34.主人を想う
「クロ、やりすぎだ」
僕を叱ったのは主人であった。
「……申し訳ございません」
他に止めに入ってくれていた教師や先輩たちは遠巻きに僕を見ている。
しかしその後、サラ様が私に申し訳なさそうに言った。
「私があれを許可していればよかったな」
「いえ、それは結局彼女の固有魔法のネタばらしになってしまいましたから。それにもしかしたら、あれを見られて何か不都合が起きてしまうかもしれません」
「確かにそうだな」
サラ様はパオラさんたちの方を横目に見て続ける。
「だが、彼女に怪我などがなくてよかった」
「はい、本当に彼女に何事もなくてよかったです」
今回はサラ様やアデーレがいたから大事にはならなかったものの、やはり次からは全開で魔法を撃つことは控えるべきであろう。
「クロが私の期待に応えてくれようとしていたのは分かったし、学校としても君のような才能に対して厳しくすることはないだろう」
「はい、サラ様」
もしかしたら何かお咎めがあるのではないかと心配していたので、彼女の言葉に安心する。
「色々とありましたが、準決勝の第二試合を行います」
審判の教師がトーナメントの進行を告げる。
「ほら、もう始まるぞ」
彼女がここから去るように僕に言う。
最後に何か彼女に伝えたい。何を伝えるのがいいのだろうか。
きっとアデーレ相手に苦戦は必至であろう。
僕の言葉で勝敗が変わると思っているほど自惚れているつもりはないが、それでも何か言いたい。
「クロのいいところを見せてらったんだし、私も主人としていいところを見せなければな。絶対に勝って君とここに立つ」
サラ様が意気込みを語ってくださる。
ならば、私が彼女のためにできることを伝えよう。僕の自惚れでなければ、それで少しは彼女の力になれると思うから。
「はい、クロはサラ様を見ております」
それだけ伝えると僕は観客の中へと戻って行った。
「サラ様……」
あれだけ格好をつけてサラ様と別れたのに、僕は彼女のことを心配そうに見つめていた。
彼女を信じていないわけではない。きっと、勝ってくれるだろう。
「クロさんはどちらが勝つと思いますか?」
「それはもちろんサラ様……えっ!?」
質問に答えている途中で急に話しかけられたことに気づき、軽く飛び上がってしまう。
「何をそんなに驚いているのでしょうか?」
当たり前のように僕の隣に来ていたのはパオラさんだった。
「どうして隣に?」
「だって私の知り合い他にいないんですから仕方ないでしょう」
さも当然の様に答える。
「先程は大丈夫でしたか?」
「心配するならあんな魔法使わなきゃいいじゃないですか」
それは本当にその通りである。いくら追い詰められていたとはいえ、もう少しいい方法はあったかもしれない。
「すみません」
僕には謝ることしかできない。
「嘘ですよ」
「え?」
「別に私がクロさんをそこまで追い詰めたということでしょう、アデーレ様より。それはそれでありです」
それはそれでありなのか。よくわからないけれど、彼女が許してくれているのは良かった。
「それに、クロさんも本気だってことはよく伝わりましたから」
「パオラさん……」
「まぁアデーレ様がいなかったら危なかったかもしれませんけど」
「本当にすみません」
僕が悪いから謝るのだけれど、自分がアデーレと同じでパオラさんの弄り対象になってしまったことを理解した。
「本当にサラ様が勝つとお考えですか?」
「勿論です」
「主人贔屓であることを差し引いても、入試の結果を見るとかなりアデーレ様が優勢に思えてしまいますが」
「そうですね、クロもそう思います」
「私はサラ様の魔法を見たことがないのですが、入試で本気を出していないだけでアデーレ様より優れているということですか?」
彼女にそう問われて、僕はサラ様が魔法を使っているところをほとんど見たことがないことに気づく。入試の結果から見ても優秀なのは間違いないが、あれが全力だったのかどうかさえも知らない。
「恥ずかしながら、クロはサラ様の本気を知りません」
「そうでしたか、クロさんでも知らないのですか」
「ただ、手を抜くようなことを好む方ではないので、入試ではあの時の全力であったとは思います」
「なるほど、ですがそうであれば余計に厳しいのでは?」
「厳しくないとは思っていません。けれど、サラ様は勝つとおっしゃっていました。でしたら、従者としてできることはそれを信じるだけです」
「従者の鑑ですね」
彼女は同じ立場の人間を見つけたことが嬉しいのか、少しだけ笑顔になる。
「私はアデーレ様のことをあまり信用しておりません。優しい方ですし、善人であるとは思っておりますが、姫としての自覚の足りなさや歳のわりに子供っぽいところは多いと感じています」
「…………」
薄々気づいてはいたけど、パオラさんはちょっとツンデレのようなところがあるのかもしれない。アデーレのことが好きなのは見ててわかるくらいなのに、口では彼女に対してかなり厳しく当たっている。しかも、その時が一番いい笑顔をしている。
「けれど、彼女の強さは信用しています。今はその魔法も発展途中ですが、いずれは国で一番となり、この国の王になるほどの才能を有していると」
パオラさんからの信頼の厚さが想像以上のもので少し驚く。
「だから、サラ様やクロさんには悪いですが、二人に勝ってくれると私は信じています」
僕以上の主人の強さに対する信頼を見せられてしまう。
「そろそろ始まるみたいですよ?」
パオラさんにそう言われ、ステージを見ると第二試合が始まろうとしていた。
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