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16.秤を壊す図り

「二人は精霊の国に何の目的で?」


 サラ様からは解放されていたため、喋ることはできたが、正直に答えていいものか迷っていた。

 魔法学校に向かっていると言ってしまえば、魔法が使えると言ってるのと同義であろう。

 そんな僕の心配を他所にサラ様が答える。


「魔法学校に通うためだ」


 躊躇う様子もない。


「へー魔法学校にいくなんて凄いね。二人とも魔法が使えるってこと?」


「あぁ」


 僕は小声でサラ様に尋ねる。


「魔法学校に行くことを話してよかったのですか?」


「何故だ?」


「だって魔法を使えるエルフは全員が使えるわけではないという話だったので、王族だとバレたら……」


「あぁ、そういうことか。別に王族以外でも魔法を使えるエルフはいるぞ」


「そうだったんですか」


「それにもうここまで乗せてもらったんだ。今更王族だとバレても降ろされることはない」


「それは確かに」


 二人で話しているとケーテが声をかけてきた。


「二人で喋ってないで私も混ぜてよー」


「すまない、クロが魔法学校に行くことを喋ってよかったのかと心配していてな」


 サラ様が僕より先に返事をしてくれる。


「なるほどね。確かに魔法を使えるエルフってあんまり見ないけど、取って食ったりはしないって」


「すみません、ケーテ」


「いいよいいよ。クロちゃんもご主人様が心配なんだもんね」


「え、ええ……」


 その通りではあるのだが、そういう言い方をされると僕がサラ様のことしか考えてないみたいに聞こえてしまう。確かに頭の8割くらいはそうだけど。


「クロはすごいんだぞ」


 サラ様が急にそんなことを言う。


「魔法の天才だ。私も自分にはなかなか才能があると思っていたが、クロには敵わん。精霊の国に行っても彼女以上の才能はないだろう」


 しかもなんかめっちゃ褒められてる。すごい嬉しくて光栄なことだけど、何故僕に才能があるのかもわかっていないから反応に困ってしまう。

 理由が特にないものを才能と呼ぶのか。


「そんなに!?」


 ケーテも驚いている。


「そんなに驚くことなのでしょうか?」


「だって精霊ってエルフの5倍は適性があるって言われてるんだよ。勿論、精霊より魔法が使えるエルフだっているけど、本当に精霊の誰よりも才能があったらもうそれは世界のバランスが傾いちゃうよ」


「どういうことですか?」


「クロちゃんってあんまり世界を知らない感じ?」


「あんまりというか全く知らない感じだ」


 サラ様がバッサリと切り捨てる。


「いいかクロ、世界には様々な種族の国があるが今はだいたいどこの国も同じくらいの軍事力になっている。だからこそ平和が保たれているのだ」


「はい」


 彼女が真剣な目をしているので、大事な話だと判断し僕も集中して話を聞く。


「たとえば精霊の国は魔法に優れているが、肉体的な力に劣っている。エルフの国は魔法では精霊の国に及ばないものの、肉体的な力もそこそこある。獣人の国は魔法を扱えないものの、身体能力の高さと豊富な資源に定評がある」


「なるほど……だからエルフの国が魔法において精霊の国を上回ってしまうとパワーバランスが崩れてしまうのですね」


「そういうことだ」


「まぁサラちゃんには悪いけど、私が生まれる何年も前からそうやって世の中はバランス取ってるんだし、いくらクロちゃんがすごくてもそのバランス壊すほどではないと思っちゃうよね」


「私はクロがどの精霊にも負けない才能を持ってると言っただけで、そのバランスが覆るとは言ってないぞ」


「あーそうだったごめんごめん。あまりにもサラちゃんがクロちゃんを褒めるから、拡大解釈しちゃった」


 サラ様が僕の耳元で囁く。


「私は君が歴史を覆すほどの力を持ってると確信している」


「え……」


 どういうことか尋ねようとしたその時、馬車が急に止まった。


「どうかしたか?」


「あー山賊に出くわしちゃったみたい」


「山賊!? 大丈夫なのですか?」


「へーき、へーき。そのために彼らを雇ってるんだし」


「そうですか、大丈夫なら良いのですが」


 サラ様が馬車から顔を出して前方を確認しようとしている。


「サラ様、おやめください」


 万が一、山賊にでも見つかったら人質にでもしようと、こちらに狙いを変えてくるかもしれない。


「山賊というものを見たことないんだ。今後見る機会もないかもしれない。人生は多くの経験をこなすことで豊かになっていくと私は考えている。君も見たことないだろう?」


「見たことはありませんけど……」


「別に大丈夫だよ、こっちに手を出す余裕なんてないだろうから」


 僕も少し見たい気持ちはあったため、そう言われると僕も好奇心に負けてしまい、サラ様に続いて頭を出す。しかし、見えたのは先程見た男たちより、貧相な武装をした男たちが走り去って行くところだけだった。


「残念、クロの魔法を披露する機会とはならなかったな」


 そんなことを狙われていたのですか。


「サラ様に期待されるのはとても嬉しいのですが、クロはそんな必要がない安全な道のりがいいです」


「クロの魔法があって安全じゃないことなんてないんだがな」


 危険が多いのではないかと思っていた馬車の旅だったが、今のところ意外と安全そうである。

 サラ様には悪いが、僕は旅路にスリリングな展開は求めていない。何事もなく、サラ様に危険が及ぶことなく、平穏に精霊の国に着くことを願っていた。

ブクマ、評価ありがとうございます

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