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10.やっぱり奴隷と言ったら首輪でしょう

「それで今後のことなんだが」


 僕の部屋へと戻ってくると、彼女がベッドに腰掛けて話し始める。


「どうした? クロも疲れているだろう。隣に座れ」


「……わかりました」


 サラ様に言われた通り、隣に座る。


「何故そんなに間を空けているんだ」


「そうでしょうか? あまり近すぎるのもいかがなものかと」


「今まではそんなこと気にしていなかったじゃないか」


 たしかに今までは気にせず彼女に接近していたが、僕は思い出してしまった。自分が男であったことを。

 彼女は知らないために今までと同じように接してくれるが、このまま接することは彼女に対する裏切りなのではないだろうか。

 そんなことを思ってしまうと、とても今まで通りとはいかなくて。

 でも、元が男であることを話して彼女に嫌われてしまうのではないかと想像すると話すには勇気が足りなかった。

 そんな僕を見かねたのか彼女の方から問いかけてくれた。


「私のことが嫌いになったのか?」


「それだけはありえません!」


 考えるより先に言葉が出ていた。


「何があっても! 僕がサラ様を嫌うなんてことはありえません! あなたは……」


 自覚する。僕の中に彼女に対して、親愛や忠誠だけでない感情が芽生えていることに。

 けれど、それを伝えることはできない。それだって今の関係を壊してしまうことになるかもしれないから。


「あなたは僕の大事なただ一人の主人なのですから」


 嘘はついていない。たとえ、彼女にこの想いを伝えることが叶わなかったとしても、彼女が他の男性と結ばれたとしても、彼女に仕えたいという気持ちが変わることはない。


「ありがとう、私も君のことを大切にする」


「……ありがとうございます」


 彼女からこんな言葉をもらえて、僕はどれだけ幸せものなのだろうか。だから、彼女を裏切らないような僕になろう。


「それで話は変わるのだが、さっきから一人称が僕になっているな」


「え」


「直らないようだったら罰を与えるという話は覚えているか?」


 確かに一人称が直らないようだったら罰も考えると言っていたサラ様の言葉を思い出す。


「……はい、覚えています」


「では、罰を与えようと思う。少し目を瞑っていろ」


「かしこまりました。ただ、その前に一つだけいいでしょうか」


「なんだ?」


 僕はベッドから降りて彼女の前に正座をするとそのまま頭を床につける。


「何をしている?」


「これは土下座と言いまして、深い反省を示すときにとる姿勢になります」


「なるほど」


「この度はサラ様のご命令に従えず、大変申し訳ございませんでした。如何なる罰でもお与えください」


「ほう……」


 頭の上に何かが乗っかる。グリグリと力がかかるので踏まれていることがわかった。ただ、その柔らかい感触からわざわざ靴を脱いでくれていることがわかる。


「楽しいなこれは」


 なんか思っていたのとは違うけど、サラ様が楽しいならそれでいいか。……僕も嫌ではないし。



 しばらくそうしていると満足したのかサラ様が声をかけてくる。


「なかなか楽しかったぞ」


「それならよかったです」


 私は立ち上がり、彼女の前に立つ。


「楽しかったが、用意してた罰は別にある。もう一度ここに座って目を瞑れ」


「はい、サラ様」


 命令通りにベッドに腰をかけて目を瞑る。やっぱり少しだけ距離を空けて。


「しばらくそのままにしていてくれ」


 僕は目を瞑って彼女を待つ。

 もしかして思い切りビンタでもされるだろうか。まぁそれくらいなら構わない。彼女に捨てられる以外の罰なら何でも。

 しばらくすると首あたりに触れられて何かをいじっている音が聞こえた。


「もういいぞ」


 そう言われて目を開けると目の前に立っていたサラ様が目に入るが、特に何かが変わった様子はない。先程触られた首に違和感があるくらいだ。

 首に触れると何かが巻き付けられていることに気づいた。


「一体これは……?」


「鏡で見てくるといい」


 僕は鏡の前まで行って自分の首周りを確認する。

 すると首輪のようなものが巻き付けられていることに気づく。


「首輪ですか?」


「チョーカーだ」


「チョーカー……」


「だが、首輪のような役割もある。それは私にしか外せないし、付けている間は私の許可なく回復魔法を使うことはできない」


「そんなに信用されてませんでしたか?」


 信用されていなかったと思うと少しだけ悲しくなる。


「いや、クロのことを信用していないわけではないよ。ただ、そのチョーカーを君に付けておきたかっただけだ」


「何故ですか?」


「それは勿論、クロが私のものだって一眼でわかるようにするためだ」


 彼女は何で、そんな言葉がスラスラと言えるのだろうか。


「嫌だったか?」


「そんなはずはありません! ありがとうございます!」


「気に入ってくれたならよかった」


 気にいるどころかもう家宝にしよう。死ぬまで外さないぞ。




「話は変わるが、近いうちに、早ければ明日にでも魔法学校へと行こうと思う」


「学校……」


 サラ様もまだ若い。学校に通わなければならないのだろう。少し寂しいが、それくらいは我慢しなければならない。


「そう寂しそうな顔をするな。もちろんクロも一緒だ」


「よかったです。でも急にどうしたんですか?」


「もともとその予定はあったが、この家にいるとお父様派が君の命を狙ってくるかもしれん」


 まだ諦めてくれてないのか。


「ただ、一年後には後継者を決め、国王の席を私たちの誰かに譲ることになっている。だから、その時までここを離れようと思う」


「その時まで、というと学校には寮のようなものがあるのでしょうか?」


「そういうことだ」


「わかりました、クロのためにありがとうございます」


 いつもいつも僕のためにサラ様には迷惑をかけてしまう。彼女は気にするなと言ってくれるだろうけど、やはり僕としても何か報いたいと思うのだ。


「学校に行ってもよろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いします」


 彼女との学校生活というのも面白そうだと期待を膨らませるのだった。

ブクマ、評価ありがとうございます

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