s3.一撃
すみません、更新遅れました
「全く彼女には驚かされますわね」
同じくステージに残っていたアデーレが私に話しかけてきた。
「私の従者だからな」
クロが褒められると私まで鼻が高くなってしまう。
「なんであなたがそんなに偉そうなんですの」
「クロは私の従者だ。それに、パオラの話をする時の君もこんな感じだっただろう」
「わたくしそんなに偉そうだったんですの……」
アデーレは何故かショックを受けている。
結構偉そうな態度をとっていたと思うのだが、自分では自覚がなかったということだろうか。
「そんなことより」
彼女は気を取り直したようで続けてくる。
「ついにあなたと戦うことができます」
生き生きとした表情でそう告げてくる彼女はおやつを前にした子供のようだ。
「楽しみにでもしていたのか?」
「えぇ。エルフの国の天才と言われたあなたを正面から叩き潰して、やはり魔法においては精霊の国の方が上であると証明してみせます」
「正直に言ってエルフの国がどう思われようとも私の知ったところではないんだがな。だが、君に見下されるというのはあまり気分の良いものではないな」
精霊の国がエルフの国より魔法の面で上回っていることを否定する気はない。クロの存在を勘定に入れなければだが。
しかし、この赤髪ツインテールに馬鹿にされると思うと無性に腹が立ってしまう。
「だったらできる限り抵抗してくださいまし」
「随分と上からの物言いじゃないか」
「間違えだと言うのなら試合でそれを教えてくださればいいだけのことでしょう?」
「アデーレ……」
自信に満ち溢れた表情で彼女がこちらを見てくる。
確かに入試の結果を鑑みれば彼女の方が圧倒的に優勢であることは事実だ。
「わたくしはあなたに勝って、パオラの分までクロにリベンジ致しますわ」
アデーレは私に勝った後のことまで考えている。
なんて傲慢な姫なのだろうか。
けれど、私にも負けるわけにはいかない理由がある。
クロとの約束を果たすために、クロが待つ決勝戦へと進まなければならないという理由が。
「別にクロにリベンジするのは君の好きにしたらいい。けれど、今日の勝ちを譲る気はない」
アデーレは私の覚悟を聞くと満足そうに私から離れていく。
「……それではお互い悔いのないように」
私たちはそれぞれ離れた位置に待機する。
「アデーレ様頑張ってください!」
「我が国の力を見せつけてやってください!」
「アデーレ様頑張れー!」
「今日も美しい炎を期待してます!」
彼女との会話を終えて、自分が圧倒的アウェーな状況にいることを再認識する。
だが、別に構わない。むしろ彼らの残念がる表情を想像するとやる気が出てくるくらいだ。
それを視線で確認した審判の教師が声をあげた。
「それでは……」
負けるわけにはいかない戦いが始まる。
「始め!」
第二試合の火蓋が切って落とされた。
「先手は譲ってあげますわ」
「それはどうも、じゃあお言葉に甘えて」
恐らく放出量以上にどうにもならないのが魔力量の差だ。彼女の油断をしているうちに強力な一撃を決めることでしか、今の私に勝ち筋はないだろう。
相手が待ってくれているということで時間をかけて魔法を発動する。
イメージするのは最強の一撃。
使用するのは炎に強い土。
彼女の強力な炎の魔法の上から、倒せるような強大な土の魔法。
これが最初で最後のチャンスだと自身に発破をかける。
「それは、なんですの……」
先程までは余裕しかなかったアデーレの表情に焦りが混じる。
その顔が見たかった。
私が魔法で作り上げたのは土でできた巨大な龍。
全長十メートルは越えているだろう。
放出量が少なくても時間をかければ強力な魔法を使うことは可能である。
時間をかけて一つの魔法を使うにはそれなりのセンスなどもいるのだが、運良く私にはそれがあった。
それでもそんな時間があることは稀でなかなか役に立つものではないのだが、今回は相手の油断からその機会が生まれた。
ただ、魔力の大半を使用してしまった。
右手を空に掲げて、龍を従える。
「君なら死にはしないだろう?」
そう言って、右手をアデーレに向かって振り下ろす。
巨大な土でできた龍が彼女に向かって突撃した。
「はぁぁぁぁぁぁあああああ」
その龍を迎え撃つようにアデーレの強大な炎の魔法が発動される。
すごい火力だと思うし、彼女は本当にこの国の宝なのだろう。
けれど、先程のクロの氷魔法に対して放った彼女の炎魔法の大きさでは、この土の龍を防ぎ切ることはできない。あの時はパオラを守るように魔法を使っていたから、全力であったはずだ。
いくらか威力は殺されてしまうだろうが、彼女に大ダメージを与えるには十分な威力は残るだろう。
「まずいな」
思った以上に彼女の抵抗が長く続いている。
追い討ちをかけようと魔法を準備する。
「……ダメか」
まだ先程の魔法の反動で次の魔法の準備ができない。
頼む、届いてくれ。
ここで仕留められなければ、恐らくこの後は私が少しずつ削られ負けることは必至だ。
だから、これで決まってくれ。
私は次に進まなければならないんだ。
次の瞬間、土の龍はその全てが燃やし尽くされ、全てが灰になった。
ブクマ、レビュー、評価ありがとうございます
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