50.あなたより強くありたい
一周してしまいましたが、昼更新できました。夜も投稿します。
「それが君の本気か?」
「……本気でやっています」
サラ様は僕を挑発しているのだろうか。
「……そうか」
彼女は僕の返事に悲しそうに答える。
楽しみにしていたのだろう。準決勝のようなお互いの全力を振り絞る試合を僕とすることを。
それに応えられていないことをとても申し訳なく思う。
しかし、僕も手を抜いているつもりはない。理由はわからないが、力が出ないのだ。
腹と足が痛すぎて立つこともままならない。
悔しい。
彼女の相手すら務まらないことが。
こんなザマでは僕が彼女の役に立つことなどあるのだろうか。仮に彼女には及ばなくても、近いところまでいければ何かあった時に彼女を助けられるかもしれない。
けれど、ここまで大きな差があっては僕が何かできる時などないのではないだろうか。
そして、準決勝のサラ様とアデーレのような試合をできないことが。
あの試合、皆が心を昂らせたであろう。
魔法の才に溢れている者はいつか自分がああなりたいと思い、魔法の才がない者でも再び同じような舞台を見たいと願うだろう。
僕もあの二人みたいになりたいと思ってしまった。
一度、アデーレには勝ったことがあるしなれると思っていた。
けれど、それは僕の思い上がりであったことを強く実感した。
どうしてあの時のような力が出せないのか。何が足りないのか。わからない僕は悔しいと思うことしかできない。
もう今の僕にできることはない。
「申し訳ありません、サラ様」
彼女の期待に応えられないことを謝罪する。
するとサラ様は悲しそうな表情を厳しいものへと変化させて言った。
「言い方を変えよう。私を倒してみせろ」
直後、僕の腹と足が今までの速度とは比にならないくらいの早さで治っていくのがわかった。
調子がいい時と同じような感覚になっている。
「あいつ怪我が治ってるぞ」
「もしかして回復魔法を使えるのか?」
「そんな凄い魔法が使えるなんて」
観客が僕の回復魔法を目の当たりにして驚いている。
サラ様の許可を得たから使えているのだが、本当に大衆の前で使用してよかったのだろうか。
いや、それは今考えるべきことではない。
自分を倒せとサラ様に言われた。
それを全うすることが今の僕の最優先事項だ。
僕が彼女に勝るところはさっき考えたところと変わっていないはずだ。
それであれば僕がするべきことは変わらない。
肉弾戦に持ち込むことが一番僕に勝ちの目がある戦い方であると決めて、飛び込もうとする。
その時であった。
土でできた大きな龍が僕へと向かって迫ってくる。
アデーレ戦で見せた時の……いや、その二倍はあろうかという大きさである。
僕が回復させる時に用意していたようだ。
あれだけ時間を与えてはダメだと最初に意識していたはずであったのに、彼女に時間をかけた魔法を発動する隙を与えてしまった。
回復しなければ動けなかったので、回復したこと自体は間違いではなかったと思いたいが、他の魔法でちょっかいを出してもよかったかもしれない。
そもそも魔法というのは同時に発動できるものなのだろうか?
先程の風魔法と土魔法による接近戦も、土魔法で身体を覆う直前に風魔法を解除することによって発動していた。
誰も同時に発動しているところを見たことがないかもしれない。
今は目の前の龍を止めることを考えなければ。
考えるといっても、あれだけの大きさであれば躱すというのは現実的ではないだろう。
それに彼女の魔法と正面からぶつかってみたいという気持ちがあった。
だから僕には正面から止める以外の選択肢はない。
僕ができる最大の威力で氷魔法を発動させる。自分の前に氷の山、氷山の一角のようなものを出現させる。
土の龍が大きな音を立ててぶつかってくる。
その音で氷山が突破されることを理解した僕はもう一つ同じものを出現させる。
……おそらくこれでも彼女の魔法を止めるには至らないだろう。
彼女は今も既に次の魔法の準備に入っているかもしれない。
だからこそ、今すぐにでも彼女に接近して本体を叩かなければならない。
僕は彼女の魔法を止めるのを諦めて、風魔法を展開し、近づくための準備を整える。
だいぶ威力は弱くなっていたが、僕は土の龍による攻撃を正面から受けた。
全身が痛むが、そんなことを気にしている余裕はない。
彼女へと全速力で近づき、蹴りを狙う。
しかし、彼女の反応は素早く、発動させようとしていた魔法を取り消し、先程と同じように自身も風と土の魔法で強化した蹴りで僕を迎え撃つ。
だが、先程と同じ結果にはならない。
彼女の身体が大きく吹き飛ぶ。
このチャンスを逃すわけにはいかないと、追撃しようとするが、土の塊が飛んできて追撃に失敗する。
この状況で自分に一番勝ち目が高い方法を考える。
間合いを取って時間をかけたら彼女に魔法の威力で負けてしまう。今から飛び込んでも迎撃体制が整ってしまっている今だと返り討ちにあう可能性が高い。
で、あればここで彼女と正面からぶつかり合って放出量の勝負をするのが一番結果がわからない。
僕は全ての力を振り絞るように、氷の魔法を発生させる。氷が僕の前から彼女に向かって凄いスピードで向かっていく。
彼女も同じ魔法で対抗してくる。
二つの魔法がぶつかり合い、お互いに押し合う形となる。
準決勝で見たサラ様とアデーレの正面からのぶつかり合い。それと同じような状況に今自分がいる。
それだけで嬉しい。けれど、僕は今日、彼女といい勝負をするためにここに来たのではない。
僕は彼女を守れるんだと証明するために来たのだ。だから、勝ちたい。
どのくらい、押し合っていたかはわからない。
けれど、決着はやってきた。
さっきまで壁と押し合っていたような感覚だったが、少しずつ僕が押し始めた。
少しでも気を抜けば押し返されてしまうかもしれない。
そう思い、全力で魔法を発動し続けていたが、それは審判の声によって止められた。
「止め! 勝者クロ!」
前を見ると下半身を氷に包まれた僕の主人が、こちらを見て笑っていた。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。励みになります。
今日でトーナメント回は終わります。




