36.奴隷は調子に乗りました
「ふぅ……」
抱き抱えていたサラ様をベッドへと下ろして一息つく。
アデーレの所に行くとしても、まだしばらく時間に余裕はあった。
先程の準決勝の二試合のことを思い返す。
結局、パオラさんに勝てたのはただの魔法によるゴリ押しだった。彼女の固有魔法には気をつけていたはずなのだが、結局食らってしまった。
試合ということに関して、僕は周りより劣っていると考えた方がいいだろう。
きっとみんなは今までどうしたら強くなれるのか試行錯誤してきたのだろう。パオラが身体を鍛えたり、アデーレが炎の魔法を使い続けてきたように、サラ様もあれだけの力を手にするために何かをしてきたはずだ。
サラ様とアデーレの試合は凄いとしか言い表せなかった。
二人ともが高い次元で魔法を使っており、いつまでもこの二人の試合を見ていたいと思った。
それは僕だけでなく、会場にいた全員が同じことを思っていたに違いない。
途中まではサラ様も凄かったが、サラ様がアデーレに挑むという構図で試合が展開されていたように思える。しかし、最後にサラ様は覚醒し、アデーレを圧倒していた。
一体、あの炎の渦の中で何があったのだろうか。
僕もあの二人の中に混ざりたい。
二人のように魔法で見ている者を魅了したいと思う。
明日のサラ様との試合、楽しみである反面不安もある。
一つ目は、自分に魔法の才能があることは流石に理解したが、彼女たちほどの魔法を使えるのかという不安だ。
今更どうにかできることではないが、今日の準決勝の後である明日の決勝への期待はかなり高いだろう。
その期待に応えるようなパフォーマンスを僕ができるのだろうか。
二つ目は、本当に僕が勝ってもいいのだろうかということである。
今日、パオラさんを負かしておいて今更かもしれないが、努力も何もしていない僕が何故か持っている才能だけで努力してきた者に勝利しても許されるのだろうか。
サラ様以外は僕の素性を知らない。いや、サラ様ですら直近のことしか知らないはずだ。
僕が何もしていないことを知っている者はいない。
だから僕が勝っても非難する者はいないのだ。
僕自身が自分を許せるかどうかという話なだけなのだろう。
それに、サラ様が優勝した方がいいのではないだろうかと思う。
魔法学校の新入生トーナメントは僕の予想以上に注目されているようだし、優勝すればエルフの国の王位にも近づくのではないだろうか。
また、アデーレに勝利したサラ様が負けるようなことがあれば、アデーレの評価も下がりかねない。
僕が勝つよりサラ様が勝つ方がきっと物事が上手く回る。
そして、僕がサラ様に勝って欲しいと思うのだ。
自分より彼女が優勝しているところを見たいと心の底からそう思う。
まぁ全て、僕が覚醒した彼女に勝てればの話なのだが。
「……んっ」
そんなことを考えていると、エルフの姫が目を覚ました。
「おはようございます」
「……おはよう」
彼女はまだ眠たそうに目を擦っている。
「身体の調子はどうですか?」
「問題ない」
いつも言いたいことはすぐに言うような性格の彼女が、何かを聞きたそうにムズムズしている。
普段見ないようなサラ様を見ているのは非常に楽しいのだが、あまり意地悪をしても後が怖いのでこちらから尋ねる。
「いかがなさいましたか?」
「あぁ……」
彼女は少し言いにくそうにしながらも、尋ねてきた。
「私は……勝ったんだよな?」
勝ち名乗りを聞いてから気絶したように見えたが、ギリギリのことだったから確信が持てていないのだろうか。
確かに負けているかもと思うと聞くことに躊躇うのも頷ける。
「覚えて……いらっしゃらないんですね」
「え……」
後が怖いと知りながらも、僕が彼女の上に立てることなんてそうそうない。
危険だと分かっていても、足を踏み込まずにはいられなかった。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が二人の間に流れる。
僕は早くも余計なことをしたと後悔していた。
「サラさ」
「少し一人にしてくれないか?」
僕の言葉を遮って彼女が言う。
その顔は酷く辛そうで、苦しそうだった。
「すみません、サラ様」
「……あとではダメか?」
「サラ様はアデーレに勝ってます!」
耐えられなかった。
僕は好奇心で取り返しのつかないことをしてしまったと思った。
よく考えれば当たり前だ。彼女がどれだけ真剣かよく知っていたはずなのに。
「…………」
「申し訳ありませんでした」
僕は彼女の前に再び土下座を姿を晒す。
「…………」
彼女は何も言わない。怒りで震えているのだろうか。
どんなに怒られても構わない。身勝手なのは承知だが、可能であれば許して隣にいることを許可して欲しい。
そのためであればなんでもする。
「知っていたさ」
「え?」
僕は思わず頭を上げる。
「私がアデーレに勝っていたことはな」
「そ、そうだったんですか」
「あぁ」
「……それは良かったです」
「あぁ、とても良かった」
彼女はニンマリと笑って、こちらにいい笑顔を見せてくれている。
「だが、君が主人である私に嘘をついた事実は変わらないな?」
「……はい、その通りです」
「じゃあ、罰を受けてもらおうか」
サラ様がアデーレと試合をしていた時より生き生きとしている気がするのは僕の気のせいだろうか。
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