29.固有魔法ってなんか強そう
学校のいたるところに張り出されていたトーナメント表の一つをサラ様とともに眺める。
正直、僕が知っている名前なんて自分とサラ様、そしてアデーレの三人だけしかないのだが。
自分の名前とサラ様の名前を見つける。
彼女とはトーナメントの反対側のようで一安心した。
「良かったです、サラ様とは当たらなくて済みそうで」
「何を言っているんだ?」
「え?」
もう一度トーナメント表を見返すが、見間違いではない。
「どういうことでしょうか?」
「負けるな、必ず決勝まで上がってこい」
「……はい、かしこまりました」
本音を言えば少し自信がなかった。アデーレと試合をして以降、何故か魔法が以前ほど強く使えなくなってしまっている。
明日には復調しているといいのだが。
「そういえばアデーレは見つかりましたか?」
「彼女ならここにいる」
サラ様が指し示してくれたところにアデーレ・デッラ・スカラの名前を見つける。
「ここということは……」
「準決勝で私と当たるな」
「サラ様……」
入学試験の結果だけで言えば、アデーレの方が上、もちろん試合と試験では別物だからわざわざこのような行事を行うのだろう。
しかし、アデーレの方が有利であろうことは確かだ。
「そんな目で見るな、いつから主人の心配をできるほどクロは偉くなったんだ」
彼女は少し茶化すように言う。
「申し訳ありません」
入学祝いということで夕食は外で取り、寝る準備を済ませたところでベッドに腰掛けた彼女が話しかけてきた。
「少しだけ魔法について話をしておこうと思う」
「はい、よろしくお願いします」
僕はどうやって聞いたらいいか迷った結果、彼女の正面の床に正座した。
「……クロはなにをやっているんだ?」
「主人のお話を賜るので、相応の姿勢が必要かと」
「小さく縮こまっている君は可愛いが、今はそういう話ではないから私の横に座って欲しい」
「かしこまりました、失礼します」
主人のベッドに腰掛けていいのもかと思うが、その主人の命令だから仕方ない。
それより、サラ様からは少しいい匂いがする。
今は自分も美少女なのだし、いい匂いとかするのだろうかと自分の体臭を嗅いでみるがよくわからない。
自分の匂いだからわからないのか、それともサラ様がいい匂いがするだけなのか。
「君はなにをやっているんだ?」
彼女に変人を見るような目で見られてしまった。
急に自分の臭いを嗅ぎだした僕が悪いとは思う。
「いえ、申し訳ありません」
自分の臭いを嗅ぐのをやめ、彼女の方へと向き直る。
「魔法が魔力量と放出量に依存することは覚えているか?」
「はい、覚えております」
僕がサラ様に教えてもらったことを忘れるわけがない。
「ならその話はいいか。本題に入ろう、魔法には大きく二種類の魔法がある」
「二種類の魔法ですか?」
「あぁ、誰もが使える基本魔法と個人が一つだけ持つ固有魔法がある」
「固有魔法……」
なんか響きがかっこいい。
「先に基本魔法から説明する。こっちはシンプルで普段多くの人間が使っているのはこちらだ。クロが氷を発生させたり、アデーレが炎を発生させたりしているものになる」
「サラ様が試験の時に使われた風の魔法もですか?」
「そういうことだ」
今まで僕はイメージのしやすさから氷の魔法ばかり使っていたが、初めに炎を出したように他の魔法も使えるということか。
「基本魔法についてはわかりました」
「クロと話していると理解が早くてストレスがない」
「お褒めいただきありがとうございます」
小さなことであっても彼女は褒めてくれるし、それが今の僕にとっての生き甲斐になっていると言っても過言ではないかもしれない。
「次に固有魔法だが、こちらはちょっとだけ複雑だ」
「複雑……」
「そう身構えるほどでもない。固有魔法にも二種類あるというだけだ。一つは私が他人の魔力量や放出量、固有魔法を見ることができるような、本当に固有な魔法」
「僕の回復魔法もそうなんでしょうか?」
サラ様には固有魔法まで見えているということなので尋ねてみる。
「……そうだな」
「だからみんなが使えないというお話なんですね」
「もう一つは基本魔法を強化するようなものも固有魔法だと呼ばれている」
「強化ですか?」
「あぁ、君はその類い稀なる放出量で同等の氷魔法をぶつけてしまったから気づかなかったかもしれないが、アデーレの炎の魔法は固有魔法で強化されているため非常に強力だった」
「……なるほど」
あの時の僕の基本魔法は固有魔法で強化されたアデーレの魔法と同程度の出力であったということか。僕が全力でなかったように、向こうも全力でなかったかもしれないから正確にはわからないけど。
「固有魔法はどちらであっても条件によりレベルアップされていく。おそらくアデーレの固有魔法は炎魔法しか使わないことでどんどん強化されていっているのだろう。私の固有魔法も対象との距離によって見える情報が変わってくる」
「僕の回復魔法もなにか条件によってレベルアップするんでしょうか?」
「おそらくそうであろうが、その条件までは私にはわからない」
「貴重なお話ありがとうございました。このお話は明日のためにということですよね」
「そうだ。正確に言うなら相手の固有魔法がわからない以上、もしかしたら食らってしまえば君でも足元を掬われるかもしれない。だから、明日は先手必勝。相手に何かさせる前に無力化しろ」
「かしこまりました、明日は必ず決勝まで進んでみせます」
「あぁ、期待している。頼んだぞ」
彼女に期待されてる。それだけで僕は誰にも負けない。
 




