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p1.その炎の傍で

 私が産まれたのはごく一般的な家庭だった。

 5歳の頃までは普通に育てられていて、少し魔法に優れていたことが分かってからは持て囃されて育てられていた。

 特に自分が恵まれているとは思わなかったが、不幸だとも思わなかった。このまま成長し、普通の職につき、普通に生活するのだろうと。当時の私が本当にここまで考えていたかどうかは定かではないが。


 しかし、私に固有魔法が発現した時、状況は一変した。私の固有魔法は忌み嫌われるようなものであり、両親に捨てられたわけではなかったが、距離を置かれる様になってしまった。幼かった私には急に変わった両親との距離感が辛く、耐えがたいものだった。

 それが嫌だった私は自分の家を飛び出した。

 特に行く宛もなかったので、都市の中をウロウロとしていた。外で寝泊まりし、持っていた少ないお金で食料を買っていたが、それも尽きたため家に帰ろうとした時だった。


「あなた大丈夫ですの?」


 私に声をかけてきたのは何人かの使用人を連れた綺麗な赤い髪をツインテールにまとめた、お姫様みたいな精霊だった。


 彼女がお節介なのも相まって、マンションと呼ばれるものまで連れてこられてしまった。

 食事をご馳走になり、身体も洗ってもらい、綺麗な洋服まで貸してもらった。

 こんなことまでしてもらって私の家では恩は返せないとビクビクしていると、彼女が尋ねてきた。


「あなた、魔法は使えるんですの?」


「あ、はい。一応は……」


 そう言うと移動を促されて、地下まで連れていかれる。


「全力で撃ってきなさい」


「……はい」


 私はそこそこに魔法の才能があるので、もしかしたら彼女を怪我させてしまうかもしれない。その心配から半分くらいの力で撃つと弱々しいシャワーの様な水が出るだけであった。


「それで全力ですの?」


 彼女はその水をひらりとかわして問うてくる。


「いえ、すみません。次は全力でやります」


「最初からそうしなさいな」


 次は思い切り水を発射させる。

 強めのホースくらいは勢いのある水が彼女に向けて発射される。

 それを彼女は自身の前に炎の壁を作ることで防いで見せた。


「……まぁそこそこの才能というところですかね」


「…………」


 私は彼女の魔法に感動していた。

 あれだけ綺麗な炎を操れるのかと。しかもきっとあれは彼女の全力には程遠く、もっと上があるのだと思うと止まらなかった。


「よければもっと見せてもらえませんか?」


「え?」


「今の炎の魔法凄かったので、もっともっと見てみたいです」


「え、ええ。そんなに言われてしまっては見せないわけにはいきませんわね」


 そう言うと、彼女は結構ノリノリで色々な形の炎を私に見せてくれた。きっとあの時のことを私が忘れることは一生ないだろう。


「あなたの固有魔法はどんなものなんですの?」


「それは……」


 いつか聞かれることにはなると思っていた。

 けれど、私は彼女に嫌われたくないと思う様になっていたので、固有魔法を披露したくはなかった。


「わたくしも色々と披露したんですから、あなたの固有魔法を見せてくださいな」


 私は渋々、固有魔法を見せることとなった。



「凄いですわ!」


 彼女の反応は今までに見せてきた時の反応と百八十度違うものだった。


「あなた、私のメイドになってくださらない?」


「……え?」


「急に失礼しましたわ。あなたの固有魔法を見込んで、お願いがあります。うちで雇われて欲しいのですわ」


 必要とされることが嬉しかった。

 私の固有魔法を知って、それを求めてくれることが。


「はい!」


「ありがとうございます、それでは先ずはあなたの両親のところへ……」


 そこで彼女は何かに気づいたように言葉を止める。


「申し訳ございません、名乗り遅れました。わたくしの名前はアデーレ・デッラ・スカラ。以後お見知り置きを」


「私の名前はパオラといいます」


「これからよろしくお願いしますわ、パオラ」


「こちらこそ、アデーレちゃん!」


 今では呼ぶことがなくなった呼び方で、彼女を呼ぶ。


「……できればまたアデーレちゃんの炎の魔法を見せてくれる?」


「もちろんですわ。わたくしの側にいる限り、わたくしが輝くところを一番近くで見せてあげますわ」



 それから私のことを探していた両親に事の顛末を話し、私は彼女と生活を共にすることになった。

 初めの頃は家事も何もできなかったが、時間が経てば成長するもので、今では完璧にこなせると言っても過言ではないだろう。


 また、身体を鍛えることも始めた。私には固有魔法以外に取り柄がない。そのため、魔法以外で戦える術を身につけなければならないと考えたからだ。

 この国では魔法の才能が重要視されるが、魔法を用いた試合の勝敗で判断されることも少なくない。

 その時に彼女の傍にいる者として相応しい強さを手に入れたいと思った。


 だから私はクロさんに勝って証明したい。

 このトーナメントで準優勝すればアデーレ様の隣に相応しいと誰もが認めざるを得ないだろう。

 彼女にアデーレ様が負けたと聞いた。多分固有魔法を知られてからでは勝つことはできないだろう。

 今日が最初で最後のチャンス。


 見ててください、アデーレ様。

ブクマ、評価、感想ありがとうございます

めちゃんこちゃんにやるき出てます

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