42.僕の幸せ
本日また更新遅れました。
明日からは時間そこそこ守れると思います。頑張ります。
「幸いなことにレア様やクレモン様には好意的に受け入れてもらえると思いますので、お城で使用人として働きながらサラ様の帰りを待ちます」
僕はこれからの予定を話し始めるが、彼女に遮られる。
「勝手に話を進めるな、そんなこと許可するわけないだろう」
「ですが……」
「確かにクロだけが帰れば、問題は解決するかもしれない」
「だったら……」
「それでも、私は君と道を共にしたいんだ」
「…………」
彼女の言葉は本当に嬉しい。今すぐ感謝と、自分が同じ気持ちであることを伝えたい。
でも、それを口に出してしまったらそれは彼女の言葉を受け入れるのと同義だ。
それは彼女のためにならない。
どうしたら僕のことを諦めてくれるだろうか。
……一つだけ心当たりはある。
彼女のためを思うなら話すべきである。きっと、心の広い彼女でも僕のことを軽蔑してくれるであろうから。
でも、やっぱり嫌われるのは怖い。ずっと優しい目を向けてくれていた彼女がどんな冷たい目を向けてくるのかと想像するだけで脚が竦む。
それでもそれが彼女のためであれば僕は話そう。自分が男であるということを。
「サラ様」
「何度言っても君だけ帰るというのは認めないぞ」
「僕は男なんです」
「…………」
彼女は驚きのあまり言葉を失っているようだった。
「僕は今まであなたを騙し続けてきていました」
「いや、前にクロの身体を見た時、きちんと女の身体をしていたじゃないか」
身体を見た時という言葉にピクリと身体が反応してしまう。
「すみません、言葉足らずでした。前世が男で、今も自分のことを男だと思っています」
「こんなに可愛いのに?」
「褒めて頂けるのはうれしいですが、それでもです」
真剣な話をしているはずなのに彼女に可愛いと言われ、少し頬が緩んでしまう。
「可愛いって言われて喜んでるじゃないか。それにメイクも好きそうだったじゃないか」
「確かにそうなんですが、それは別の問題です」
肯定してから自分の発言に後悔する。男であるとアピールするためには嬉しくないと言わなければならなかった。
けれど、僕の頭は彼女に対して咄嗟に嘘をつけるようにはできていなかった。
「ほう、まぁ君が自分を男だと思っていることはわかった。それがどうかしたのか?」
サラ様はなんでもないように、僕に続きを促してきた。
「どうかしたって……僕は自分の心が男であることを黙ってたんですよ?」
「嘘をついていたなら話は別だが、私はクロが男か女か問うたこともない。それに仮に問うていたとしても、今の君が女だと言ってそれを嘘だということはできないだろう」
「そうかもしれませんけど……」
「それに黙っていることがあったら今までの関係性は嘘になるのか?」
たとえ、ここが嘘をついた方がいい場面であったとしても、彼女との今までを否定するようなことはしたくなかった。
「そんなことはありません」
「私もそう思っている。それに私だって君に話していないことはあるしな」
「話していないこと……」
「聞きたいか?」
サラ様のことで気にならないことなどない。
けれど、今それを聞くのは何か違う気がした。
「いえ、今は大丈夫です。サラ様から話してくれる時を待ちます」
僕がそう言うと彼女は微笑んで応えた。
「ありがとう、君は本当にいいやつだな」
あなたより素晴らしい方なんていないというのに。
「あの、サラ様」
「なんだ? まだ自分だけ帰るとか抜かすつもりか?」
「いえ、もうそのようなことは言いません」
仮に進むのが茨の道でもそれ以上に険しい道でも、僕は彼女と歩める道を選ぶ。彼女がそれを望んでくれる限り。
「じゃあなんだ?」
「僕は幸せ者だって伝えたくて」
「なんだそれは」
「気にしないでください」
もうすぐ寮に着くという頃、サラ様が聞き忘れていたと尋ねてくる。
「そういえばクロは心は男なんだよな?」
「はい、そうですけど」
「恋愛対象も女なのか?」
「あー……」
答えにくい質問が来てしまった。
答えはもちろんYESなのだが、それをサラ様に伝えてしまってもいいのだろうか。
この世界での同性愛がどのように扱われているかも知らないし、彼女がどう考えているのかもわからない。
彼女なら強く否定してくることはないだろうが、あまり好ましく思っていなかった時に今後の生活でギクシャクしてしまうかもしれない。
なんと答えるのがいいだろうか。
「無理に答えなくてもいいぞ。まぁ君の反応でわかってしまったが」
「…………」
サラ様は僕の考えをとてもよく読み取ってくださる。それが助かる時もあれば今みたいに困る時もあるのだが。
「逆にサラ様はどうなのですか?」
「私か?」
「はい、差し支えなければお聞かせ願いたいのですが」
「……秘密だ」
「そうですか……」
僕には彼女の考えを読み取ることができない。彼女が実は同性もいけるようにも取れるし、僕のことを気遣って異性しか愛せないと言葉にしないのかもしれない。もしかしたら、その方が面白そうだからと隠しているだけなのかもしれない。
サラ様のことは分からなかったが、確実に僕と彼女の距離が一段と近づいたらのは間違いがなかった。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。




