52.その意味
寝る前にもう一度更新入れます。
「今から何をするかわかるか?」
「いえ、わかりませんけど……」
「君に罰を与えようと思う」
またですか……。
食事を終えた僕たちは部屋へと戻り、二人ともシャワーを浴び終えていた。彼女はベッドに腰掛け、僕はその前に立っていた。
「何かサラ様のご意向に沿わないようなことしましたか?」
「私に勝っただろ」
なかなか理不尽な理由で僕を罰しようとしてきた。
「それはサラ様のご命令でしたので」
「それでも私が悔しい思いをした。私がクロに罰を与えるのを楽しみにしていた。これだけで君が罰を受ける理由には十分ではないか?」
「……かしこまりました」
結局、理不尽であっても主人の意向に逆らう権利は僕にはない。
「それ昨日の夜、また僕と言っていたしな」
言ったかどうかは正直覚えていないのだが、感情的になって話してしまっていたので、言っていた可能性はある。
「本日は何をすればいいのでしょうか?」
「とりあえず脱げ」
「…………」
彼女はどうして僕に服を脱がせたがるのだろうか。
たしかに恥ずかしいから罰にはなっていると思うが、同性の彼女が見て楽しいのかと疑問に思うことがある。
僕は内面が男なのでサラ様の身体に興味がないと言えば嘘になるが、僕がそんなことを要求できる立場にはもちろんない。
恥ずかしい……とは言ったが、そこまで嫌かというとそうでもない。自分に露出癖があるとは思いたくないし、サラ様以外には見られたくないが、彼女に求められるのは嫌な気分ではなかった。
制服を脱いで、下着姿になる。
鏡に映る自分の姿を見ると、自分の身体のはずなのに少しイケナイ気持ちになってくる。
「これでよろしいでしょうか?」
流石に裸を晒す勇気はないので、下着姿で主人に確認を取る。
「まぁいいだろう」
彼女から許可を得て、服を脱ぐ手を止める。
「何をされても直立不動の姿勢をとっていろ」
サラ様に指示された通りの姿勢をとり、何をされても動かないように覚悟する。
ちょん。
「ひっ」
彼女の指が僕の脇腹に触れ、身体がビクリと震える。
「そのまま動くなよ」
そのままサラ様はお腹で円を描くように指を動かし続ける。くすぐったくて動いてしまいそうになるが、なんとか堪える。
「君のお腹はとても綺麗だな」
冷静に考えればお腹がきれいというのは意味がわからないが、まともに思考ができない僕はそれを嬉しく感じてしまった。
「……あっ、りがと……うごさまあす」
「クロはすごい声を出すな……」
それでも彼女の指は止まらない。
「ふぁっ……」
「…………」
「ひゃぁ……」
「…………」
声が出てしまうのも恥ずかしいのだが、サラ様がさっきから黙っているのが余計に辛い。
一人で声を出している僕が馬鹿みたいになってしまう。
無防備に晒した腹を触られて、変な声を出しているのが馬鹿でなくなんなのかと言われると困ってしまうところではあるのだが。
しばらく僕としてはなかなか辛い時間が続いた。
「前戯はこのくらいでいいか」
「ぜんぎ……?」
「失礼、準備? 前哨戦? と言えばいいのだろうか。今日やりたかったことはこれではない」
正直かなり今ので色々と疲れてしまったのだが、彼女がやりたいことが別だというのならば付き合うのが僕の役目だ。
「一体何が今日のメインなのでしょうか?」
「私の足にキスをしてもらう」
少しずつ彼女の要求がハードになってきている気がするのは僕の気のせいだろうか。
「キス……ですか?」
「足の甲にだ」
足にキスというのは隷属の証という感じがする。僕は奴隷なのだから、そう考えるとそこまでおかしいことではないのかもしれない。
実際、彼女の足にキスをすること自体は構わないのだが……。
なかなか行動に移せない僕に彼女が言ってきた。
「もしかして、クロはキスの経験がないのか?」
「……お恥ずかしながら、覚えている限りでは」
「……なるほど」
「少し目を瞑っていろ」
「わかりました」
一体何をされるのだろうかと思っていたら、唇に柔らかい感触がした。
「っ!!」
急なことに目を開くと、離れていく彼女の顔が僕の目には映っていた。
「目を瞑っていろと言っただろう」
「で、ですが」
「ですがも何もない。私の命令にはきちんと従え」
「い、今のは?」
僕は突然のことになかなか落ち着くことができない。
「私が君のファーストキスを奪ってあげただけだ。流石に最初のキスが足というのも可哀想だろう」
「ありがたいことですが、えっと」
目を瞑っている間にキスをされるなんてのはベタなことだとは思うが、まさか今そんなことになるとは思ってもみなかった。
確かにキスの話はしていたが、それでもそういう発想には至っていなかった。
あまりの急展開に頭が追いついていかない。
僕にキスをしてくれたってことはもしかしてサラ様は……。
「君は何か勘違いをしていないか?」
「え?」
彼女はさっきからとても冷静に話を進めてくる。
「今のは親愛のキスだぞ。人間の風習には存在しないのか?」
「親愛?」
「あぁ、私はクロのことをとても大切に思っているということの証明のキスだ」
「…………」
キスの理由には納得し、少し落ち着きを取り戻したが、同時に少しだけ物足りない、寂しい気持ちになった。
「いや、こちらが悪かったな。君の中身が男であるということを考慮していなかった。異性であればそのような反応をするのも当然か」
「……いえ、サラ様が謝る必要はありません」
「……そうか」
「……はい」
「…………」
「…………」
お互いに次の言葉が出て来ず、気まずい空気になってしまう。
先に口を開いたのは彼女だった。
「すまない、今日はここまでにしよう」
「かしこまりました」
僕たちはそれからろくに会話することもなく、眠りについたのだった。
ブクマ、評価ありがとうございます