23.究極の選択
「いらしていたのですか」
サラ様がそう言うと国王が答える。
「エルフの国からの客人の魔法が気になってしまってな。彼女の魔法は想像以上のものであったな」
「それは良かったです」
彼女が嬉しそうに笑う。
「わたくしはまだ負けておりません!」
アデーレさんはまだ諦めていない様であった。
「今のでまだ力の差がわからぬほどお前も馬鹿ではないだろう」
「……っ」
その言葉で彼女も負けを認めたのか、膝をついて地面を見つめている。
勝者が敗者にかける言葉はないとどこがで聞いたので、僕はどうすればいいかとサラ様に視線を送る。
すると、サラ様がアデーレさんの方へと向かっていった。
なにか、慰めの言葉でもかけるのだろうか。
「なにを落ち込んでいるんだ? 早く発言の訂正と謝罪をしろ」
確かにそういう約束ではあったけれども、落ち込んでいるところにそれは容赦がなさすぎるのではないでしょうか。
「分かってますわよぉ……」
アデーレさんちょっと涙目になっちゃってるし。
しかし、彼女は弱音を吐く事はなく、立ち上がると僕の前まで来た。
「先程は失礼なことを言ってしまいました、申し訳ございません」
頭を下げて、素直に謝られる。
「だ、大丈夫ですよ。特に気にしていないんで」
「本当ですか?」
瞳に涙を浮かべながら上目遣いで尋ねてくる。
「本当ですよ」
そう言うと彼女は満面の笑顔になる。
「あなたいいエルフですわね! お名前を教えてくださいまし!」
「ク、クロと申します」
急に変わった彼女のテンションに気圧されてしまった。
「クロ! また私のお相手をしてくださる?」
「えぇ、アデーレさんさえよろしければ、このクロいつでもお相手させていただきます」
「自分のことをクロと呼ぶんですよね。可愛いですわ」
「ありがとうございます」
サラ様の趣味だと思っていたこの一人称だが、初めて彼女以外にも褒められた。受ける人には受けるのだろうか。
「あと、わたくしのことはアデーレと呼び捨てで構いませんわ」
「流石にお姫様を呼び捨てには……」
「わたくしがいいと言っているのです」
「けれど、従者の身分であるクロが呼び捨てるわけにはいきません」
「お父様よろしいですわよね?」
「それくらい好きにしてよい」
「国王の許可は得ました。魔法学校に入ったら同級生なのです。是非ともわたくしの最初のお友達になってくださいませんか?」
そこまで言われては仕方ない。
「かしこまりました、アデーレ」
「本当は敬語もやめて欲しいのですが、そこは諦めますわ」
そこにサラ様が入ってくる。
「何を勝手に私のクロと仲良くなっているんだ」
「いくら従者だからって、私のクロとは言い過ぎですわ。あなたのものではありませんわよ」
サラ様のこめかみがピクリとする。
ここで僕のことを奴隷だとか言い出さないか心配だ。人間だとバレたらどうなるかわからない。
「ふーーーーっ」
サラ様は深く息をついて、怒りを沈めている。
「なぁクロ、君は私のものだよな?」
そう来ましたか。確かに僕自身がイエスと言えば、身分を明かすことなく僕をサラ様のものだと言える。
ただこれを認めてしまえば、先程アデーレに勘違いされた不潔なことがより信憑性を増してしまう。
「クロ、自分はあなたのものではないとはっきりおっしゃった方がよくてよ」
「まさか、私を嘘つきにして、恥をかかせたりはしないだろうな?」
「…………」
僕はなんと答えるべきなのだろうか。
イエスと言ってアデーレに引かれるか、ノーと言ってサラ様に叱られるか。
迷っていたが、僕に迷う権利などなかった。
僕の主人はサラ様で、奴隷である僕は彼女の命令に絶対なのだから。
「クロはサラ様のものです」
「なっ……」
アデーレが絶句する。
「それでいいぞクロ」
サラ様が僕を褒めてくれる。
「私は嬉しい、後できちんと褒めてやろう。この負け犬をきちんと負かした褒美とともにな」
「ありがとうございます」
「やっぱりお二人はそういう関係でしたのね……」
事実無根であるはずなのに、彼女の勘違いには同情してしまう部分もあった。
「本当にそういう関係はないんです」
「それでも、クロの従順さであれば、迫られたら断れませんわよね?」
「断れると思います……多分」
「それ絶対断れないじゃないですの!」
自分でもサラ様の命令を断れるかと言われたら、正直自信はあまりない。
「いちいちうるさいぞアデーレ」
「あなたたちのせいですわ! というか、あなたに名前の呼び捨てを許した覚えはありませんわ!」
彼女はなかなか面白そうな人で、クラスメイトになれる事は楽しみであった。うるさいけど。
「それではクロたちは学校の方へと向かいます」
「ええ、また一週間後に」
「はい、本日はありがとうございました」
建物の外まで送りに来てくれたアデーレに別れを告げる。
サラ様とアデーレは最後は口を聞いていなかった。
僕たちは歩いて街を眺めながら魔法学校へと向かう。
「面白い人でしたね」
「アデーレが?」
「はい、学校がとても楽しくなりそうです」
「……まぁ、彼女がいれば騒がしくなるだろうな」
他にはどんな人が魔法学校に集まるだろうかと想像すると一週間後が楽しみで仕方なかった。
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