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5.奴隷になるのも楽ではありません

 ティーセットを部屋を出たところで会ったアガタさんに預け、サラ様の後を追って歩いていく。

 アガタさんが部屋を出たところにいたのは何かあったら飛び込んでくるつもりだったということだろう。

 素性もわからない兜を被った奴が王女と二人きりで会おうというのだ。むしろ一人だけしかいない上に、部屋の外で待っているなんて警戒が薄いくらいではないだろうか。

 それほどまでにあのアガタというメイドは腕が立つのだろうか。僕には見た目だけで人の技量を見極めることはできないので、残念ながら推測の域を出ない。


 考え事をしながら歩いていたせいで周りを全く見てなかったため、気がついたら光が差し込まないような廊下を歩いていた。


「サラ様、ここは?」


「ここ? 地下の廊下だ。さっき階段を降りてきただろう」


「すみません、考え事をしていたもので」


「何を考えていたんだ?」


「国の王女とよく二人きりにしてくれるものだなと」


「二人きり? 先程の客間でのことか?」


「はい、それに今も」


「今は二人きりじゃないぞ、後ろを見てみろ」


 そう言われて後ろを振り返る。


「っ……!」


 驚きすぎて声が出ない。後からはアガタさんが付いてきているのだった。


「アガタさん……いつから?」


「だいぶ前からおります」


「足音とか全然しませんでしたよね?」


「すみません、足音を立てないように歩くのに慣れてしまっていて」


 え、何この人暗殺者かなんかなのかな。だからこの人……じゃなかった、このエルフだけなのだろうか。


「ついたぞ」


 サラ様がそう言うとアガタさんがそそくさと前に行き、その扉を開ける。変な音も鳴っていてとても重そうである。

 中は暗く灯りもなくよく見えない。


「今つけます」


 アガタさんがそう言うと、灯りをつけてくれる。

 シャンデリアがあったのだから当然ではあるが、ここにはきちんと電気が通っているのだなと再認識する。

 明るくなった室内にあったのはベッドとそれに付随した拘束ベルトのみであった。


「じゃあクロ、そこに寝てくれ」


 絶対めちゃくちゃ痛いやつじゃん。なんか紙とかにサインしたり、誓いの言葉を唱えると魔法がどうにかしてくれるようなものを想像していた。

 痛いのは好きじゃないし、ベルトまであるってことは暴れ回るほどだということだろう。痛いのは嫌だ。


「えっと、一体奴隷契約とはどのようにするのでしょうか?」


 僕はサラ様に恐る恐る尋ねる。

 しかし、その言葉に答えたのはアガタさんであった。


「クロさん、サラ様の奴隷になるのでしょう? だったら主人の命令には素直に従うべきだと思いますが」


 き、厳しい……。確かに奴隷が口を挟むなんてこと普通であれば許されないのかもしれない。でも、私は一応まだ奴隷ではないし、そこまでの心構えもないのだ。


「まぁいい、アガタ。クロ、これから君に奴隷の紋を刻む。刻むと言っても魔力でできたもので身体を傷つけるわけではないから安心してくれ」


「それ、痛いんですか?」


「……私はやったことないからわからん」


 それはそうでしょうね。王女が奴隷にされてたらもう国はないでしょう。

 痛いのは嫌だけれど、今更やめるというつもりもない。


「仰向けですか? うつ伏せですか?」


「ありがとう、うつ伏せで頼む」


 ……なんであなたは奴隷に向かっていちいちお礼を言うんですか。


「かしこまりました、サラ様」


 僕はベッドの上にうつ伏せで寝る。


「あ、服は脱いでくれ」


 サラ様が思い出したように言う。


「えっとここでですか?」


「ここでだ」


「いくら同性同士とはいえ恥ずかしいのですが……」


「らしいぞアガタ、悪いが外で待っていてくれ。やったことはないが、やり方はわかるからなんとかなるだろう」


「かしこまりました、失礼します」


 そう言ってアガタさんは部屋から出て行く。


「これでいいか?」


 サラ様は早くしろとでも言いたげに尋ねてくる。


「サラ様は?」


「私はクロの主人だぞ、何か問題があるのか?」


「いえ、大丈夫です」


 ダメだこれは。彼女は基本優しいが、ちょいちょいずれているところがあるのはなんとなく分かってきた。

 ベッドから降りた僕は着ているものを全て脱ぎ、秘部を手で隠すようにしながら、再びうつ伏せで寝転がる。


「これで大丈夫でしょうか?」


「問題ない」


 サラ様はそう言いながらベルトを取り付けて行く。

 わかってはいたが、きちんときつい。


「動けるか?」


 体を動かそうとするが、頭と指先しか動かすことができない。


「動けません、サラ様」


「それならよかった、最後にこれを咥えていてくれ」


「これは……?」


「タオルだが?」


 そういうことではないのですよ。声我慢できないほど痛いってことでは……。

 私は思い切り差し出されたタオルを咥える。


「それじゃあ始めるぞ?」


 サラ様の最終確認に少ししか動かない首を縦に振る。

 彼女の手がわたしのお尻に触れる。

 少しこそばゆいと思っていたが、それも数秒のことだった。


「んーーーーーーっーーっ!」


 突如お尻に激痛が走る。

 お尻が焼けるような、穴を開けられてるような痛みだ。

 焼いたことも穴をあけたこともないが、ほんとうに痛い。


「んっ、んっ、んーーーーーーー!」


 身体を暴れさせて逃げようとするが、ベルトできちんと拘束されており動くことができない。

 彼女が何も言ってこないことから彼女もとても集中しているのだろう。なぜか、彼女のことを考えると少しだけ痛みがマシになった気がする。


「んんんんんんんんんんんっ!」


 そんなことを思ったのも束の間、先程までの激痛を超える痛みが私を襲う。


「っ、んっーーーー」


 激痛のあまり、僕は意識を失ってしまう。


 意識を失う寸前、サラ様が額に汗を垂らしながら僕のお尻を睨みつけているのが見えた。

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