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2.名前をつけられました。ペットみたいな


「すまない、流石に唐突だったな」


「唐突どころか特殊な性癖を持ってない限り、自分から奴隷になる人なんていませんよ」


 彼女がわけのわからないことを言ってくれたおかげで、口が回るようにはなってきた。


「君は人間ではないのか?」


「そりゃあ見ての通り人間ですよ」


「どういうことだ?」


「え?」


 僕たちはお互いに首を傾げてしまう。


「もしかして……」


 彼女はなにかに気づいたようで再び問いかけてくる。


「私がなんだかわかるか?」


 なんだかって質問の意図がわからない。

 けれど、さっき人間ということに反応していたからそれを聞いているのだろうか。


「それは人間ってことですか?」


「いい加減にしろよテメぇ!」


 うるさいと言われてからずっと耐えてきたと思われるエンゾとかいう男が再び怒鳴ってきた。

 しかし、今の応答のどこに怒られたか理解できない。


「次はないぞ」


 彼女が彼を睨みながらそう言うと、エンゾはバツが悪そうに引き下がった。


「私はエルフなんだ」


「エルフ!?」


 エルフなんてものがこの世に果たしているのだろうか。


「その目は信じられないという目だな」


 彼女は僕の考えを見透かしたように言ってくる。


「確か耳が違うという話だったな」


 そう言うと彼女は髪をかきあげ、耳を見せてくる。

 そこには明らかに人間のものではない、尖った耳が生えていたのだった。


「触ってもいいですか?」


「さ、触るだと!?」


 初めて彼女がすこし動揺した様子を見せた。その焦ったところはとても可愛らしい。ギャップ萌えというやつだろうか。


「ダメなら大丈夫です。流石に不躾でしたね」


 言ってから奴隷にならないかとか言ってきた向こうのほうが不躾だと思ったけど、まぁいいか。


「いや、本物かどうか確認したいということだな。大丈夫だ」


「触りますよ……?」


 許可を得たので彼女の耳の尖っているところに触れる。


「ひっ」


 彼女が声をあげたが続けることにする。

 モチモチしているようなサラサラしているような指で触れただけなのにもっと触っていたくなってしまっていた。


「もういいだろう?」


 彼女からそう言われて急いで手を離す。


「あ、すみません」


「本物だった……」


「これで私がエルフであるということは理解してくれたかい?」


「わかりました」


 エルフなんてものがいることには驚きだが、証拠を触らせられた今、ここを飲み込まなければ話が進まないだろう。


「君はどこか行く宛があるのか?」


 自分のことすらわかっていない僕に行く宛などない。


「いえ、ありませんけど……」


「奴隷の件の返事は後で構わないから、とりあえず私についてきてくれないか?」


「姫様! そんなやつを連れ帰ってはなりません!」


 またエンゾとかいう男が叫んでくる。

 ついに彼女は男に何かを言うのをやめて無視している。


「どうかな?」


「なんかあの人がすごい反対してますけど」


「別に気にしなくていい、君に悪いようにはしない。証拠は残念ながら無いが、せめてもの誠意として名乗ろう」


 彼女はコホンと咳払いして、言う。


「私の名はサラ・ド・ブルゴーニュ、現国王の娘にして次代の王となるものだ」


「……あ、ありがとうございます」


 さっきから姫様って呼ばれてるのは聞いてたし、正直お偉いさんであろうことはなんとなくわかってたから反応に困ってしまった。


「君の名を教えてくれないか?」


 彼女から名乗りを促されるが、僕の記憶はいまだに戻っていない。


「僕の名前は……すみません、わかりません」


「名前がわからないのか?」


「正確に言うとわからないというより思い出せません」


「ふむ……やはり記憶が混濁しているようだな」


「ごめんなさい……」


 自分より幼い少女に謝り続ける僕は側から見たら滑稽に写っているのだろうか。ただ、記憶を失くしている状態というのは非常に不安で、恐怖を感じるものなのだ。


「それで、よければ私についてきてくれないか?」


「わかり……ました」


 僕に対して優しく接してくれる彼女を信じることにした。

 いや、信じているというかほかにやることがないからそれでいいかと多少投げやりになっているところはあるが。


「ありがとう」


 そう言って笑う彼女の笑顔は最高で、それだけでYESと言ったのが間違いではなかったと確信した。


「君のことはなんと呼べばいい?」


「えーと……」


 自分の名前が思い出せない上に、特に呼ばれたい名前もなくて困ってしまう。


「お好きなように呼んでください」


 彼女にお任せしよう。育ちも良さそうだし、そんなに変な名前で呼ばれることもないだろう。


「好きなように呼んでくれと言われるのもなかなか困るな……」


 彼女は私の方をチラチラ見ながらしばらく考えた後、自信満々に言った。


「じゃあ君のことはクロと呼ばせてもらう」


「ク、クロ……」


 完全にペットかなんかにつける名前じゃんと思いながらも、自分から任せてしまったために拒否することもできない。


「……わかりました」


「いい名前だろう?」


「ソウデスネ」


 彼女はふふんっと無い胸を張る。初めて見せる年頃の少女らしい様はそれはそれでいいなと思った。


「それじゃあ出発することにするか」


 そう言うと彼女は男たちに指示を出し、移動の準備を始める。


「とりあえずこれを被ってくれ」


 僕の長い髪は彼女によってまとめられ、兜の中に入れられる。

 さっきまで見る余裕がなかったが、僕がきているのは白いパジャマのようなもので、おしゃれな彼女からしたら変な格好に見えていたかもしれないと思う。


「クロは私の後ろに乗ってくれ」


 男の人たちに手伝ってもらい、馬に乗って僕はなんとか彼女の後ろに座ることができた。


「私の腰から腕を離すなよ」


 彼女の細い腰が折れないかと少し不安になりながらも、腰に手を回し力を入れる。


「じゃあ城に向かうとしようか」



 僕は城に向かう道中、人間に過剰に反応していた彼女らの理由を知ることになる。


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