18.彼女の隣が許される力
「ありがとうございました、サラ様」
しばらく撫でてもらったが、これ以上続けてもらうと気持ちよさにやめ時がわからなくなってしまうので、僕の方からやめてもらう。
「ありがとう、助かったぞ」
「クロにはもったいないお言葉です」
やっと、本当にサラ様のお役に立てた。
もしかしたらあの程度の敵であれば、彼女の魔法でも対処できたかもしれない。
でも、この力があれば彼女の役に立てる。武力が必要となった時に、僕には仕事がある。
それだけで僕はだいぶ救われた。
「今のは……クロちゃんがやったんだよね?」
目の前で見ていたはずなのに、ケーテは確認するように僕に尋ねて来る。彼女は今の光景が信じられないというような反応だ。
「はい」
他の三人も同じように一歩引いたような目でこちらを見ている。怖がられたりして、避けられのだろうか。
「ありがとうございました!」
ケーテは私にお礼を言ってきた。
「いきなり凄い魔法を使うからびっくりしちゃったけど、クロちゃんのおかげで助かった。クロちゃんが動いてくれなかったらみんな助からなかったかもしれない」
その言葉に他の三人も続いてきた。
「ありがとう。君のおかげで娘共々助かることができた、本当に助かった」
「凄い魔法だった、ありがとな」
「護衛として雇われてるのに申し訳ない。助けてくれたことに感謝する」
「えっとその……」
いきなり続けてお礼を言われて、なんて言えばいいのかわからず困ってしまう。それでも何か言おうと言葉を絞り出す。
「……どういたしまして?」
「それでどうするか」
今後のことについて全員で集まって話し合う。
「もう出発しちまうか?」
男の一人が提案する。
「暗くて道がよく見えなくて危ないし、正直俺もケーテも休みたい」
「じゃあ予定通りここで寝るとするのか?」
もう一人の男がそう言う。
「休みたいと言っておいて悪いんだが、ここにいて寝ている時に次またウルフがやって来たらどうするのかという問題がある」
「じゃあどうするんだよ……」
議論が止まってしまうが、僕の中にはすでに解決策があった。
「僕が馬車とテントを囲って壁を作ります」
僕は土を操作して、余裕を持って高さ3m程の壁を作り上げる。これだけあれば動物が飛び越えて来ることもないだろう。
「本当に魔法ってのは凄いんだな」
「ロメウドさんは魔法を見るのは初めてでしたか?」
「いや、魔法自体は初めてではないが、ここまでの規模の魔法をポンポンとやってのけるのは見たことがない」
そんなに僕の魔法は規模が大きいのだろうか。
「精霊が使う魔法よりもですか?」
「うーん……、俺が見た魔法を使っていた精霊のよりはだな。ただ、地位が高ければ高いほど魔力は多くなるらしいし、精霊の王がどんな魔法を使うのかは知らん」
「だが、彼等は魔法を複数属性扱うことはできない。そういう意味では規格外だと思う」
僕の唯一性が証明されたのはよかった。
精霊の国には一体どんな魔法を使う精霊がいるのだろうか。少しそれは楽しみでもあった。
とりあえずの安全が確保されて、みんなが一息ついていたところだった。
「それで二人は何者なの?」
「先程言っただろう。サラ・ド・ブルゴーニュ、エルフの国の姫であると」
ケーテの質問にサラ様がさっきと同じことを答える。
「クロはサラ様の従者です」
「エルフの国の王家の従者ってのはみんなあんなに強いのか?」
男の一人が尋ねてくる。
「そんなわけがないだろう、クロが特別なだけだ。従者全員がクロと同等のの力を持っていたらとっくに世界は全てエルフが支配している」
「まぁ、そりゃあそうだよな」
「一つ、頼みがある」
「なになに? 二人は命の恩人だし、私たたにできることならなんでもするよ」
「私たちのことは他言無用で頼む」
「わかった、みんなもいいよね?」
ケーテがロメウドさんや男たちの方をみながらそう言うと、彼らも首を縦に振る。
「これだけ凄いエルフがいるって知られたら、大変なことに巻き込まれそうだしね」
「そういうことだ。近いうちに広まってしまうかもしれないが、遅いに越したことはない」
「確かにクロちゃんが魔法使っちゃうと噂になるのも時間の問題かも。でもとりあえず私たちの口から話すことはしないよ」
「ありがとう、ケーテ」
「お安い御用だよ。というか初めてサラちゃんが名前で呼んでくれた!?」
「……まずかったか?」
「ううん! 凄い嬉しい!」
サラ様が誰かと仲良くしているというのを初めて見た気がする。いいことだと思うし、魔法学校でも多くの友達を作って欲しいと思う。
彼女の隣を譲るつもりはないけれど。
「それでは私は水浴びに行って来る」
会話がひと段落したところでサラ様がそう言った。
「お気をつけください」
今までも風呂にはついて行かなかったので、彼女を見送ろうとする。
川も近くにあったので、危険も特にないだろう。
「何を言ってるんだ? クロも一緒に来るんだ」
「え……」
「主人の安全を守るのが君の仕事だろう?」
そう言われてしまっては、僕としては何も言い返せない。
「……わかりました」
「あ、じゃあちょっと待ってて」
ケーテがそう言って馬車の方へと行くと、すぐに何かを持って戻ってくる。
「これ使ってくれていいから」
そう言って差し出されたのはバスタオルが二枚であった。
「ありがとうございます、助かります」
彼女からタオルを受け取る。
「川なら向こうのほうにある」
「わかりました」
ロメウドさんが川のある方を指で示してくれ、そちらへと向かっていくサラ様の後を追う。
彼女が魔法で壁に穴を開けて外へと出ていく。
「きちんと穴は塞いでいきますので!」
彼らにそう伝えると、壁の穴を塞いで再びサラ様を追いかける。
「そういえばさっきウルフに襲われていた時、また僕と言っていたな?」
「…………」
正直よく覚えていないのだが、焦っていたので言ってしまっていたかもしれない。
また、何かされるのだろうか。
「今日はあまり時間がないからな、そんなに酷いことをするつもりはない」
……少しは酷いことをするおつもりなんですね。