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33.闇を凍らす

明日昼更新できない可能性があります

 開始の合図とともに、パオラさんが僕に向けて手を掲げてくる。

 僕も開始と同時に自分とパオラさんの間に大きな氷の壁を展開させる。


「頑張れー茶髪の嬢ちゃん!」


「アデーレ様のメイドー!」


「精霊の国の威信を見せてやれ!」


 会場中から野次が飛んでくるが、サラ様の言う通りむしろこの声援を絶望に落とすことを考える。


 何も変化はないのでおそらく防ぎ方としてこれで間違い無いだろうと思った時だった。

 横から大きく回り込んできた彼女が氷壁の横から僕に狙いをつけてくる。

 僕は再び氷の壁を生成するが、彼女がさらに横から回り込んでくる。

 彼女の素早い動きはおそらく風の魔法などを組み合わせたりしたことによるものだろう。

 それを追いかけっこをしているうちに僕の周りが自分で作った氷で囲まれてしまう。

 上は空いている為に空気に困ることはなさそうだ。


「どうしよ……」


 氷の壁でパオラさんの魔法を防ぐところまでは良かったが、彼女の動きは想定外だ。

 風魔法を使って擬似的な身体能力の強化をするとは考えていなかった。

 おそらく彼女の基本魔法では氷の壁を破ることはできないだろうし、固有魔法も防げていると考えていいだろう。

 しかし、氷に囲まれていては外の様子は見えないので、どうしたものかと悩んでいる時だった。


 いきなり身体が影に包まれる。

 反射的に上を見てしまうと、そこには私に手を掲げたパオラさんが僕に狙いをつけていた。


「まずっ」


 急いで氷で天井も覆おうとするが、次の瞬間目の前が真っ暗になっていた。




「だからもう、あなたとは付き合えない」


「だからって……そんなんで納得できるわけないだろ!」


「別にあなたの納得なんて求めていない」


「だって僕は美佳がいなくなったら生きていけないよ!」


「そういう重いの鬱陶しいんだよね」


「…………」


 だってそれは美佳のせいなのに。


「じゃあ、もう二度と連絡してこないでね」


 彼女は一方的にそう告げると足早に去っていってしまう。

 僕の何が悪かったのだろうか、ずっと彼女の希望を叶えてきたというのに。

 そのあと、何もかもどうでも良くなった僕は一人で何軒も回って酒を飲み、酔い潰れて、そのままあの車にぶつかる記憶に繋がるのだ。



 僕は……彼女に振られたショックで、そのまま酔っで死んだのか?

 彼女に振られたくらいで、と思ったが馬鹿にできないことに気づく。

 今の僕がサラ様に捨てられたら、自分がどうなってしまうのかわからなかったから。

 ……だったらこんなところで時間を潰していていいのか?

 パオラさんに勝って、決勝に進まなくていいのか?

 答えはノーに決まっている。

 だったら起きなければ、起きて戦わなければ。

 彼女に勝てと言われだから。



 意識は取り戻したが、僕はいまだに暗闇の中にいた。

 残念ながら解除はできないし、状況もわからない。

 しばらくそのまま待ってみるが、なにか状況が変化することはなかった。

 少し手を伸ばすと氷と思われるものに手が触れる。

 そしてもう一つ、何も聞こえないことに気づく。

 彼女の固有魔法はおそらく視覚と聴覚の剥奪。

 非常に強力な能力であるし、アデーレの自信も、パオラさんの対戦相手の様子もこれで辻褄があう。

 冷たさは感じるので触覚はある。これが打撃によるダメージを与える為にわざと残しているのか、彼女の固有魔法の範囲外なのかは今の時点ではわからない。


 それであればどうするか。

 このままではいずれ氷に囲まれたこの空間の空気がなくなってしまう。

 しかし、目も見えない状況では彼女に魔法を当てることは困難であろう。

 回復魔法の使用許可はサラ様にもらってないので、この状況が回復できるのかどうかを試す術はない。


 だが、負けるわけにはいかない。

 この状況を打開する方法は一つしか思いついてない。

 彼女たちがうまく止めてくれることを祈る。


 自分の周りに炎を発生させる。

 かなり熱いが、仕方がない。我慢できないほどではない。

 おそらくこの炎を発生させている間はパオラさんから直接攻撃を受けることはない。素手以外にまともにダメージを与える術を持たないはずだ。


 溶けきったと思った瞬間、彼女が近づく前にウルフたちを凍らせた氷を地面に這わせる。

 大体のステージの大きさは覚えているが、もしかしたら観客席まで届いてしまうかもしれない。

 ステージの範囲全てを凍らせる勢いで放つ。


「はっ!」


 すると五秒ほどで視覚と聴覚が復活する。

 そこには観客席に届きそうな氷を溶かすサラ様とブルーノ先輩、その他にも何人かの教師と生徒たちが見えた。

 それを見た僕はすぐに魔法を止める。

 みんなのおかげで大事にはならずに済んだようで、助かった。


 パオラさんを探すと彼女は凍っておらず、アデーレに抱き止められていた。

 恐らく、彼女が固有魔法を解いてくれたのだろう。

 彼女は涙を流しており、言葉をかけることはできなかったが、怪我もないようで安心する。


 とりあえず緊急事態を脱したと判断した審判の教師が告げるのだった。


「し、勝者クロ」

ブクマ、評価ありがとうございます。

サブタイトルにある小文字は視点のキャラクターの頭文字です。

s=サラ

p=パオラ

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