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20.精霊の国

「ついに見えてきたよ」


 ケーテが教えてくれたため、馬車から顔を出して前を見るとそこにあったのはエルフの国よりだいぶ進歩していると思われる精霊の国であった。


 エルフの国は中央に大きな城と城下町があり、それを取り囲む様にある森が国の領土であった。都市は街という形になっているが、周りまではまだ開発が進んでいないように見受けられた。


 それに対して今目の前に広がる精霊の国は高い壁があり、中までよく見えるわけではないものの何十メートルもあると思われる建物が複数見受けられる。

 城よりもスタイリッシュで四角い形をしている。


 どこか見覚えがある……気がする。

 あるとしたら恐らく男であった時のことだろう。

 ……今はそれ以上思い出すことができない。


「それじゃあ身分証を用意しておいてね」


「分かりました」


 アガタさんに渡された身分証を用意する。

 僕が城に来てから二日でここまで用意してくれていた。身分証の写真などいつの間に撮られていたのだろうか。改めて、彼女の能力の高さを感じる。



 壁の中へと入る門の前では列ができていた。歩きであったり、馬に乗っていたり、馬車に乗っていたりとそれぞれであるが、一人一人確認しているのだろう。なかなか列は進まない。


「エルフの国を出る時はすぐだったんですが」


「どこも出る時はすぐなんだけどね」


 ケーテが自身の経験から語ってくれる。


「まぁ何か時間でもあれば出て行く時もきちんと見るだろうけど、何事もない時までそんなにチェックはしない感じかな。入る時は変なやつが入ってきて、国の中で何か起こされちゃ困るからちゃんと見てる感じかな」


「確かに、入国時に厳しくするのは当然なのですね」



 結局、列に並んでから三十分くらい待たされて僕たちの順番が来た。

 僕とサラ様は馬車から降りる。


 最初にケーテが身分証を門番らしき精霊に提示する。

 ここで精霊を初めて見たが、特に人間やエルフと大きく変わる様には見えない。

 強いて言えば兜からはみ出ている髪の毛が、精霊によって赤だったり青だったりとしており、カラフルなことくらいだろうか。


 門番が身分証とケーテの顔を見比べ同一人物かどうか確認している様だ。


「何の目的でこの国へ?」


「商人だから商売をしに」


「この国に来るのは初めてか?」


「一度だけあるよ」


「…………」


「…………」


「中を確認する」


「はーい」


 ケーテが馬車の中を門番に見せて、何も不審物がないことを確認させる。


「行っていいぞ」


 ケーテは馬車を前に進め、門を抜ける。


「次」


「先に行っていいぞ」


「わ、わかりました」


 僕の身分証にはエルフであることが記されているが、残念ながら僕はエルフではなく人間だ。

 もしバレたらどうなってしまうのだろうと思うと緊張してしまう。


「そんなに緊張していると不審者に見えるぞ」


 サラ様にから注意され、先に門番の前へと向かう。


「身分証を」


「ひゃ、ひゃいっ! あっ!」


 身分証を渡そうとするが、焦って落としてしまう。


「すみません、すみません」


 急いで拾い直して、門番へと身分証を渡す。

 僕と身分証の写真を何度も見比べる。ケーテの時より時間が長い。

 もしかして、僕がエルフでないことがバレてしまったのではないかと考えると内心穏やかじゃない。


「この国は初めて?」


「は、はい。そもそも国を出るのも初めです」


「……だから、こんなに緊張しているのか」


「す、すみません」


「入国の目的は?」


「魔法学校にお世話になるために来ました」


 そう言った瞬間、門番の表情が変わった。


「魔法学校か!」


「あ、はい」


「わざわざエルフの国から来るということは魔法の才能に長けているということだろう?」


「一応、魔法を使うことはできます」


「一応使えるくらいじゃわざわざ他国まで勉強に行かせないって。この国は魔法の才能があるやつは大歓迎さ。しっかり学んでくるんだぞ!」


 最初の頃とは天と地ほどの差がある門番の態度に驚きながらも、人間だということはバレずに通過できたことを喜ぶ。


 後ろにいるサラ様の様子を確認するために、後ろを向くとちょうど、身分証を提示するところだった。

 門番は身分証を見ると飛び上がり、サラ様の顔を見て謝り始める。


「失礼な態度大変申し訳ありませんでした! そろそろエルフの国の姫が精霊の国へといらっしゃるというお話は聞いていたのですが、まさか馬車でいらっしゃるとは思わず」


「別に気にしていないから構わない」


「ありがとうございます」


 彼は何度も頭を下げる。


「ここまで迎えを呼んで都市までお送りさせていただいてもよろしいでしょうか」


「いらん、自分で向かう」


「かしこまりました。ただ、王室の方に到着になられたということだけお伝えすることをお許してください」


「わかった。もう行っていいか?」


「もちろんでございます!」


 最後までペコペコしている彼を見て、態度がよく変わるんだなぁなんて僕は思っていた。



 馬車に乗りながら、街並みを眺める。

 多くの建物が木か石でできていたエルフの国と違い、精霊の国の建物はコンクリートでできていた。

 かなり建物もしっかりしており、また魔力で動いていると思われる鉄でできていると思われる乗り物もある。

 エルフと違い、全員が魔法を使えるということで魔法を生かした技術の進歩が活発なのだろう。


 これだけを見ると精霊の国の軍事力が凄まじそうであるのに、これに対抗し得る獣人の身体能力とはどんなものなのだろうか。

 ケーテとロメウドさんは獣人の中の犬族であり、鼻などの五感は鋭いが、戦いは得意としない種族らしい。


 サラ様も目を輝かせて、街を見ている。

 精霊の国には来たことがないと言っていたし、初めて見るものがたくさんあるのだろう。


 僕はやはり、少しだけ既視感があるものがいくつかあった。


 そして楽しかった馬車でのこの旅も、終わりはすぐそこだった。

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