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「正直に言ってあなたのことを低く見積もっていましたわ」


 灰の中からたった今圧倒的な力を見せつけてくれた、この国の姫が現れる。

 会場が歓声に包まれるが、それを気にしている余裕はない。


「時間をかけて魔法を発動することで少ない放出量を補うことができるとは……、いえ、あなたの場合は放出量も少なくはありませんわね」


「…………」


 彼女も相当に疲弊はしているはず。

 時間をかけたら不利になる一方だ。


 私は頭ほどの大きさの土の塊を複数、彼女に向かって放つが、その全てが彼女の炎によって灰へと変えられてしまう。


「残念ながら先程の一撃でもう勝負はつきましたわ」


 少しずつ歩いて近づいてくる彼女に泥臭く、攻撃を放ち続けるが大した威力にもならず簡単に防がれてしまう。


「精霊以外であなたほど魔法の扱いに長けている者はいないでしょう。いえ、精霊であってもあなたに勝る者は片手で数えるほどしかいません」


 そう語る彼女は少し嬉しそうだ。

 私はジリジリと後ろに下がった彼女との距離を保ち続ける。


「きっとわたくしでなければ先程の魔法を防ぐことはできなかったでしょう。流石はエルフの国の天才と呼ばれただけはありますわね。これからあなたやクロのような方々との学校生活は楽しみで仕方ありませんわ」


 私が彼女の予想を超えていたことが嬉しいのか、自分の勝ちが確定的になって余裕があるのか、もしくはその両方なのか。彼女の饒舌は止まらない。

 彼女の歩みに合わせて、後ろへと下がっていたがもう下がれる距離も少ししかない。


「おそらく、わたくしがクロの魔法からパオラを守るために放った魔法の威力から先程の魔法でいけると踏んだのでしょう。ですが、わたくしがクロの魔法に対抗した時は発動が急であったり、移動しながらであったために最大威力というわけではありませんでしたの。もちろんあの時の本気ではありましたが」


「流石にあの時から騙されていたのかと思ってたけどそうじゃなくて安心したよ」


「流石にクロのさっきの魔法は危なかったですからね」


 そしてついにステージの端へと達してしまう。

 勿体ぶるようにアデーレも歩みを止めていた。


「さて、長々とお話ししてしまいましたが降参してくださりませんか?」


「まだ負けてないのに?」


「往生際が悪いんですのね」


「君だってなかなかのものだと思うが」


「まぁ、否定はできませんわね」


 歩み寄ってくる彼女に土の塊を飛ばすが防がれて、彼女が歩みを再開した時だった。


「あっ」


 アデーレが躓いてバランスを崩す。

 下がりながら、足元で魔法を発動させていくつか用意していた、柔らかい地面。

 やっと最後の最後で彼女がそれに引っかかってくれた。

 勝ったと思って長話なんてしているからだ。


 だが、そのおかげで最後のチャンスが生まれてくれた。

 私は残りの魔力全てを使って風魔法を発動させる。

 やったことはない。

 さっきクロとの試合でパオラが見せた技術。

 彼女と違って身体を鍛えているわけではないから、足元だけでなく肘にも魔法を発動させた。

 急接近して、彼女の腹をぶん殴る。


「ぐふっ!」


 いいのが入った。

 これで本当に私の魔力は尽きた。完全に出し切ってしまった。

 立っていられず、膝をついてしまう。

 目の前の彼女が倒れてくれと願う。

 

 しかし、現実は非情で。


「痛いですわ……、これしばらくお腹痛くなってしまうんじゃないですの」


「……そうか」


 彼女は倒れてくれない。


「まさか、あなたが直接殴りにくるなんて夢にも思っていませんでしたわ」


「私が試合しているのを見てから寝てないんだから当然だろう」


「あら、意外とまだ元気ですのね」


 今のを決めきれなかったのは、私の技術や身体の鍛え方、肘に使えた魔法の不足であろう。

 普段から、というか今まで直接相手を殴って倒すなんてことは考えたこともなかった。

 いきなりぶっつけ本番でやって、相手を気絶させることなど出来なかった。

 できないと思いつつも、それしか勝機がないと思うのならばやるしかなかった。


「さて、今度こそ降参してくださらない?」


「……私も諦めが悪いんだ」


「わたくしは自分の炎の魔法を気に入っているのですが、ひとつだけ大きな欠点があると思っております」


「…………」


「それは相手に大怪我させずに攻撃するのが難しいところですわ。……というかさっきのパンチのおかげでかなり気持ち悪いんですが」


「……それは悪かったな」


「だから、少し性格の悪いことをしますが許してくださいませ」


 彼女がそう言うと私は炎の渦の中に閉じ込められる。


「苦しくなる前に降参してください。教師の方も彼女は強情な様ですから止めてくださいね」


 ここまできて気遣いする余裕があるのか……。


 今の私と彼女との間にはまだ差があることを実感させられる。


 少しずつ意識が遠のいていく。


 こんなに自分の力の無さに苦しい思いをするのはいつ以来だろうか。




 それは五年前、私が天才と呼ばれた力を失った日のことだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いゃ~サラさん負けてしまいましたねぇ、それでも全盛期よりは力は劣っているものの、精霊と普通に渡り合えるだけの能力を持ってるのも彼女の強みですね。今後の活躍にも期待ですね、アデーレさんも最後…
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