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13.親子っていい人そう

「サラ様に交渉したりしたご経験はあるのですか?」


「ふむ、ないな」


 何故、経験も無いのにそこまで自信満々なのでしょうか……。


「どうしても馬車に乗りたいんですか? 馬で行ったり、魔法で向かった方が早くて安全だと思うのですが」


「クロの言うことは一理ある。だが、人の馬車に乗せてもらい移動するというのはとても旅らしいと思わないか」


「旅では無いんですが……」


「じゃあ話をつけて来てくれ、私はここで待ってるから」


「え」


「アガタから幾らか渡されているだろう?」


「渡されてはいますけど……」


「なら、何とかなるだろう」


 おそらく彼女が包んでくれた額は少なくはないだろうが、あまり無駄遣いをするわけにはいかないし、向こうの言い値を払うようでは交渉とは言えないだろう。

 それに明らかに怪しそうな者に頼むわけにもいかない。


「何もないと思うが、身の危険を感じたら魔法を使ってもいい。クロの安全が第一優先だ。わかったな?」


「はい」


 僕の安全が優先ならば何故馬車で行くのだろうか。

 だが、これ以上問答しても意味はないと理解した僕は渋々と酒場の中へ入っていく。



 酒場に入ると最初のうちは誰も僕の方など気にしていなかったのだが、次第に視線が集まってくるのを感じる。

 たしかにこんな場所にメイド服を着た美少女が急に現れたら注目の的になるのは必然であろう。

 ……というかこんなところにメイド服で来るの、ちょっとやばいやつではなかろうか。

 最近ずっとこの服であったから特に疑問を抱かなかったが、これは街に出る格好ではない。今度からは気をつけよう。

 ここで集める視線は気持ちいいような不快なような、微妙な気分だった。

 やはり周りが自分の見た目に見惚れていると思うと非常に気分が良いのだが、その中には下卑たものも混ざっておりそれに対しては嫌悪を感じる。

 こんなところにサラ様を連れてこなくて、私一人で良かったと思う。


 中にいたのは大半が男のエルフではあったが、他の種族や女エルフもチラホラと見かける。

 さて、どのような人物に声をかけようか。

 あまり柄が悪そうでも困るし、ケチ臭そうでも嫌だ。そもそも精霊の国へと向かう商人でなければならない。

 どうやって探すか悩んでいると一人の男が声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、誰か探しているのかい?」


 男はこの酒場にいる中ではかなり顔が整っていると思われるエルフだった。たぶん、クレモン様の方が上だと思うが。

 何故か自分が男の顔を観察しているのかという事実に気づき、少し悲しくなる。

 埒が開かないし、この人に事情を説明してみることにする。


「はい、精霊の国に行きたいのですが、そこまで馬車に乗せて行ってくれる商人さんを探しているのです」


「へー精霊の国ね。お嬢ちゃんは一人?」


「いえ、私と同じくらいの女の子がもう一人います」


「なるほど……」


 彼は少し考えた様子を見せた後に続けた。


「ちょうど俺も精霊の国へ行くところだったから乗せてあげよう」


「ほんとですか?」


「ほんとほんと」


「幾らで乗せてくれるのでしょうか?」


「お金?」


「流石にタダというわけにはいかないでしょう?」


「いいよいいよ、君可愛いし」


「ほんとですか!?」


 やはり可愛い女の子というのはそれだけで得をする。


 いい相手を見つけたと思った時だった。

 そこで周りの視線が変化したことに気づく。さっきまでの好奇に溢れた視線ではなく、一歩引くような視線になっていた。周りが私と目を合わせたがらないし、そもそもこちらをみないようにしている気がする。


 この男に何か問題があるということだろうか。

 たしかにお金を取らないというのもちょっと都合が良すぎるし、彼が私たちを乗せてくれることを提案してくれたのはもう一人の女の子の存在を伝えた時だった。

 気にしすぎかもしれないが、万が一があってからでは困る。

 もし万が一が起きたとしても、サラ様は絶対に守る。王家にも認められた僕の魔法があればおそらく何とかなるとは思うが、避けられるリスクは避けていきたい。


「やっぱりごめんなさい、事情が変わってしまったので他の商人の方を探します」


 頭を下げながらお断りを告げて、そそくさとその男の元を去る。

 去り際に彼の舌打ちが聞こえた気がした。



 結局、最初に逆戻りしてしまった。

 次は誰に声をかけようかと迷っている時だった。

 入り口から獣人と思われる女の子が入ってきて、キョロキョロと誰かを探していた。

 数秒後、目当ての相手を見つけたようでそこに向かってツカツカと歩いていき、その相手の前で言った。


「とーちゃん、もう出ないと予定の日までに精霊の国につかんよ」


「あれだ」


 一目散にその親子のところへ向かい、酒場を出る直前で二人を捕まえることに成功した。


「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」


「「ん?」」


 二人とも僕のことを物珍しそうに見ていたが、今は格好のことを気にしている余裕はない。


「私、ともう一人女の子がいて、精霊の国へと行きたいのですが、一緒に連れてってはもらえないでしょうか」


「いいんじゃない?」


 娘の方は即答で好意的な返事をしてくれたが、父親の方は少し迷っているようで質問をしてきた。


「君、メイド服だしお金は持ってるの?」


 私が答えるより前にその女の子が答えた。


「なに言ってんのとーちゃん、うちより小さい女の子からお金取ろうとしてんの?」


 僕が小さいというよりは獣人の彼女が大きいのではないかと思うが、まぁいい。けれど、別にこちらもタダでというつもりはなかった。

 お金ない仕事に責任は生まれないってどこかで聞いた気がする。


「お金はお支払いします。二人でいくらになりますでしょうか?」


「とーちゃん」


 女の子が父親をジト目で見ている。おかげでふっかけられることなく済みそうだ。


「二人なら400ドレかな」


 僕はものの相場は知らずに、アガタさんからは旅費として10万ドレ渡されていたが、彼が提案してきた額から考えるとかなり多く渡されていたことがわかる。


「は? 子供相手に相場取るの?」


 別にそれくらいなら特に痛くもないので払えるのだが、勝手にその子が値下げ交渉してくれているのでせっかくなので甘えることにする。


「わかった、二人で200ドレでいいから」


「まぁ、それならいいか」


 女の子の方も納得したようなので、この値段で決定ということだろう。


「それではこれからよろしくお願いします!」


 僕は上機嫌で二人に挨拶をする。

 正直、僕だけの力とは言えないが、危機を回避し、良い相手を見つけることができた。

 そして初めて、サラ様の役に立てたのではないだろうか。

ブクマ、評価ありがとうございます

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