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21.終わり、始まる

「とうちゃーく」


 ケーテがそう言うのと同時に馬車が停車する。

 目の前には今まで見た中で一番高い、縦に伸びた建物があった。


「それじゃあここまでだね」


 僕は少ない荷物を持って馬車を降りる。

 ケーテと、前の馬車に乗っていたロメウドさんと護衛の二人も馬車を降りて僕たちのところへとやってきた。


「あ、お金を払わないと」


 私はアガタさんから渡されていたお金を取り出そうとする。


「そいつはいいさ、この国で美味いもんでも食べな」


 ロメウドさんは最初の時とは違って、お金を受け取ろうとしない。


「でも……」


「死を覚悟するほどのウルフの群れから助けてもらって、さらに金なんて受け取れねぇ」


「そうだよそうだよ、気持ちだけもらっておくよ。ありがとね、クロちゃん」


「……わかりました」


「そうだぜ、あのすごい魔法には助けられた」


「最近俺たちが弛んでいたことを思い知らされたよ。俺たちももっと頑張らないとな」


 護衛の二人が口々に言う。

 全員が無事に精霊の国に着けたことを改めて良かったと思うのだった。



「ありがとう、みんな。私はここまでの旅路、一日という短い時間だったが楽しかったぞ」


 サラ様の言葉に男性陣は嬉しそうだが、どう反応すればいいか困っている様だった。


「私もだよ、サラちゃん!」


 その中でケーテが一人、彼女の言葉に感動していた。


「というかエルフの国のお姫様なんだっけ? サラ様……とかの方がいいのかな?」


「別に今まで通りで構わない」


「そっか、ありがとうサラちゃん。クロちゃんもありがとね!」


「こちらこそありがとうございました」


 彼女たちにはお世話になった。ここまで連れてきてもらったことはもちろん、食事もご馳走になったし、いろいろなお話も聞かせてもらった。


「それじゃあまたどこかで会おうね」


「ああ、一年後からは私がエルフの国の王になっているからな。いつでも来るといい」


「すごい自信だね」


「サラ様は絶対に王になります」


 思わず口を挟んでしまう。


「そっか、クロちゃんもいるんだもんね。じゃあサラちゃんが王様になったらまたお邪魔しようかな」


「いつでも待っているぞ」


「それじゃあ、またね」


「また会える日を楽しみにしています」


 彼女たちは馬車に乗って去って行ってしまった。





「さて、行くとするか」


「ここは何の建物なのですか?」


「私も初めてだから詳しくは知らないが、この国の王はここにいるらしい。初めに挨拶をしておいた方がいいと思ってな」


 建物に入ろうとすると扉が自動で開く。

 中に入ると緑色の髪をした女性の精霊が待ち構えていた。


「お待ちしておりました。サラ・ド・ブルゴーニュ様。遠くまでご足労いただきありがとうございました」


「あぁ」


「ご案内いたします」


 サラ様と僕は彼女の後ろについて行く。

 少し歩いて、狭い個室のようなものに入る。


「これは?」


「魔力によって動いており、建物内を縦移動しております」


「ほう」


 しばらくすると個室の扉が開く。


「お先にどうぞ」


 そう言われて僕とサラ様はそこから出て行く。


「こちらです」


 最後に降りた彼女に率いられて、廊下を進む。

 城の廊下と比べて、外気がほとんど入ってきていない様な気がする。


「こちらになります」


 一階で見た部屋とは明らかに違う雰囲気を放つ部屋の前で彼女はそう言った。


「失礼いたします、国王様。サラ・ド・ブルゴーニュ様とその従者の方をお連れしました」


「ご苦労下がっていいぞ」


 髭を生やした、エルフの国王と同じくらいの歳に見えて、赤い髪をして国王と呼ばれた男性がそう言う。


「失礼いたします」


 ここまで案内してくれた緑色の女性は部屋を出て行く。



「よく来てくださいました、サラ殿」


 最初に口を開いたのは国王と呼ばれていた男性だった。

 かけていた柔らかそうな椅子から立ち上がり、声をかける。


「急なご訪問、申し訳ありません」


 サラ様がそれに答える。


「いえいえ、あなたのような魔法の才能に秀でた方は特にいつも歓迎しておりますよ」


「ありがとうございます」


 この国では魔法の才能があることがとても重要な様だ。国王までそれを重視しているとは。


「是非おかけください」 


 サラ様が国王の向かい側に腰をかける。


「魔法学校に入学したいというお話でしたね?」


「はい、この国の魔法学校で魔法の知識を増やし、今以上に魔法を使いこなせる様になりたいと思いました」


「サラ殿ほどの方にどれだけ意味があるかはわかりませんが、歓迎しております」


「ありがとうございます」


「お連れの方も魔法学校に入学されるというお話でしたね」


「はい、クロは私以上に魔法の才能に溢れております」


「サラ殿以上ですか! それは一人の魔法を扱うものとして興味が惹かれますな」


 国王がサラ様の後ろに控えている僕のことを吟味する様に見てくる。


「必要はないと思うのですが、この国の王家ですら入学試験を受ける決まりですので、後日受けていただいてもよろしいですか?」


「もちろんです」


「ありがとうございます」


 すると今までずっと国王の隣に座っていたが、一言も発しなかった女の子が口を開いた。


「お父様」


「あぁ、すまなかったな。サラ殿、紹介が遅れました。この子はアデーレ、今年から魔法学校に入学する私の一人娘です」


「……よろしく」


 彼女の態度は、ひどくぶっきらぼうであった。

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