43.ブレない二人
大幅に遅れまして、申し訳ありません。
夜更新も遅れます。
朝、目を覚ます。
いつも通りに朝の日課をこなしていく。この寮では洗濯をカゴに入れて出しておくと、やってくれているのが非常に助かる。僕がやることは部屋に干すだけになるから。
朝食の準備ができたら、彼女を起こす。
つもりであったが、本日、彼女は既に起床していた。
「おはようございます、サラ様」
「おはよう、クロ」
今日も新しい一日が始まる。
だが、今日はいつも通りじゃない。今までで一番特別な一日だ。
「午後が楽しみだな」
「……はい」
午後から僕と彼女の決勝戦が始まる。
全く楽しみではない……というわけではない。
けれど、僕の頭の中は色々と考えて、迷ってしまって、試合が楽しみという感情に全てを委ねることはできなかった。
「それじゃあ次は試合会場で会おう」
朝食を終えたサラ様は、それだけ言って部屋を出て行ってしまう。
彼女は本気だ。
いつも通り二人で話してしまっていては、緊張感が保てないと判断したのだろう。
僕はどうしたいのだろうかと考えながら食器を洗っていた。
洗い終えた僕は部屋の中にいてもやることがないので、街へと繰り出す。
そういえば今まで一人で外を歩いたことはなかったのではないだろうか。いつも、サラ様と共にいた。
彼女はいつだって僕のことを考えてくれている。本当にありがたいことだ。
結局、彼女がいなくても彼女のことばかり考えてしまう。
「あら、クロじゃありませんか」
「おはようございます、クロさん
特に目的もなく、ぶらぶらと歩いていると見知った顔に出くわした。
「おはようございます、アデーレ、パオラさん」
僕はできる限りいつも通りに挨拶を返す。
「今思うとメイドのパオラだけさん付けで、主人のわたくしだけ呼び捨てにされてるの違和感がすごいですわね」
「誰とでも距離を縮められるアデーレ様すごーい」
「それ褒める気ありませんわよね!?」
彼女たちはいつも通りである。午後の試合は決勝戦だけだ。三位決定戦などはない。
「昨日は途中から具合が悪そうでしたけど、平気でしたの?」
昨日、人間についての話が出てからの僕の様子はやはりおかしかったらしい。周りの状況まで見えていなかったので、彼女たちに心配をかけていたことすら知らなかった。
「申し訳ありません、もう大丈夫です」
大丈夫とはなんだろうか。今後も魔法学校にいることは決まったし、そういう意味では大丈夫かもしれない。
けれど、彼女らを見て気持ち的に身構えてしまうあたり、今まで通りというわけにはいかないだろう。
「それならよかったですわ」
「ご心配をおかけしました」
「そういえば、今日はサラと一緒じゃないんですのね」
「ええ……」
「当たり前じゃないですか」
そこで口を出してきたのはパオラさんでした。
「午後からお二人は決勝なんですよ? いくら主従とはいえ、学校の中では同じ学生。本気でやるに決まってるじゃないですか。しかもサラ様は性格的に勝ちを譲ってもらうなんてこと絶対に認めないはずです。午前中からいつも通りに二人で過ごしていたら、緊張感も薄れてしまうはずです。アデーレ様はそんなこともわからないんですか?」
「わかりました! わたくしが悪かったですから! わかりましたからそんなに言葉を捲し立ててわたくしを責めないでくださいまし」
「そんな、まだ全然責めてないじゃないですか」
「まだ!? ここからまだわたくしは責められるところだったんですの!?」
二人は本当にいつも通りだ。彼女らにバレることや、サラ様とどのように試合をすればいいのか迷っている自分が馬鹿らしくなる。
「パオラさんはアデーレと試合をすることになったらどうしていましたか?」
「私ですか。そうですね何をしてでも絶対に勝ちます」
「全く主人への敬意が感じられないですわね」
「アデーレ様と試合をすると分かった時から全ての世話をやめます」
「うわぁ」
「本当に容赦ありませんわね」
「逆に料理に下剤なんか仕込むのも面白そうですね」
「全然面白くはないのですわ」
パオラさんが少し真面目な顔になって、僕の目を見つめながら言う。
「何をするかはわかりませんが、本気で勝ちに行くことだけは本当です」
「試合外まで攻撃するのはいかがなものかと思いますが、少なくとも試合中は本気で相手をするべきだと思いますわ。わたくしもパオラが手を抜こうものなら許しません」
「家事は手を抜きますけど」
「抜かないでくださいまし」
彼女たちは本当に試合に真摯だと思う。そして僕が負かしてしまったパオラさんに報いるためには、決勝を本気で戦う以外の道はない。
「もし、わたくしたちの見当違いの悩みなら聞き流してくださって構いません。けれど、あっているのならば、その時はサラに対してあなたは本気で立ち向かうべきです。それをサラを含めた全員が望んでいます」
サラ様が僕と本気で試合することを望んでいる……。
「あなたが本気でやっても今のサラはそう簡単には倒せないのではなくて? わたくしはお二人を応援していますわ。負けたわたくしたちがダサくならないような試合をしてくださいまし」
僕はなんてことを考えていたのだろう。彼女にわざと負けても、彼女は喜ばないし、周りもそれを許さない。
それに今のサラ様がどの程度かはわからない。偉そうなこと言っているが、本気でやっても勝てないかもしれない。
だからこそ、それをハッキリさせるために僕たちは戦うんだ。
ブクマ、評価ありがとうございます。
あまりにも守れないので更新時間変更するかもしれません。




