再開×2
最近時間が取れず、しばらく1日1話投稿、可能であれば2話投稿にします。
更新減ってしまい申し訳ありませんが、ご了承ください。
教室はとても広く軽く百人は入りそうな大きさであった。
しかし、そこにいたのは見覚えのある赤髪の青年だけであった。
あまりいい印象はなかったが、同じクラスになるのに初日から挨拶なしというわけにもいかない。
「おはようございます」
「…………」
サラ様は根に持っているのか挨拶をする様子はない。
「おはよう、クロちゃん」
とてもいい笑顔を僕の方に向けてきたのは、以前レストランの前で僕を勧誘してきた彼だった。
パッと見では確かにイケメンだと思うし、この笑顔で落ちた女の子は何人もいるだろう。
幸か不幸か僕は中身は女の子ではないので、イケメンの笑顔を見ても恋に落ちたりはしないのだけれど。
「僕のこと覚えてる?」
覚えてはいる。存在は。
けれど、名前が思い出せない。
思い出せないがなんとか誤魔化すことはできるだろう。
「は、はい」
「よかった〜、クロちゃんに忘れられてたらどうしようと思ってたよ」
そう言ってウインクまでしてくる。流石にきついなと少し思ってしまうが、顔を顰めてしまわないように努める。
「ははは……」
僕はもう苦笑いしか出てこなかった。
「そういえば昨日と一昨日の試合見てたよ。君、本当に強いんだね」
「ありがとうございます」
彼に対してあまりいい印象はなかったが、それでも褒められて悪い気はしなかった。
「まさか優勝するほどとは」
「当たり前だろう」
サラ様が鼻を高くして、彼に言う。
「確かに君の言う通りだった。彼女は強い。だが、君もすごかったじゃないか」
「…………」
「まさかアデーレに勝つとは。そのあと自分の従者に負かされちゃったけどね」
「どうしてあなたはずっと上から目線なんでしょうか?」
サラ様がイライラを隠さずに彼に突っかかる。
「だって僕、君たちの先輩だよ?」
「確かに先輩かもしれませんが、私はあなたの方が強いとは思っておりません。魔法が全てというものがこの国の考え方なのでは?」
「全て……とまでは思ってないけど、先輩後輩より強弱の方が大事っていうのは僕も同感だ」
彼の目つきが急に鋭いものになった。さっきまでの軽い雰囲気と違い、いきなり空気が張り詰める。
「まぁ近いうちに僕の魔法を見せる機会は来るだろう」
直後、彼はそれまでの雰囲気へと戻った。
「それで話は考えてくれた?」
「話?」
「僕の元に引き抜かれてくれないかって話だよ」
まだその話続いてるつもりだったのか。
「そのお話はお断りしたはずですが」
僕より先にサラ様が口を挟んできた。
「君じゃなくてクロちゃんに聞いてるんだよ」
けれども彼はそれをひらりとかわす。
しかし、僕もサラ様の元を離れるつもりは一ミリもない。
「すみません、クロもサラ様の従者を辞めるつもりはありません」
「んーそっか、じゃあまた聞くね」
「また聞かれても答えを変えるつもりはありませんが……」
「今は僕のこと全然知らないでしょ?」
まぁ名前も覚えてませんしね。
「これから同じクラスになるからお互いのことを知っていけば気持ちも変わるかもしれないよ」
「は、はぁ」
彼の強引さに、それ以上強く否定することもできなかった。変わるつもりはないけれど。
「そういえばアデーレは?」
さっきも思ったが、彼女のことを呼び捨てにしているのを僕とサラ様と彼女の父以外に初めて見た。
彼女はそういうことに寛容そうだが、彼がアデーレが会いたくないと言っていた人物なのだろうか。
「アデーレをご存知なんですか?」
「ご存知……というか、アデーレは僕の妹だよ」
「妹……」
彼女と同じ目立つ赤髪、確かに顔はどことなく似ている気はする。
「それでどうしてこないのか知ってる?」
「彼女なら……」
本当のことを言ってしまっていいのか悩む。従者がいないからとごねていたなどと言うのは彼女のイメージダウンになってしまうのではないかと。
兄だから知っているかもしれないが、どうしようと悩んでいるとサラ様が代わりに答えた。
「彼女は体調不良で欠席だ」
「……そうか、後で会うようならお大事にと伝えておいてくれ」
「会いに行ってあげないんですか?」
「僕はあいつに嫌われているからね」
本人に嫌われている自覚はあったのか。
少し何があったのかは気になるが、部外者があまり積極的に関わるのも違うと思うのでそれ以上聞かないでおく。
「それより、始業からだいぶ経っているはずだが教師やもう一人の学生は来ないのか?」
「教師の方はいつも遅れて来るのさ。流石にそろそろ来ると思うけど」
「三年生の方は?」
「来たり来なかったりなんだよね、流石に今日は初日だから来るようには言ったんだけど」
「来たり来なかったりでいいのか?」
「そういうクラスだからね。まぁ初日から来ないアデーレは流石にどうかと思うけど、体調が悪いというのなら仕方ない」
話していると教室のドアが開き、一人の人物が入って来る。
「お待たせいたしました、サラさん、クロさん、お久しぶりですね」
現れた教師は入試の時の紫色の髪をしたおばあさんだった。




