s6.始まりの前日談
すみません遅くなりました
せっかくならば私が欲しいものを召喚したいところである。
召喚できるのかわからないが、私が欲しいものはひとつだけすぐに思いついた。
私より魔法において優れている者である。
私が全力で放った魔法を受け止めてくれて、私と同じ価値観で会話ができる者が欲しかった。
そして、私が魔法を使いたい時に付き合って欲しかった。今思うとかなり自分本位のこの考えは、私がこれまでわがままを許されて生活してきたからであろう。
最後に、可愛い女の子がいいと思った。むさ苦しい男より可愛い女の子が一緒にいてくれた方が嬉しいのは当然だ。
「私のお願いを聞いてくれる、私より強くて、可愛い者」
それが私が召喚しようとしたものであった。
城下町から少し離れたところにある森の中の花畑で召喚魔法を行った。
もし何かの間違いで事故が起きてしまった時に、被害を小さくするためにという私なりの気遣いであったのだ。
何人かの騎士がついてきてしまっていたが、彼らには私が何をしているのかはわかっていなかっただろう。
また何か魔法を使っているくらいの認識であったはずだ。
召喚魔法を使った瞬間、成功を確信した。
当然初めての魔法であったが、手応えが悪くなかった。
一体どんな者が召喚されたのかと辺りを見回すが、先ほどと何も変化はない。
誰かがいる気配もない。
どこかに隠れていたりはしないかと探し回るが、何も見つからない。
私はそのまま国中を探し回った。視界に入りさえすれば確実にわかる自信があった。しかし、すぐには見つからない。
それから何日も探し続けたが、何も手がかりを見つけることはできなかった。
そして私から失われたものがあった。
私の存在価値と言っても過言でなかった魔法の才能である。
別に無能というほどではなかったが、魔力量も減り、放出量も減ってしまったため、以前ほどの魔法が使えなくなってしまった。
今まで使えた魔法が急に使えなくなったのだ。
当たり前だと思っていたものが目の前から失われる喪失感は、とてつもないものであった。
目の前が真っ暗になっていった。
初めのうちはお父様に隠していたが、急に訓練をサボりだした私のことを気にしていたためにバレてしまった。
騎士たちの話から私が森で何か魔法を使っていた時からだということもバレた。
しかし、お父様が私を叱ることはなかった。
ただ、非常に残念そうな顔をして、私を次代の王の第四候補に下げ、私にそれ以上関わってこようとはしなかった。
初めのうちは叱られないことにラッキーだと思っていたが、叱らないのはお父様が私のことを見放したからだと気づいてからは怒りが勝った。
お父様は私の魔法の才能しか見ていなかったのかと。
見返してやろうと思った。
魔法の才能がある頃には多くの従者が私に積極的に仕えようとしてくれていたが、魔法の才能を失って多くの従者が離れていった。
彼らもお父様と同じではないかと。
その中で、私に対して変わらない忠誠を示してくれたのがアガタであった。
彼女はメイドの中で誰よりも仕事ができた。私に仕えてくれるのは嬉しいが、王になる可能性が高いお兄様にでも仕えた方が彼女のためなのではないかと思ったことも何度もある。
ある日、私はどうしても我慢できなくて、私に仕えてくれる理由を尋ねたことがある。
彼女は淡々と答えてくれた。
「私は元々サラ様に仕えていた身です。主人が力を失ったからと言って鞍替えするなど従者の風上にも置けません」
彼女はやはり真面目だ。
「……ということは勿論ありますが、私の本心は別のところにあります」
「その本心とはなんだ?」
「私はサラ様が再び力を取り戻される……いえ、以前以上の力をつけてくださると信じております。その時にサラ様にもっとも仕えていた従者となりたいのです。私は私のためにサラ様にお仕えさせていただいているのです」
「…………」
「もし、私にわがままが許されるのならば、この城の全員を見返してください。サラ様ならそれができると信じております」
彼女は私以上に、このサラ・ド・ブルゴーニュのことを信じてくれている。
この気持ちに答えられなければ私に姫たる資格はない。
五年後、精霊の国にある魔法学校に通える年齢になったらこれに通って無視できないくらいの魔法の実力をつけてやろうと決めた。
そのためにはなんでもした。
無駄な魔力を使わずに魔法を使う練習をしたり、他のエルフが使う魔法を真似てみたり。
そうしていてわかったことがある。
今までは弱者を一括りに見下していたが、その中でもそれぞれが努力して、自分の才能以上のパフォーマンスを発揮しようとしていた。
その後も私は弱音一つ吐かずに、自分を高めようとした。
私は自分で学び、訓練することで時間をかけて魔法を発動することで、自身の放出量の限界を超えて魔法を使うことができる様になった。
お父様から許可をもらい、魔法学校の入学が近くなってくると、楽しみと同時に不安に襲われた。
今までは私のことを信じてくれているアガタの期待に応えようと頑張っていたが、その彼女は学校に着いてくることはできない。
眠る直前のベッドの中で私は呟く。
「誰か、私のことを側で見守っててくれないかな」
私は数年ぶりに弱音を吐いて、そのまま夢の世界へ吸い込まれる様に眠っていった。
そして次の日、私は人間の少女と出会った。
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