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6.君に尽くす。あなたに尽くす。

 目を覚ますと見慣れない天井が目に入った。

 見慣れた天井が思い出せるのかと言われると思い出せないのだが。


「起きたか」


 彼女の透き通った声が聞こえる。

 体を起こして声の聞こえる方を向くと、窓際の椅子に腰掛けて風に髪を靡かせているエルフの美少女がいた。

 窓の外はもう暗くなっており、綺麗な月が見えていた。


「……はい、僕は何を?」


「奴隷契約の痛みで気を失っていたんだ。僕……については今は許してやるか」


 確かに最後の記憶はベッドに拘束されてお尻の激痛に耐えているところであった。

 とっさに手を伸ばしてお尻を触るがきちんと形は保たれているし、今は特に痛みは感じない。

 服は部屋着のようなラフなものを着せられていた。


「ここまでどうやってクロを運んだんですか? あと服は誰が着せてくれたのでしょうか」


 初めて自分のことをクロと呼んだ。


「やっと直ったな」


 彼女は嬉しそうに笑う。


「ここまで運んだのも私だし、服を着せたのも私だ」


 彼女にそこまでの筋力があるようには見えないが、どのようにして僕をここまで運んだのだろうか。


「私だって多少は魔法を使えるからな」


 僕が不思議そうに思っていることを見透かしたように彼女が答えてくる。


「そうでしたか、わざわざサラ様自らありがとうございます」


 頭を下げながら彼女に礼を言う。


「それくらいどうってことないさ。クロは奴隷契約に耐えてくれた。そんな君にならこれくらいどうということもないさ」


 サラ様は見た目は幼い少女でしかないのに、中身は僕より歳上のような気がするほどしっかりしている。その在り方はかっこいいとさえ思う。

 僕はそんな彼女に惹かれたのだ。


「身体に異常はないか?」


「はい、痛みは完全になくなっています。何か跡などが残っているのでしょうか?」


「自分で見てみるといい」


 僕は鏡の前に後ろ向きで立ち、自分のお尻を確認する。

 しかし、そこにはなにも無く、先程の激痛が嘘のようだ。


「よく見ていろ」


 彼女がそう言って目を瞑ると、僕のお尻に青白い不思議な紋様が浮かび上がってくる。


「これは?」


「それが奴隷契約の証である、奴隷紋だ。私が君から魔力を借りるとその紋様が表れる」


「なるほど……」


 普段は目に見えないが、きちんと奴隷の証が刻まれているのか。

 そして、彼女が魔力量が多い僕を奴隷にしたがった理由もわかった。桁外れに多いらしい僕の魔力を利用しようということだろう。


「一つ勘違いをしていそうだから今のうちに訂正しておこう」


「勘違いですか?」


「私は君の魔力を借りたいために奴隷にしたかったわけではないぞ」


「そうなんですか?」


「私も魔力量は少なくはないからな。ただ、私は一度に放出できる魔力が多くないからクロには助けてもらうことも少なくないだろう」


 放出量も人によって違うのか……。


「少し、私の話をしてもいいか?」


「はい、サラ様のお話ですか?」


「あぁ、私のつまらない話だ。つまらないけれど、君には知ってもらいたい」


 彼女は窓の外を眺めながら話しだした。


「私も昔はクロにも負けないくらいの魔法の才能を有していたんだ。魔力量も君ほどではないが、お父様を軽く超えるくらいはあったし、放出量だって制限なんてないようなものだった」


「…………」


 黙って彼女の話の続きを聞く。


「調子に乗っていた私はある日、国で禁止とされている魔法に手を出してしまった。結果は失敗し、私の魔力量は大幅に減り、放出量にも大きく制限がかかってしまった。魔法が使えるだけまだマシに済んだ方だと言えるだろう」


 正直、彼女ならやりかねないと思ってしまった。自分がやりたいと思ったことは曲げない人だ。人じゃない、エルフか。


「私は魔法の才能から次の国王第一候補だったのだか、今では第四候補になってしまった。言ってなかったが、私には兄が一人、姉が一人、妹が一人いる。正直、国王になど興味はなかった。クロに出会うまでは」


「僕に出会うまでは……?」


「ああ、さっきも言ったが君を守りたいと思った。今の私にできることでクロのことを一番守れるのは王になり、その権利を手に入れることだと思っている」


「サラ様……」


 彼女は本当に本気で言っている。

 僕のために王になろうとしている。彼女は王女なのだからそこまで大それたことではないのだろう。けれど、第四候補ということは厳しい道のりであることに違いはないだろう。

 その道を僕のために歩もうとしてくれている。

 そんなことを言われて嬉しくないわけがない。


「禁止された魔法を使って自滅するような私だが、力を貸してくれるか?」


「勿論です、サラ様」


 断る理由がない。見た目良し、性格良し、更に自分のことを強く想ってくれている。僕だってそれに応えたい。

 僕はそう言うと椅子に座っている彼女の近くに跪く。


「クロはサラ様に尽くします」


 そして、彼女の足の甲に軽くキスをする。

 何故こんなことをしたのかはわからない。けれど、こうするべきだと思ったからそうした。それだけのことだ。


 足の甲にキスをするなんて奴隷みたいだし、手の甲で良かったのでは?

 みたいじゃなくて奴隷だし、やっぱりこれで良かったかもしれない。


 サラ様の顔を見上げるといつもの笑顔とは違って、明るいだけではない、彼女の欲望が見え隠れするような顔をして笑っていた。

 そんなサラ様も素晴らしく美しかった。



 空気をぶち壊すように僕のお腹が大きく鳴る。


「すまなかったな、何も食べさせてやっていなかった」


「いえ、今まで気絶してしまっていたのはクロですので」


「それじゃあ食事に向かうか。クロの分も準備させてある」


 こんな立派なお城であるから、一体どんな料理が出てくるのか楽しみで仕方がなかった。

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