3.奴隷なんて当たり前
「あれは……一体なんなんですか?」
「話は中に入ってからだ」
大きな城に着いたところで僕は彼女に尋ねるが回答を後回しにされてしまう。
強く突っかかっても仕方がないと思った僕は彼女たちへの不信感を募らせながらも、今更引き返すわけにもいかず彼女に着いていく。
「「「「「おかえりなさいませ、サラ様」」」」」
多くのメイドと執事に出迎えられる。
大きい城だったからもしかしたらとは思っていたが、本当に並んでいると圧巻である。
「そちらのお客様は?」
見た感じメイド長のように見える人が少女に尋ねる。
「森で拾ってきた、客間に通しておいてくれ。その兜は客間に入るまで外させるな」
「かしこまりました」
彼女は恭しく頭を下げると私の元へと来る。
「はじめまして、メイド長のアガタと申します」
彼女は僕にも頭を下げながら挨拶をする。
「これはご丁寧にどうも」
私も頭を下げて挨拶に応じる。
「それではこちらにどうぞ」
アガタさんが歩き始める。
少女の方を見ると彼女は僕の心配を見透かしたように声をかけてきた。
「準備ができたら向かうから大人しく待っててくれ」
僕はそれに応えることはせず、アガタさんに着いていった。
「こちらがお客人用のお部屋になります」
「ありがとうございます」
部屋に着くまで特に会話もなかった。色々と聞きたいことはあったが、それは少女に全部すればいいやと思っていたからだ。
「後ほどお飲み物をお持ちします。それでは失礼します」
それだけ言うとアガタさんは部屋を出て行ってしまった。
部屋を見渡すと大きなテーブルに高そうな椅子、豪華なシャンデリアとこの部屋の中だけでも豪勢なことがよくわかる。
正直、あまり居心地がいい場所ではなかったが、勝手に部屋から出ていくわけにもいかず、テーブルの周りをぐるぐるとしていたらティーセットを持った少女が入ってきた。
「すまない、待たせたな」
彼女はそれだけ言うとティーセットをテーブルに置き、二人分の紅茶を入れ始める。
「そういうのはメイドにやってもらわないんですか?」
すると彼女は少し得意げに答えた。
「私は自分でやれることは自分でやる主義だからな」
「……そうですか」
自分から聞いたくせに反応がおざなりになってしまったが、今の僕は怒りと不信感を彼女に抱いているので悪いとは思わない。
「とりあえずその兜は外したらどうだ?」
「……そうですね」
兜を外すと頭はだいぶすっきりとした。彼女にまとめられた髪はまだそのままでいいだろう。
「砂糖とミルクは使うか?」
「結構です」
「そうか」
彼女は二人分の用意を終えるとそのうちの一つの席に着く。
砂糖とミルクをめっちゃ入れてた。そういうところは年相応なのだろうか。
僕ももう一つの席に着く。
「いただきます」
一口飲んだだけで紅茶が美味しいことがわかった。特に紅茶について詳しいわけでもない僕が美味しいとわかるくらいには明らかに味の違うものであった。
「じゃあクロの質問に答えていくとしようか」
僕が早くしろと思っていた時間がやってくる。
「何から聞きたい?」
「何故、人間が全員奴隷になっているのですか?」
「やはりそれか」
「どう考えてもおかしいでしょう!」
僕は少し声を荒げてしまう。
「なにがおかしいというのだ?」
「なにがって……人間を奴隷扱いしてることがですよ」
彼女のなにを当たり前のことをという態度が僕を余計に苛立たせる。
「クロは記憶を失っているようだから説明する必要があるようだな」
「説明?」
「人間は10年前にエルフとの戦争に敗れ、その殆どが死に絶えた。僅かに残っている人間も生殖が許されていないため、年々数を減らしている。また、生きている人間も全て奴隷になっているというだけのことだ」
「戦争……?」
「文明の利器を使う人間に我々エルフは魔法を持って制したのだ」
「魔法? そんなものがあるんですか?」
僕の知らないことが次々と彼女の口から出てくる。
「本当になにも知らないようだな。ただ、魔法の話は後回しだ」
彼女は僕の目を見つめて言った。
「人間が奴隷になっていることをおかしいと思っているのは君一人で、それがこの世界では普通なんだ」
この世界では普通……?
もしかして、こことは違う世界を僕は知っているのか?
「納得したか?」
「……納得はしてませんけど、理解はしました」
「私はクロの理解が早いところが好きだよ」
「……それはどうも」
好かれて悪い気はしなかった。先ほどまで彼女に対して怒りすら感じていたはずなのに、何故か丁寧に説明してくれる彼女に対し好意的な感情が芽生えていたのだ。
「それで魔法のことか?」
「はい」
「魔法というのは人間が得意としていた科学では証明できない力で現象を引き起こすことだ」
「それがエルフには使えると?」
「正確には一部のエルフが、だな」
「…………」
エルフの時点で僕の理解を超えていたのだから、今更魔法が追加された程度でそこまで驚く必要はないのかもしれない。
「信じられないか? それ」
彼女が立てた人差し指からマッチほどの小さい炎が出る。
「……信じます」
「よろしい」
「魔法というのはなんでもできるのですか?」
「なんでもではない、魔法についての説明は長くなるからまた今度にしよう」
「わかりました」
「まだ聞きたいことはあるか?」
正直聞きたいことは山ほどあるが、今一番早く決めなければならないのが今後の身の振り方だ。
「何故僕を奴隷にしようとしたんですか? 奴隷になったらどうなるんでしょうか?」
「やっと聞いてくれたか、いや逆にこの順番で良かったかもしれない」
彼女は少し楽しそうに言葉を続ける。
「先にクロを奴隷にしたい理由から答えよう。第一の理由は何故か人間の君に魔法の才能があるからだ。それもこの国、いや、この世界で一番かもしれない才能が」