54.パオラパオラパオラ
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別にパオラさんのことを忘れていたつもりはなかった。けれど、なぜか彼女がエレメンタルクラスに配属されていない可能性を考慮できていなかった。
アデーレが浮かない表情をしていたことも、サラ様が言いづらそうにしていたことも納得が行った。
彼女と準決勝で試合をして、とても強かったから当然エレメンタルクラスに選ばれると思っていた。
確かに彼女は固有魔法が強力であるものの、基本魔法については確かにたりてない部分があったかもしれないことは否定できない。
彼女だけが別クラスになることは残念であった。けれど、いつも一緒にいたアデーレの方がショックは大きいだろう。アデーレはいつもパオラさんに色々と言われていたが、彼女のことを信用していることは近くにいるだけでわかったくらいだ。
「アデーレ様!」
「アデーレ様おはようございます!
「今日もお美しい!」
後ろが騒がしくなってくる。
彼女たちがやってきたことが、振り返らずともわかってしまう。
「おはようございます、アデーレ、パオラさん」
僕は振り返って彼女たちに挨拶をする。
「ええ、おはようございます」
「おはようございます」
アデーレは片手を軽く上げながら、パオラさんはお辞儀をしながら挨拶を返してくれる。
「おはよう、パオラ。それとアデーレ」
「えぇ」
いつもならアデーレが「どうしてわたくしがおまけなんですの!?」とか言いそうなところであるが、今日の彼女はそうならない。
いつもの当たり前がないことこそが、一番今日がいつも通りでないことを感じさせる。
二人はクラス分けを見るが、何も言わない。
恐らく数秒しか経っていないが、その無言の時間はとても長く感じられた。
なんて声をかければいいのだろうか。
何を言っても慰めにならない気がして声をかけることができない。
サラ様も二人を見つめながら、何も言わない。
沈黙を破ったのはパオラさんだった。
「まぁ、仕方ありませんね」
「…………」
誰もその言葉に返す言葉がない。
「みなさんもなんでそんな暗い感じになってるんですか。別に私が死んだわけでもないのに。あ、私が死んだ時は盛大に見送ってくださいね。お金かけて大規模に」
「……パオラ」
アデーレが心配そうに彼女の名前を呼ぶ。
「すみません、アデーレ様。従者でありながら、常にあなたの傍にいることができなくて」
「それは別に構わないですけどあなたが……いえ、構いますけど、わたくしのことより」
パオラさんはアデーレの言葉には返事をせずに、サラ様と僕の方を見て頭を下げて言う。
「サラ様、クロさん、日中のアデーレ様をよろしくお願いします」
彼女は言葉を続ける。
「確かに魔法の才能には恵まれていますが、それ以外はただの年相応……いえ、年齢より精神年齢は幼いです。もしかしたら、私がいないと急に泣き出したりすることもあるかもしれませんが、どうか、お願いします」
「あぁ」
サラ様がパオラさんのお願いに了承の意を示す。
その返事を聞いたパオラさんは頭を上げる。先ほどより少し表情が明るくなっていた。
「それでは行ってきます、アデーレ様。また放課後に」
彼女は振り返ることなく校舎の方へと進んでいってしまった。
「パオラ……」
「彼女も言っていたが、今生の別れというわけでもあるまいし、いつまでもグズグズしているな。そんなんではいつまでも私に勝てないぞ?」
パオラさんが去った後、僕たちは三人でエレメンタルクラスへと向かっている。
しかし、いつまでたってもなかなか立ち直らないアデーレにサラ様が発破をかけていた。
「パオラ……」
けれど、今のアデーレに効果はなく、いつまでもパオラさんを呼んでいる廃人みたいになってしまっている。
「どうすればいいのでしょうか?」
「私が知るわけないだろう」
僕とサラ様はどうすればいいのかわからなくなってしまっていた。パオラさんに頼まれた手前、いや、頼まれていなくても彼女を放っておくことはなかったが、どうにかしてあげたいとは思う。
「そういえばサラ様はエレメンタルの火の席に座る方とお知り合いなんでしたっけ?」
彼女の身体がピクリと反応した。
「……ですわ」
「え?」
「……たくないですわ」
「なんでおっしゃいました?」
「行きたくないですわ!」
まだ初日だというのに彼女はそう言い出した。
「一体どうしたんですか?」
「パオラがいないだけでなく、あいつがいるなんて無理ですわ。わたくし、しばらくお休みさせていただきます」
アデーレはそう言うと、今まで来た道を引き返そうとしていく。
「ちょっと待ってください」
僕は彼女の腕を捕まえて、逃げないようにする。
「事情をわかってなくて申し訳ないですが、とりあえず行くだけ行きません? 初日ですし」
「初日でも無理なものは無理ですわ」
「なんでそんなに……」
その時、始業を伝える鐘の音が響き渡った。
「もう始まっちゃいますよ」
「だから行かないと言っているでしょう」
どうしたら彼女は来てくれるのだろうかと思考する。
サラ様が口を割って入ってきた。
「行きたくないというのなら仕方ない。私たち二人だけで行こう、クロ」
「ですが」
「パオラには後で謝ればいい。アデーレのわがままのせいで私たちまで授業を受けられないというのはおかしい話だ」
「サラ様……」
サラ様にしては厳しい態度だと感じるが、それを論じている時間はない。
「命令だ、アデーレを離して私についてこい」
「……かしこまりました」
僕が腕を離すとアデーレは去っていってしまった。
「サラ様」
「今の彼女をどうにかできるのは、パオラしかいない」
それは僕も同意見だ。
「私たちは私たちのするべきことをしよう」
「はい、サラ様」
初日だというのに僕たちは暗い雰囲気のまま、教室へと入っていくのだった。
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