22.姫ってみんな強情ね
「私はサラ・ド・ブルゴーニュだ、よろしく」
「…………」
アデーレと呼ばれた少女はサラ様の自己紹介に対して、何も言わない。
彼女は父親と同じ赤い髪をツインテールにしている。
王族というのはこうも皆、顔が整っているものなのだろうか。サラ様には及ばないが、確実に美少女と呼ばれる部類であろう。
「アデーレ!」
国王が彼女を叱責する。
しかし、彼女強い態度を崩さない。
「お父様、いつも言っておりますが私は魔法もろくに扱えない者と関わり合いになる気はありません」
「その差別主義はやめろと言っているだろう」
「差別ではありません、区別ですわ」
「……はぁ、だとしてもこの方たちは魔法に長けていらっしゃるぞ」
「エルフの中での話でしょう? ここは精霊の国ですわ。エルフの中での評価などここでは価値を持ちません」
サラ様以上に人の話を聞かないタイプらしい。
「そもそもなぜこの部屋にエルフの国の姫はまだしも、その従者まで入れているんですの?」
「何か問題でも?」
「ここは王室ですわよ? エルフの薄汚い従者が入っていいところではありませんわ」
おそらくそういうことではないとわかってはいながらも、昨日と同じ服を着ていることがバレたのではないかと少しだけ焦る。
「クロが薄汚い……だと?」
「ええ、何か間違っていて?」
「彼女はここからが綺麗なのはもちろん、身体だって……」
サラ様はそこまで言って自分の失言に気づいた様だが、遅かった。
「身体って……」
アデーレと呼ばれていた彼女は顔を赤くしている。
「違う、違うのだ。私たちにそういうことは一切ない。全くない。いたって健全な主従関係だ」
凄い勢いで否定し始めるのが逆に怪しく見えてしまうことにも気づいていないのだろう。
「ふ、不潔ですわ! 主従の関係を利用して無理やり迫るなど!」
なんか相手方もなかなか妄想逞しい。誰も無理やりなんて話はしてないのに勝手にそんなことを言い出している。
国王の方を見ると、大変だねぇとでも言いたげに僕の方を見てきている。そんな哀れみの目で見ないでください。
「私の事は別に不潔だとでも薄汚いとでも好きに言って構わない。だが、クロに対する発言は取り消してもらおう」
「拒否しますわ」
「取り消せ」
「嫌ですわ」
サラ様が僕のために怒ってくれている事は嬉しいが、相手も折れる気配が無いため、止めようとしたところだった。
「ならば、今からクロが君よりも魔法の才能な秀でていることを証明しよう。それができたら発言を取り消して、彼女に謝ってくれ」
「いいですわよ。ただし、できなければ今すぐに二人とも荷物をまとめて国にお帰りいただきます。よろしいですわね?」
「問題ない」
国王が焦った顔をするが、ヒートアップした二人の間には入れず何もいうことができていない。
「どのような方式がお望みで?」
「この国には魔法を用いた試合をすることがあると聞く、それで勝負しよう」
「本当にそれでわたくしに勝てるとお思いで?」
「もちろんだ」
「舐められたものですわね、ついていらっしゃい」
アデーレは廊下へと出ると一人でどんどんと進んで行ってしまう。
「勝手をしてしまい失礼いたしました、国王様」
「失礼いたします」
そう言ってサラ様と僕はアデーレさんを追って行く。
「ここですわ」
先程乗ってきた魔力で動く部屋に入り、今度は地下まで下がったところにその部屋はあった。
床に白線が引かれ、空調設備があるだけで他には何もない。
「どちらかがギブアップと言ったら終了。後に残る怪我や命を脅かす攻撃はなしという事でよろしいですわね?」
「いいなクロ?」
「はい、かしこまりました」
僕とアデーレさんが白線が引かれて定位置と思われるところに立つとサラ様が止めてきた。
「ちょっと待ってくれ」
サラ様はアデーレさんにそう言うと僕を呼び寄せて耳元で囁く。
「勝ってこい、信じているからな」
「はい!」
やはり彼女の応援は何よりも、力になる。
試合と呼べるかはわからない、ケンカの様なものではあるが、初めての魔法ありでの対人戦闘が始まるのだった。
早速、氷でアデーレさんの身体を固めようと目の前に氷を展開して彼女を取り込もうとする。
巨大な氷の波のようなものが彼女へと襲いかかる。
「確かに、なかなかやりますわね」
しかし、アデーレさんは目の前から強大な炎をだして氷を次々と溶かしていく。
「まぁ、エルフにしては、ですけど」
おそらく、エルフの国の王よりも凄まじい火力を誇っている。
彼女がエルフのことを見下していたのも理解できるほどの魔法の規模だ。
「それでは次はわたくしの番ですわね」
そう言って彼女が次の魔法を準備しようとした時だった。
「もう終わっております」
僕はそう言うと、先程の炎で溶かされた氷が残した水を操り、彼女の全身をその水の中へと閉じ込めた。
そのまま、十秒くらいして彼女を水の中から解放する。
「まだ、わたくしはギブアップとは言っておりませんわよ」
諦めが悪いなと思いながら次の魔法を考えていると、そこに割り込む声があった。
「お前の負けだ、アデーレ」
いつの間にか国王が来ていたのだった。




