a2.従者に気遣いもできるアデーレちゃん
すみません、少し更新遅れました。
「お疲れ様ですわ、パオラ」
「アデーレ様もお疲れ様です」
「ありがとうございますわ」
「言ってから思いましたけど、アデーレ様のことだからどうせ相手みんな棄権して疲れてないですよね」
「どうして見てきた様に知ってるんですの!?」
「やっぱりそうでしたか、さすが私。アデーレ様のことならなんでも知ってる」
「…………」
まぁ、たしかに彼女以上にわたくしのことを知ってる者などいないのも事実。
「今のはなしで」
パオラが横を確認するが、サラとクロは二人の会話をしておりこちらに気づいていない様子。
それを見て彼女はホッと胸を撫で下ろしていました。
午後が始まる前にはご飯を食べておかないといけませんわ。
それに、いつまでも二人といては今の緊張感を失ってしまいそうで。
「午後はよろしくお願いしますわ、サラ」
「泣くことになるからハンカチでも用意しておくんだな」
そろそろここを離れようと挨拶すると、サラに喧嘩を売られてしまいました。
「あなたこそ負けても泣かないでおくんなまし」
売られた喧嘩を買わないほど、わたくしは丸くありません。
「それはそれとして、アデーレ様は淑女の嗜みとしてハンカチを持ち歩いた方がいいと思います」
「だからあなたはなんで余計なことを言いますの!?」
パオラは本当にわたくしの従者としての自覚があるのでしょうか……。まぁ今更彼女にそんなことを求めたりはしません。諦めました。
「それではまた後でパオラさん」
「はい、クロさん」
パオラとクロはわたくしとサラとは違い、あっさりと別れておりました。こう、なんか一言かましてもいいと思ったのですが。
「それでは何を食べましょうか」
昼は食べ物を届けると言われたのですが、学食というところで食べてみたかったのでお断りしてきました。
「私はカツカレーでも食べます」
「そんな重そうなものを食べて大丈夫なんですの?」
「私は午前中も頑張っていたので、お腹が空いてるんですよ。アデーレ様とは違って」
「わたくも別に好きで何もしてないんじゃないんですわよ!?」
学食へと向かう途中、そんな会話をしながらわたくしは何を食べるか考えます。
「何故カツカレーにするんですの?」
「さっき言ったじゃないですか、お腹が空いたからって。相手の話を聞かないのどうかと思いますよ。そんなんでこの国の王になれると思ってるんですか?」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですの……」
さっき確かにお腹が空いたとは言っていましたが、別にそれなら他のものでもいいじゃないかと聞こうとしただけなのに、その前にめちゃくちゃに言葉で殴られてしまいました。
ちょっとだけ落ち込む様子を見せながら、彼女の方を窺う。
「お腹空いててもカツカレー以外でもいいじゃないかってことですか?」
彼女わたくしの考えてることを汲み取って、聞いてくれます。流石はわたくしのことをなんでも知ってるパオラ。
「ええ、そうですわ」
口に出して彼女の機嫌を損ねるもの嫌ですので、わたくしは口に出しません。使用人に対する気遣いもできるなんて流石わたくし。
「もしかして、勝つとカツをかけてるとでも思ってるんですか?」
「え?」
全く考えていなかったことを言われて、虚をつかれてしまいました。
「そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてもダメですよ」
「いえ、わたくしはそんな……」
「勝つとカツをかけているなんてそんなくだらないことばかり考えていてはサラ様に負けてしまいますよ」
完全に謂れのない誹謗に困惑するが、それだけは認められませんでした。
「サラには絶対に勝ちますわ」
わたくしはさっきまでとは違う顔つきになっていることが自分でもわかるくらいの変化をして答えます。
「ええ、信じています。絶対勝ってください」
しかし、パオラの返答はわたくしの想定外のものでした。
わたくしの態度の変化に一切動じず、わたくしの顔を真正面から捉えてそう言いました。
「も、もちろんです」
逆にわたくしの方が彼女の反応にびっくりしてしまいます。
「とりあえず、さっさと行きましょうか」
彼女にそう言われていつの間にか足を止めていたことに気付きます。
「え、ええ……」
わたくしたちは足早に食堂へと向かいました。
結局わたくしもパオラの真似をしてカツカレーを食べましたが、少し多かったかもしれません。
「絶対に勝ちなさい」
「はい、かしこまりました」
試合に呼ばれたパオラに最後の言葉をかけます。
わたくしはあまりこういうことが得意ではないので、上手いことは言えません。
ですが、それでも伝えたいこと、伝えなきゃいけないことは彼女に伝わっていると確信しております。
彼女の後ろ姿はいつもより逞しく見えました。
「なんですのあれは……」
パオラの固有魔法を氷の壁でクロが防ぐ展開までは予想しておりましたが、驚いたのはその後です。
彼女がわたくしの見たことのない動きでクロに対して四方八方から攻撃を仕掛けます。
おそらく風魔法の応用であるのでしょうが、ただ放つだけとは違い、身体の動きにリンクさせるというのはかなり技術がいるはずです。
しかし、クロの魔力は流石で固有魔法を当てることができず、氷の壁で周りを囲むように守られてしまいました。
パオラは一瞬、力を溜めたかと思うとクロの氷の壁の上を通るようにジャンプをして固有魔法を放ちます。
しかしその直後空いていた上側も氷の壁で守られてしまい、完全に外から手出しができなくなってしまいます。
彼女の固有魔法がクロに当たったかどうかは分かりません。
パオラはクロを守る氷を周りから観察して、膠着状態となってしまいます。
膠着状態を破ったのはクロの方でした。
彼女を守る氷が急に消え始めたのです。
その時でした。
何かが見えたわけではありませんが、わたくしはその場を飛び出しパオラの前へと向かいます。
「間に合ってくださいまし!」
クロから全方向に対して氷が広がっていきます。しかし、わたくしと試合をした時の比ではない出力です。
全力でわたくしの前に炎を展開しながら、パオラの前へと出ます。直後、クロの強力な氷魔法がわたくしへと襲いかかります。
……なんとか防ぎ切ることに成功しました。
わたくしが入ってしまった以上、パオラの負けになってしまうでしょうが、今のは見ているわけにはいきませんでした。
クロもそれだけ本気であったということでしょう。
「ごめんなさいっ、アデーレちゃん」
彼女は泣いていました。
わたくしはなんと声をかければいいか分からず、その震える肩を抱きしめてあげることしかできませんでした。




