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30.メイドもそれぞれ

「それじゃあ行こうか」


「はい!」


 次の日の朝、サラ様と共に部屋を出たところで見覚えのある赤髪のツインテールが目に入った。


「ごきげんよう、クロ」


「おはようござます、アデーレ」


 仁王立ちしてこちらを向いている彼女は、どうやら僕たちのことを待っていたようだった。


「一人で行くのが寂しくなったのか?」


「そんなことあるわけないでしょう! わたくしにはパオラもいます」


 アデーレの後ろから茶髪の女の子がひょっこりと出てきた。


「私はパオラと言います、今後もお見知り置きをー。アデーレ様は友達とかいないのでよければ仲良くしてあげてください」


「なんで余計なことまで言いますの!?」


 アデーレにもパオラさんという側付きの人がいるらしい。なんというか結構緩そうな感じだろうか。


「サラ様、クロ様、お話はアデーレ様から伺っています。今後とももしこの主人に嫌気がさしても、私とは仲良くしてくれると嬉しいです」


「あなたほんとに私のメイドなんですの!?」


 さっきからアデーレがずっと突っ込んでいるが、パオラさんは意に介した様子もない。


「あ、はいよろしくお願いいたします」


「君もこんな主人を持つと大変だろう」


 サラ様が同情の言葉をかける。


「はい、それはもう大変です」


「わたくしの味方はおりませんの……」


「わざわざ朝から人の部屋に押しかけてなんのようだ」


 サラ様が用件を尋ねると、アデーレはハッとした様子で答える。


「そうでしたわ! 本日は私が優勝させていただきます!」


「……この前クロに手も足も出なかったのに?」


「き、今日はわたくしも一段と気合が入っておりますの。しかも、今日はパオラがクロのお相手をすることになりますわ」


「へぇ、あれだけボコボコにされても勝てると思ってるくらいに君の従者は強いのか」


「ええ! それはもう!」


「なんでさっきからアデーレ様が得意気なんですか? アデーレ様はギタギタにされたんですよね? メイドに頼って恥ずかしくないんですか?」


「なんでみんなしたボコボコとかギタギタとか言ってわたくしを虐めますの……」


「落ち込まないでください、アデーレ」


「ボコボコのギタギタのケチョンケチョンにした御本人に慰められてしまいましたわ……」


 なんかケチョンケチョンが増えてるし。

 時間を確認すると十時まであと十分しかなかった。


「サラ様、そろそろお時間が」


「アデーレのせいで遅刻ギリギリではないか」


「わたくしのせいですの!?」


「アデーレ様のせいですね」


 会場がトーナメントの右と左で分かれて準々決勝まで行うため、サラ様とはここで別れることになってしまう。


「サラ様、お気を付けてくださいませ」


「ありがとう、クロも負けるなよ」


「はい!」


 僕とアデーレ様はそれぞれ別の会場へと向かう。


「本日はよろしくお願いします」


 気づいたらパオラさんが隣を歩いていた。


「こちらこそよろしくお願いします」


 振り返ると一人で歩いて行こうとするサラ様にアデーレが縋り付いているのが見えた。あの入学式での威勢はどこへ行ってしまったのだろうか。



 会場へ着くと簡単なルールの説明をされた。

 相手を殺したり、治療不可能な怪我を負わせるなということらしい。

 今年の新入生は六十四人、六回勝てば優勝ということになる。



 早速、私は一回戦に呼ばれてしまった。

 サラ様に言われたことを思い出す。相手の固有魔法がわからない以上、先手必勝。

 相手の子はあまり試合とか得意そうな見た目には見えない。まぁ僕も人のこと言える見た目はしてないと思うが。


「始め!」


 開始の合図と同時に氷の魔法を発生させる。僕の足元から氷が伸びて相手の全身を包み込むイメージで。

 イメージ通りに相手の動きを止めることに成功する。

 相手の子は動けないようだ。

 見ている生徒たちの歓声も止まり、審判の先生も固まっている。


「先生」


 僕が呼びかけると再び時間が動き出す。


「勝者クロ!」


 そこまで大規模な魔法は使っていないが、今日は調子が悪くなさそうであった。

 僕は一回戦を一瞬で突破した。


「なんだ今の!?」


「一瞬だったぞ!?」


「すげぇ!」


「しかも見た目も可愛い!」


 最後のはちょっと魔法関係なかったけど、持ち上げられるのは悪くない。千人分くらいあればサラ様のお言葉の一パーセントくらいの価値はあるだろう。


 観戦している生徒の中に戻ると、様々な視線を浴びせられるが注目されるのは気持ちよかった。


「さすがですね」


 パオラさんが声をかけてきてくれる。


「ありがとうございます」


「どうして氷魔法を使われているんですか?」


「イメージがしやすいのと、綺麗だからかな?」


「確かにクロさんのイメージにあってますね」


「それならよかった」


 二人で話していると周りの会話が耳に入ってくる。


「話してるの誰だよ」


「アデーレ様のメイドらしいよ」


「じゃああの子も強いんだろうな」


「誰が優勝するのかな?」


「あのクロって子も強そうだけど、優勝は流石にアデーレ様だろ。入試の結果も主席だし」


 別にいい。人の評判のために魔法を使っているわけではないから。

 実はアデーレに勝ってるんだけどなぁと思いながら少しだけモヤモヤとしてしまうが、今日のうちにはみんなも評価を改めてくれるだろう。

 僕が……いや、僕の主人がきっとアデーレに勝ってくれるから。



「次、私らしいので行ってきますね」


 僕に勝てるとアデーレさんに評されたパオラさんは試合へと向かって行った。

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