27.はじめて求婚というものをされました
「ブルーノ先輩……ですか、よろしくお願いします」
自己紹介を受け、私は挨拶を返す。
「私は」
サラ様が自分の名前を言おうとしたところだった。
「エルフの国のお姫様だろう?」
「……あぁ」
彼女は自分の名乗りが中断されたことに少々不満なようだ。
「噂は聞いているよ。見目麗しく、魔法の才に秀でたエルフの国の姫が魔法学校に来るとね」
「それはどうも」
すると彼は僕の方へと向き直って尋ねてくる。
「君の名前は?」
ブルーノ先輩は僕に向かって尋ねてくる。
「クロと申します」
「クロ……可愛い名前だ。早速で悪いんだが、僕と婚約をしてくれないか?」
「「……は?」」
サラ様と声が重なる。
コンヤク?
「えっと、今なんて仰りましたか?」
「僕と婚約して欲しいと言った」
「ど、どうしてでしょうか?」
急なことに焦ってしまい、僕もどう返していいかわからなくなってしまう。
「君に一目惚れした。その青い瞳は空のように澄んで美しく、神が造ったのかと思うほどに整った顔。そして、美しい立ち振る舞いと主人を立てようとするその態度。君の全てが愛おしい!」
「…………」
なんかすごい饒舌に語り始めてしまった。
どうしようとサラ様に視線を送ると、彼女がブルーノ先輩の前へと歩み寄った。
「クロはやれない」
彼女がハッキリと言ってくれる。
「君の従者は僕が新しく見繕う。魔法に関して優秀で、仕事もできて容姿も整っている者を用意しよう」
「そういう話ではない」
取り付く島も無いくらいにバッサリと断ってくれることが嬉しい。
「じゃあどういう話なんだい?」
「私の従者はクロしかいない。そもそもクロより魔法で優れているやつなんていないと思うがな。それにクロより可愛い者もいるとは思えん」
「後者には後者には同意しかないね。じゃあ仮に彼女より優秀で可愛い従者が用意できれば譲ってくれるかい?」
「譲るわけないだろう、彼女は私にとってかけがえのない従者なんだ」
彼女はさらに続ける。
「それに、先ほどから私にばかり許可を求めてくるのはなんなんだ? 本人の意思をここまで一度として確かめようとすらしていない。そんな奴に彼女の主人が務まるわけがない」
「……出直すとするよ」
ブルーノ先輩は僕たちに背を向けて歩き出す。
「まだ僕は諦めてないよ」
彼はそう言い残して去っていってしまった。
ご飯を食べ終えて、夜道を寮へと向かう途中、サラ様がぽろりと溢した。
「クロは……どこにも行かないよな?」
今まで彼女が弱音を吐いていることがあっただろうか。僕が国王に殺されかけて死にそうになった時に焦った様子は見たが、こんなところは見たことがなかった。
彼女はすぐにハッとして言った。
「すまない、今のは忘れてくれ」
そう言われるが、忘れることはできそうもないし、放っておくのがいいとも思えない。
「いきませんよ」
「……でもちょっと話をさせてくれ」
彼女はそこで終わりにせずに話を続けた。
「はい」
「入学試験ではアデーレに及ばなかった。私の才能は魔法にしかなかったというのに今では見る影もない」
「…………」
僕は昔のサラ様を知らないから、彼女がどれほどの才能を持っていたのかも知らない。けれど、僕が惹かれたサラ様は既にその才を失った後であったし、僕が魔法の才能で彼女を判断することはありえない。
「それに、さっきクロを引き抜かれそうになった際は君の意見を聞かずに反対してしまった。相手に本人の意見を聞けと言いながら、自分だって同じだったのだ」
僕にはサラ様の元を離れるつもりなんてこれっぽっちもないため、彼女が勝手に意見を述べているという認識はなかった。
拒否してくれたことはむしろ嬉しく、試験で結果が出なかった僕をほんとうに見捨てないでくれていることが実感できたくらいだ。
「サラ様、クロは……」
「君は優しいからな、きっと許してくれるのだろう。けれど、私は自分が許せないのだ」
「…………」
しばらく二人の間に無言の時間が流れる。
我慢できずに口を開いたのは僕だった。
「クロは何があってもサラ様のお側を離れることはありません。たとえ拒否されても、貴方に相手にされなくても、ずっとずっとついていきます」
「……ありがとう」
彼女ば寂しそうな笑顔を浮かべてそう言うのだった。
家に帰り、ベッドに入って考える。
……サラ様は一体どれだけの才能を持っていたのだろうか。
きっと考えても仕方のないことであるし、彼女自身は詮索されることを望まないだろう。
サラ様に尋ねれば答えてくれるだろうが、彼女が嫌がることを聞くのも嫌である。
けれど、僕は彼女の心の内を知りたいとも思うのだ。一体どれだけの落差を味わって、一体どれだけの苦悩があるのか。
そして、できればその一部でも僕に負担させてくれないかと願うのだ。
既に彼女は可愛らしい寝息を立てて既に夢の中にいた。
その夢の中に僕がいたらいいなと願いながら、僕も後を追うのだった。
そして一週間が経ち、遂に入学式の日を向けたのだった。
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