだけで何も言わない。それとも忙しいからだろうか。
「おはようございますクロさん」
そこに現れたのは唯一名前を知っているアガタさんだった。
「おはようございますクロさん、ぴったり五分前です。素晴らしい」
「ありがとうございます」
五分前を狙っていたわけでもなく、起きてから急いできただけなんだけどちょうどいい時間だったらしい。
アガタさんのことを厳しそうな人だと思っていたが、きちんと褒めてくれるのか。僕が一番褒めて欲しいのはサラ様だけどやる気がちょっと上がった。
「朝食はそこに用意してあるので、召し上がってしまってください」
厨房の中に小さな椅子が置かれており、その前にベーコンと目玉焼き、食パンにサラダと典型的な朝ごはんが用意されている。
「わかりました」
私は椅子に座り、手を合わせる。
「いただきます」
この行為が人間独自のものではないことは昨日サラ様を観察してわかっている。
珍しい料理があるわけではないので特に驚くことはないが、普通に美味しい。流石にプロが作っているだけのことはある。
食べ終えた頃には時計は6時50分を指していた。
「ごちそうさまでした」
食器を洗おうと流しに持っていこうとすると、再びアガタさんが現れた。
「こちらは大丈夫なので、クロさんはサラ様を起こしに行ってください」
「はい、それではサラ様を起こしに行ってきます」
食器をアガタさんへと預けた私はサラ様の部屋へと向かった。
「おはようございます」
廊下ですれ違った少女に頭を下げる。サラ様より更に幼い見た目をしていたその子は、サラ様ほどではないが可愛らしい見た目をしており、綺麗なプラチナブランドの髪をツインテールにしていた。
「おはよー、君がお姉ちゃんの新しい奴隷?」
「……はい、昨日からサラ様に仕えさせていただいているクロと申します」
「へークロちゃんって言うんだ。私の名前はレア、これからも会うことあるだろうけどよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
彼女はそれだけ言うと、僕が歩いてきた方へと歩いていく。食堂に向かうところなのだろう。
彼女の後ろ姿には見た目以上に大きなものを感じたが、早くサラ様を起こさなくてはと思い、歩を進めた。
彼女の部屋につき、ノックをするとすぐに返事がある。
「はーい」
「おはようございます、サラ様」
「おはよう、クロ」
「サラ様、朝食のお時間です」
「わかったわ、入ってきてくれる?」
「失礼します」
僕が部屋に入ると彼女は下着姿で腕を組んで待っていた。
「何故服を着られていないのでしょうか……」
初めて見た彼女の下着姿は凛々しく、幼いながらに色気があった。肌にはシミも傷もひとつもなく、芸術品のようで、神々しさまで感じられた。
ずっと見ていたかったが、それも失礼だと思って目を逸らしながら尋ねる。
「クロに着せてもらうのを待っていたんだが」
悪気が全くないのがわかるほど呆気からんと言われてしまうと、言い返すこともできない。
「わかりましたから早く来てご飯に行きましょう、どれを着るんですか?」
「そこのクローゼット中からクロの好きなものを選んでくれ」
クローゼットを開くが、どれを選べばいいのかなんてわからない。迷っていても仕方ないので目についたものを手に取る。
「これでよろしいですか?」
「それを選ぶのか、クロはいいセンスしてるな」
「ありがとうございます」
四苦八苦しながらも、彼女に服を着せることに成功する。サラ様の服は複雑怪奇でリボンで結ぶところも多く、なかなか大変であった。
「お疲れ様」
サラ様からねぎらいの言葉をかけられる。本当に彼女は気遣いが上手い。
「とてもよくお似合いです」
「ありがとう、クロもメイド服可愛いよ」
「っ、ありがとうございます」
可愛いと言われるとは思っていなかったので、少し驚いてしまう。
「それでは行こうか」
「はい、サラ様」
彼女について食堂へと向かうと既に五人が席についていた。
先程廊下ですれ違ったサラ様より幼い少女と姉のように見えるのが二人、そして兄と父親と思われるエルフが見える。
姉のように見えるどちらかが母親なのだろうか。
一斉にサラ様を見た後に僕の方を見てくる。レア様以外は険しい目をしていた。
「大丈夫だ、クロ。私がついている」
私の前に立って視線を遮ってくれる、彼女が私の主人であることが嬉しかった。
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