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19.羞恥心を捨てたら終わり

 サラ様が指先に炎を出して前を歩く。

 少し前から疑問に思っていたことを彼女に尋ねる。


「そういえば、何故みなさん電気を使わずに火を使っているのですか?」


 明らかに電気を利用した方が便利そうな場面でも、火を使っていたのが気がかりであった。


「電気?」


「はい」


「電気とはなんだ?」


「え?」


 サラ様に全くふざけている様子は見受けられない。


「城の灯りをつけていた力? のようなものです」


「電気というものはわからないが、あれは魔力で灯りをつけているぞ」


「魔力だったんですか?」


「あぁ、使用人に魔力を貯めてもらってそれを利用している」


「なるほど……」


 僕の大きな一つの勘違いが解決されることとなった。

 この世界には電気がない。しかし、魔力はそれを代替するような役割も果たせると。


「同じように魔力によって動く機械とかはないんでしょうか?」


「聞いたとはないな。基本的に魔法で直接何かをする方が

早いし、魔法を使えるのは一部のエルフだけだからかあまり魔力で動くものの開発は進んでいない」


「詳しくありがとうございました」


 魔力で進む乗り物であったらそれで移動したら早かったのではと思ったのだが、そのようなものはなさそうだった。

 あったとしてもサラ様のことだから、馬車に乗ることにはなっていたかもしれないが。



 少し歩くとロメウドさんが言っていた通り、川を見つけることができた。


「じゃあ、とりあえずそこで脱いでくれ」


「お戯れはおやめください」


「…………」


 彼女は何も言わない。


「三度目は言わないぞ、これは罰だ。脱げ」


「……かしこまりました」


 靴を脱いで、続いてニーハイも脱ぐ。

 カチューシャを取るが、彼女は何も言わずにこちらを見ている。


「…………」


 彼女の視線は僕から外れない。

 今の自分の容姿には自信を持っているが、それでもやはり恥ずかしい。変なところはないはずだが、それを彼女に見つけられて期待を裏切ってしまったらどうしようという怖さもある。

 しかし、今の僕に手を止めるという選択肢はない。


 メイド服の本体に手をかける。エプロンとくっついているものなので、これを脱いだら下着姿になってしまう。

 脱ぐ覚悟を決めたはずであったのに、手が止まってしまう。


「誰が手を止めていいと言ったんだ」


 僕がためらっていると彼女から叱責が入る。


「……申し訳ありませんっ」


 覚悟を決めてメイド服を脱ぐ。下着姿とチョーカーだけになり、急速に恥ずかしさが襲ってくる。

 自分でも顔が赤くなっているのがわかり、下着を腕で隠してしまう。


「まだ全部脱いでないじゃないか」


 しかし、サラ様から放たれた言葉は容赦のないものであった。


「流石に許していただけないでしょうか」


 もう一度だけ彼女に慈悲を求める。


「まぁ今日はクロの働きに免じて、ここで許しておいてやるか」


「ありがとうございます、サラ様」


 働きに免じても罰がなくなるわけではなく、軽くなるだけであることに彼女の厳しさをかんじるが、命令を守れなかった僕が悪いので何も言うことはない。


「それでは私も向こうで脱いでくるから君は先に水を浴びているといい」


 そう言うと彼女は茂みの中へと隠れてしまった。

 川に足で触れるとそこまで冷たくはなかったので、そのまま足を水につける。

 そのまま川の浅そうなところを歩きながら、彼女のことを待っていると、足音が近づいてきた。

 どうやって身体を隠すか考えていなかった僕は、身体を川の中へと浸けて、彼女の裸を見ないようにと視線を川の中へと向ける。


「川の中に入って寒くないのか?」


「ちょっと寒いです」


 近くからした彼女の声に答える。


「もしかしてクロは裸なのか?」


「え?」


 急な質問につい視線を上げてしまうと、そこにはタオルを巻いたサラ様がいた。


「あ、えっと」


 タオルを身体に巻くという考えは全く僕の中になかった。


「別に私はそのままでも構わないぞ?」


「失礼します!」


 急いで川を飛び出すと同じようにタオルを巻いて、彼女の元へと戻るのだった。



「まぁ身体を浸けられないことはないな」


 サラ様は川の中で疲れをとっているようだった。


「ただ、あまり長居をするのはやめておいた方がいいだろう」


 主人と一緒に入っていいものかと迷っていると彼女の方から誘ってきた。


「どうしたクロ、君も早く入れ。私に風邪を引かせる気か」


「失礼します」


 僕も再び、川の中へと入る。確かにあまり長く入れる温度ではない。

 ……やはり気になってしまう。隣にタオル一枚しか身につけていない、サラ様がいることが。


「馬車はどうだった?」


 彼女が何かを確認するように、少し心配そうに尋ねてくる。


「さっき、ウルフの群れに襲われた時は怖かったですが、楽しかったですよ」


 僕は自分が感じたことを正直にサラ様に伝える。

 すると彼女は満足したように言った。


「私の言う通りにしてよかっただろう?」


「はい、流石はサラ様です」


 僕がそう言うと更に彼女は嬉しそうにする。


「明日からは精霊の国に着くが、クロに頼ることも少なくないかもしれない。これからもよろしく頼めるか?」


「もちろんです。こちらこそよろしくお願いいたします、サラ様」


 そこそこに川を出た僕たちは魔法で身体を乾かし、テントがある方へと戻ったのだった。

ブクマ、評価ありがとうございます

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