s9.いつか君に
久しぶりの13時更新
「ありがたいことですが、えっと」
彼女は未だに状況を飲み込めていないようだ。
何があったか理解はしたが、どうすればいいのか分かっていないようで、落ち着かない。
ただ、ありがたいことだと思ってもらえてることは嬉しかった。
しかし、そんな様子を見ていると私の方が恥ずかしくなってきてしまい、彼女に言ってしまう。
「君は何か勘違いをしていないか?」
「え?」
「今のは親愛のキスだぞ。人間の風習には存在しないのか?」
「親愛?」
「あぁ、私はクロのことをとても大切に思っているということの証明のキスだ」
当然、そんなことはない。少なくともエルフの国と精霊の国にそんな習慣はない。
私のキスの真意を隠すためについた嘘。
「…………」
彼女は私の言うことを信じてくれたのか、少し寂しそうにしてくれたものの、落ち着きを取り戻していった。
「いや、こちらが悪かったな。君の中身が男であるということを考慮していなかった。異性であればそのような反応をするのも当然か」
私は親愛のキスであった体で話を続け、その話の信憑性を高めていく。
「……いえ、サラ様が謝る必要はありません」
「……そうか」
「……はい」
「…………」
「…………」
お互いに次の言葉が出て来ず、気まずい空気になってしまう。
クロが残念がっているのは分かっていたが、そのキスの意味するところが親愛ではありませんなどと今更言う勇気は私になかった。
そこで、私は今日の罰の終わりを告げた。
「すまない、今日はここまでにしよう」
「かしこまりました」
私たちはそれから特に会話をせず、ベッドに入った。
私は唇を指でなぞる。
さっき、私はキスをしてしまった。人生で初めてのファーストキスを。いや、人生で初めてでないファーストキスなどないが。
しかも、それも自分が好意を寄せる相手と。
それも、自分から。
もう、私の中で嘘をつくのはやめよう。
私はクロのことが好きだ。
親愛の情もあるが、彼女に今感じている情は恋愛の情だ。
女の子同士であることなど、全く私にとって問題ではなかった。
特別、女の子に対してでないと恋愛感情を抱けないということはないと思うが、私はずっとかっこいいものより可愛いものが好きだった。
きっと恋愛の好みもそういうことなのだろう。
私が王になって、エルフの国で同性婚を認めさせればいい。
けれど、私から求めることはできないとも思う。
私は彼女の主人でもある。私が迫ってしまえば、彼女は断ることができない。
自分の想いを成就させたくないなどと思ってることは一ミリもないが、立場を利用して無理やり迫るのは違うと思ってしまう。
あくまで、彼女に求めてもらいたい。
彼女が奴隷と主人という立場を超えて、私を求めて欲しい。
ハッキリ言って彼女に恋愛的な意味でも好かれている自信はある。
彼女の恋愛対象は女であるらしいし、先程のキスも嫌がられることはなかった。
けれど、彼女がそれを恋愛感情だと認識しているか、認識しても私を求めてくれるのかは別問題だ。
彼女はキスもしたことないというから恋愛経験もないのだろう。
クロが恋愛脳であればすぐ気づくかもしれないが、今は新しい生活、いやそもそも新しい世界のことで頭がいっぱいであろう。
そうであればそのことを意識するのには時間がかかってしまうかもしれない。
また、彼女は変なところで真面目だから奴隷が主人に対して恋愛感情なんて不相応だと考えてしまうかもしれない。
実際、奴隷との恋愛など聞いたことがないのも事実だが、彼女と共に新しい歴史を作っていけばいい。
彼女がそんな立場の垣根を越えるほど、私のことを強く求めて欲しいと思う。
仮にクロとお互いの気持ちを確かめ合って、求め合うことができるような関係性になったとしても、奴隷と主人という関係をやめるつもりはない。
彼女が裏切ると思っているわけではないが、彼女を縛り付けることができる今の立場に私は強い安心感を覚えているからだ。
また、クロに罰を与えるのが楽しいからということもある。こちらに関しては、彼女もあまり嫌がってなさそうなので、頼めば受け入れてくれそうな気はするけれど。
私はいつまで我慢できるだろうか。
自分から求めるのはずるいと思い、彼女に求めてもらいたいと言う気持ちはあるが、それに負けないくらいクロとイチャイチャしたいという気持ちはある。
おはようのキスで起こしてもらって、いってきますのキスをして、おかえりなさいのキスをして、おやすみのキスをする。
……私はキス魔か何かなのか?
もちろんもっと進んだことをしたいと思う。
ただ、あーんをして食べさせたり、着替えを見たりなど恋人がすることの一部は既にしてしまっている。
そうするとやっぱり夢見るのも、ちょっと恋人らしさが濃いものになってしまう。
「クロ……」
私は先程のクロの下着姿を思い浮かべながら、自分自身を慰めるのだった。
ブクマ、評価ありがとうございます




