49.予想外の圧倒
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「どっちが勝つと思う?」
「あのクロって奴がどのくらい強いかはわからんが、エルフの姫だろ」
「やっぱり昨日の準決勝?」
「あぁ。今年はアデーレ様が余裕で優勝すると思ってたんだけどな」
「俺も」
「アデーレ様がまさか負けるとはな」
「最後は正面からのぶつかり合いで、鳥肌モンだったな」
「わかる。あれを見ちゃうと相手の子も強そうだったけどって感じ」
「だよなー」
全部聞こえたのは近くの男たちの会話だけだったが、おそらく観客の多くは同じ意見なのだろう。
昨日の試合を見たらサラ様の優勝が間違いないと思うのは理解できる。
けれど、僕はそれを覆したいと思う。
今のサラ様と僕でどちらの方が強いのかは僕にもわからないし、サラ様にもわからないのかもしれない。
でも、今からそれを決める。
「そうだ、一つ忘れていた」
そう言うと彼女は僕の方へと歩み寄ってくる。
「どうかされましたか?」
「許可する」
その言葉によって僕がつけていたチョーカーが僅かに発光する。
「サラ様、良いのですか?」
「構わない」
サラ様はそれ以上言わずに自身の準備位置へと戻っていった。
「それでは決勝戦、サラ・ド・ブルゴーニュとクロの試合を始めます」
パオラさんの時とは違い、高揚感と緊張感が入り混じっている。怖いけど、早くやりたいと思う。
「始め!」
僕と彼女の試合がついに始まった。
彼女の放出量は今までと段違いになっていることはアデーレとの試合で分かった。しかし、僕とどちらが大きいかはわからない。
魔力量は五分だろう。おそらく彼女の魔力が尽きれば僕から持っていかれる。
彼女の魔法で警戒しなければならないのは時間をかけての巨大な魔法の発動だ。今の彼女がそんな魔法を使ってきたら、僕ではどうにもならないかもしれない。
僕がサラ様に確実に勝っているところ……体格差と回復魔法しかないだろう。
今の僕は体格がいいというわけではないが、サラ様はかなり小柄だ。魔法なしの殴り合いであれば負けることはないだろう。
実際彼女の魔法を乗せたパンチはクリーンヒットしても、アデーレを気絶させるには至らなかった。
彼女に殴る蹴るをしたくはないが、勝つためには最善を尽くすつもりだ。
しかも僕には彼女に解禁された回復魔法がある。捨て身の技を決めて有利なのはこちらだ。
それであれば早速距離を詰めるために風魔法を駆使して飛び込む。しかし、足の裏にバネを置くような感覚で発動までに一瞬もたついてしまった。
一発で完璧に成功させたサラ様のセンスのとてつもなさを実感する。
そのせいで彼女に迎撃する時間を与えてしまった。
彼女の前から大きな炎がこちらに向かってくる。アデーレの魔法にも引けを取らないレベルだ。
しかし、それなら僕の氷魔法で防ぐことができる。
今までの感覚で氷を発生させた時に気づく。
あれ……?
発生させた氷は炎で一瞬で溶かされてしまう。なんとか炎を避けることはできたが、このままではまずい。
集中力が足りていなかったのだろうか。
次はこちらから仕掛けるが、それも防がれるどころかこっちへの攻撃として帰ってくる。
理由はわからないが僕の放出量が大きく落ちている。あの時、入試の時と同じような感覚だ。
このまま撃ち合っていても勝ち目はないと早々に判断した僕は風の魔法を利用して彼女に近づく。この移動に関しては、魔法が強ければ強いほどいいというわけでもないから問題はない。
正面から突っ込むと再び僕に炎が迫ってくる。
だが、これは想定内。風魔法で切り返し、ジグザグとした動きで彼女との距離を詰める。
そして僕はその勢いのままに、右足に土を纏わせる。
重量を上げることで、威力も上げていく。
サラ様は受けて立つような姿勢になり、僕の蹴りに合わせて彼女も蹴りを放ってきて、お互いの蹴りがぶつかる。
彼女も僕と同じように風魔法で勢いをつけるだけでなく、足を土魔法で固めていた。
おそらく僕がそうしているのを見て、真似てきたのだろう。本当に彼女の真似する能力には驚かされる。
しかし、勢いと対角は僕の方が上だ。
このぶつかり合い、僕が制する。
だが、その直後、ものすごい痛みが右足を襲う。まるで思い切り鉄でも蹴ったかのような感触だ。いや、今の蹴りであれば鉄であっても負けていなかっただろう。
それ以上の魔法で彼女が僕を迎え撃ったということだ。
僕が痛みに気を取られていると二段目の蹴りが来る。
避けられないと悟った僕は衝撃が来るであろう腹部に精一杯の氷を発生させたが、簡単に砕かれ、重い一撃を貰ってしまう。
大きく飛ばされ、立ち上がることができず、蹲ってしまう。腹と足が痛い。
回復魔法で治癒を試みるが、うまくいかず、少しずつ治っている感覚はあるが、すぐに治らない。
ダメージを受けて心が乱れているからだろうか。
審判の教師が僕の方を見てくるが僕は何も反応を返すことができない。
それを決着と受け取ったらしい。
「勝者サ」
「待ってくれ」
勝ち名乗りを止めたのは勝者となるはずの彼女だった。
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