4.情に弱いのかもしれません
「魔法の才能が僕に……?」
「そうだ、正確には持っている魔力量ということだが。魔力量が強さと同値というわけではないが、魔力量に関してだけ言えば現在この国で最大であり国王であるお父様の10倍はくだらないだろう」
「そんなに……、何故僕に大量の魔力があるとわかるんですか?」
「……人の魔力量を見抜くことが私の得意魔法だからだ」
「そんな魔法もあるんですね」
そう言われてもピンと来ない。
僕は人差し指を立ててそこから先ほど彼女が見せてくれたように火を出すようなイメージをする。
すると頭と同じくらいのサイズの青白い炎が出現した。
「うわっ!」
出した僕が驚いて大きな声を出してしまう。
「早く止めるイメージを!」
彼女に指示され、僕は炎が消えるイメージをする。
すると炎は綺麗に消えた。
「自分に才能があることが分かったか?」
「……よく理解できました」
「理解が早いクロが好きだよ」
「…………」
いや、流石に今の状況になれば誰でもわかるだろう。今の見ても私魔法使えませんとか言い出す人なんていない気がする。
そして、何故この少女は僕に対して好きという言葉を多用するのだろうか。
そういう意味でないのは分かっているが、何かこう胸がモヤモヤするのであまり連呼するのはやめてほしい。
「でも、僕が強いのであれば奴隷になる必要はないんじゃないですか? 魔法が使えるエルフに襲われても撃退できるし」
「君にもきちんとメリットはある」
「と言うと?」
「一つ、私の奴隷になれば衣食住の提供を約束しよう。いくら魔法が使えても一人で生活してくことは困難だし、人間を快く受け入れてくれる国はないと思った方がいい」
自分の目の前にカレーライスが出てくることを想像してみたが、変化はない。確かに衣食住を一人で用意するのは困難であるようだ。
しかし、エルフの国以外が人間をどう思っているのかはわからない。もしかしたら友好的に受け入れてくれるところはあるかも知れない。けれど、受け入れられたとしてもおそらく僕は客人だ。
「二つ、私の奴隷になって私が国王になった暁にはこの国の人間を奴隷という身分から解放させよう」
確かに僕が暴れて解放させようとしても、見つけられない人間がいたり、人質にされた上での戦闘になったりするかもしれない。
「三つ目は私が君を奴隷にしたい理由にも関係がある。私には君が必要だ」
「……は?」
「済まない、言葉が足りなかった。私は君の可愛い容姿に惹かれた。私を見つめてくる瞳を美しいと思った。私のできる範囲で君のことを守らせてくれ」
余計に意味がわからない。
「正直、君の魔法の才能は君が一人で生きていくために十分すぎるものだ。それでも、今の私には立場による権力しないが何かの役には立つだろう」
意味はわからないのに、彼女が本気で、真剣に言っていることはわかった。
こんな美少女にそこまで言われて断ることなんて僕にはできない。
「……わかりました、僕はあなたの奴隷になります」
「ありがとう」
彼女の瞳は少し濡れていて、今までとは違う美しさを見せていた。
「それで僕は奴隷になったら、あなたにどんなことをさせられるんですか?」
「まず、クロには直してもらいたいところが二つある」
「直すところ?」
「正式な契約はまだだが、奴隷になるのだから私の命令は聞いてくれ」
なんとなくだが、彼女が少し楽しそうにしている気がする。
「わかりました」
「やはり君は理解が早いな」
「それでなんですか?」
「一人称をクロに直すのと、私のことはサラ様と呼ぶように」
絶対に楽しんでるこれは。
「何故、一人称をクロにする必要があるのでしょうか?」
「それはクロみたいな美少女が僕という一人称を使ってることには違和感があるし、一人称が自分の名前というのも可愛いと思わないか?」
「美少女?」
自分の胸と股をさわって確認する。確かに女の子だ。
「鏡はありますか?」
「ほら、あそこに」
サラ様が指し示すところにあった鏡を見ると、確かに黒髪を一つにまとめた美少女がいる。
身長は150くらいだろうか、胸は控えめではあるがきちんと女の子であることがわかるくらいにはある。
「ほんとだ……」
あれ?
何故僕は自分が美少女であることに違和感を覚えているのだろうか?
……わからない。
「だとしても私でよくないですか?」
「ダメだ、私がそうして欲しいんだ」
彼女の頑固さは先程の男たちとのやり取りでわかっているので、もうこちらが折れるしかないだろう。
「かしこまりました、サラ様」
「うん、ありがとう。これからも可能な限り返事の最後には私の名前を呼んでくれ」
そう言って彼女はまた笑顔を向けてくる。
……そんなことされたら言うことを聞くしかないじゃないか。
「それでクロの仕事だが、基本的には私の専属メイドという形にしようと思う。家事は他のメイドに任せていいから、私の身の回りの世話をしてくれ」
「それだけでいいんですか?」
「奴隷とは言ったが、私は君に対してひどいことをするつもりはないよ。君もそれが分かっていて受け入れたんじゃないのか?」
「それはそうですが……」
「細かい指示は私から出すから少しずつ覚えていってくれ」
「わかりました、サラ様」
彼女は立ち上がり、ティーセットを片付けて持とうとする。
「僕が持ちますよ」
「だからクロを一人称にしろと言っただろう」
「あ、すみません」
「慣れないうちは仕方ないが意識するようにしてくれ」
「はい、サラ様」
正直、慣れる気はしないしそれに慣れてしまうのはいい歳してどうかと思う。
……あれ、そもそも僕は今何歳なのだろうか。
「サラ様っておいくつなのでしょうか?」
「16だ」
「16……」
とてもその幼い外見からは16には見えないが、エルフだからということなのだろうか。
「クロはいくつなんだ?」
「いくつなんでしょう……」
僕は自分のことが全くわからないことに少し悲しくなってしまう。自分がわからないということは怖いのだ。
それが顔に出てしまっていたのだろう。
「すまない、クロ」
「いえ、僕の方から尋ねてしまったのでサラ様が気にすることではございません」
「ありがとう、ただ一人称は直してくれ。あまりに直らないようであれば罰も考えるぞ」
「申し訳ありません、サラ様」
意地になっているとかではなく本当に自然と僕という一人称が出てしまう。罰がどんなものかはわからないが、これからは一層気をつけなければ。
「それでは向かうとしようか」
「どこにですか?」
「正式に奴隷契約を結ぶための場所に」
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