婚約破棄されたショックで心臓発作で死んだという悪役令嬢が夜な夜な自分のところに幽霊として現れて冤罪を晴らしてくれと泣き落としをするので元婚約者の王太子とやらの所に行った降霊師のお話
「それでお前は私と妃が腹痛で倒れたのも、王城の屋根に雷が落ちて崩れ落ちたのも、父が急死したのもすべて亡き悪役令嬢ベルモット・シャルレの霊の呪いではないと申すのだな?」
「はい、違います」
私はため息をつきたいのをこらえて何とか王の前に跪いておりました。
私の言葉を半信半疑といった様子で聞く陛下。
こんなところに来たくなかったのですが、私の安眠の為にはこの方法しかなかったのです。
「ではなんだというのだ、降霊師、シオン・エルリアード」
「ただの偶然、思い込みでございます」
「どういうことだ?」
「ベルモット嬢が亡くなられた後偶然、このような不幸ごとが続けて起きた、呪いではないかと誰かが言い出し、あれもこれも呪いのせいではないかと言い出せば、それは呪いの伝播となります。古来から、幽霊の呪いといわれるものはそうして作られていくのです。陛下」
これは半分本当です。しかしこの場合はすべて本当です。だって本人の口からきいたのですから、これは冤罪だと……。
「ではすべて偶然だと?」
「はいそうです」
どうしても冤罪を晴らしてくれと毎夜毎夜、私の夢の中に現れ、泣き落としをするベルモッド嬢のせいで私は不眠症となり、一か月目で諦めて、こうして陛下のもとにやってきて冤罪を晴らす羽目になっております。
「偶然、です」
「そういわれてみれば、霊の呪いと言われてもな……」
「そうです!」
ベルモット嬢の身の上話は耳が痛くなるほど私は聞かされていました。
彼女は一年前、陛下に婚約破棄され、それもまた陛下の浮気が原因だったらしいです。
私は一応貴族の端くれ、男爵の血縁でしたけど……だからこそこうして一応王に謁見を許されたんですよ。
まあ、私達みたいな末端の人間にはベルモット嬢は悪役令嬢とやらで、魔法学園で公爵令嬢としての権威を振りかざし、庶民で学園に入ってきたご令嬢を虐めて、その罪により婚約破棄されたと聞いていました。
虐めてません、それも冤罪だとベルモット嬢が言ってましたが……。
「なので、彼女の霊を退治しようとかはせずにそっとしておいてあげてほしいんです!」
「……それもそうかもしれんな」
陛下の顔色が少し悪くなりましたね。どうも浮気というのは本当かもしれません、だってどうもばつがわるそうですもの。
私はこうやって押し切れば何とか、冤罪と分かってもらえてベルモット嬢に成仏してもらえるかもしれないという期待を抱きましたが……。
「陛下、こんな詐欺師に騙されてはいけませんわ!」
あ、浮気相手のマリアさんとやらが入ってきました。今は王妃になっていますが。
茶色の髪に瞳、顔は愛らしいですが、性根は最悪と聞いていたマリアさんが入ってきて、私をびしっと指さします。詐欺師とはひどいですね。
「詐欺師、陛下に嘘を申し立てるのも大概にしなさい!」
詐欺師扱いはなれてますけど、こう堂々と指さされて断言されたのは初めてです。
私が黙っていると、嘘つき、あれは意地悪い悪役令嬢で絶対に死後も呪いをまき散らしているのだとマリアさんは私に怒鳴つけます。
あーあ、だからこんなことしたくなかったんですよ。
「私は嘘偽りは申し上げていません。なぜなら、私はベルモット嬢に直接、そんな呪いかけていないというのをお伺いしましたから」
「ほら、詐欺師ですわ。そんな霊と話せる……」
「シオンは降霊師であり、死霊使いでもある。だからこそその言葉には真実があるのだよ、マリア」
「胡散臭い……」
私は死霊使いにして、降霊師、霊を降霊し、霊と対話し、除霊し、そして時には使役することもできる能力者です。稀にしかいないので、王国では重宝されています。
でも地位は低いですけどね。
「こちらでベルモット嬢を降霊し、対話を……」
「いやですわ、そんな恐ろしい!」
だからこういうヒステリックな女の人は苦手なんです。嫌そうに眉根を寄せてこちらをにらみつけてきてます。
私はため息をついて、しかし私は呪いをかけていない霊を退治とやらはできませんし、信じてもらえないことには話にもなりませんよと思います。
信じてもらえないことにはベルモット嬢は成仏してくれませんし。
「先の王が亡くなられたのは、王宮の医師に聞きましたところ、大変申し訳ないのですが女性とあのこう……」
「そうだ、呪いではない。な、マリア?」
「え。ええそうですわ!」
女性とああいうことをしていてそのまあ、あまりひと様には言えない死因でした。これで一つなんとか……でも言いたくはなかったんですよ。
「あと、腹痛は、庭師に聞きましたところ、マリア様が庭でとってこられたカモレの花びらを……」
「それも偶然だ、そうだそうだ偶然だ、な、マリア?」
「え。ええそうですわ」
私はもう頭が痛くなってきました。庭師に聞いたところ、マリアさんが摘んでハーブティーに入れたカモレの花は人が飲んだり食べたりすると腹痛を起こす成分があるんです。それも知らずに見栄えのために入れたそうです。
「王城の屋根に雷が落ちただけで、屋根が崩れ落ちたのは、屋根が老朽化していたからです。と王城の一部分が老朽化しているので、修理を……をしたほうがいいと建築の専門家が進言されたそうですが予算……」
「そうだ、老朽化したからだ、な、マリア?」
「そうですわね。陛下、そうですわ!」
老朽化したのに修繕する予算がないというのはさすがに口が裂けても言えないですよね……。
呪いのせいにしてごまかそうとしていたらしいですが、これでなんとか……。
『私がマリアさんをいじめたというのも冤罪です。晴らしてくれないと成仏しません!』
ああ、耳元でベルモット嬢の脅す声が聞こえます。
何とかしてください、私とて暇じゃないのです。不眠症でふらふらなんですよ。
なのに冤罪を晴らせ、晴らせって言われ続けてもうおかしくなりそうですよ。
「……あと、ベルモット嬢はマリア様をいじめたりはされておりません。マリア様のためを思って、進言をされたのをいじめていると皆さんに勘違いされていただけなのです」
ああもう自棄だ、なんとかしないと私が死ぬまで付きまとって冤罪を晴らせと言い続けてやるとベルモット嬢に言われ続けて、もう私とて後がないのです。
「しかし……」
「勘違いです! なのでベルモット嬢に対する断罪は間違っていたと認めてあげてください! 私は直接彼女からそれを聞きました。そうですね、陛下、あなたのその髪の毛は著名なアイレウス老がつくられ……」
「ど、どこでそれを!」
「ベルモット嬢から……あと、あなた様は六歳までその……いつもおね……」
「勘違いだ、勘違いだ、だからそれ以上何も言わないでくれ!」
ベルモット嬢は陛下の幼馴染の公爵令嬢であり、彼の幼いころからのそう秘密を暴露を私にしたのです。 そんなもの聞きたくなかったですよ。
先の王に似てしまい、少々御髪が薄くなってきていた陛下はそのかつらを……。
あと夜な夜なその六歳までおね……はあ頭が痛くなってきました。
「勘違いなどとは! あの悪役令嬢は私をいじめて階段から突き通そうとしたのです!」
「それもまた勘違いです。マリア様、あなたはあの時、ベルモット嬢が通りかかるのを階段の前で待っていた、そして階段から足を踏み外して助けようと手を伸ばした……」
「何でそのような嘘を!」
「……ベルモット嬢がそう証言されています……」
私の周りの空気がひんやりと冷たく、そして明るいはずの部屋が暗くなりました。
ああもう最悪です。
『私はあなたを助けようとしたのですわ、マリアさん、なのに私があなたを階段から突き落としたと嘘をついて……殿下に……』
私の口からベルモット嬢の声が……ああもう怒りのあまり、私を乗っ取るなんてひどいです。
ひいっという悲鳴とともにマリアさんが陛下に縋り付いてますよ。
『あなたが嘘つきだと何度いっても信用してもらえませんでしたわ、殿下もあなたの味方で、みながあなたの味方でしたわ、私は知っていますのよ、あなたと殿下が私と婚約を破棄する前からできていたということを! でも私は殿下がいつか目を覚ましてくださると信じてましたのに!』
ああもう、私の意識は闇に沈み、ベルモット嬢が私の口を借りて二人を断罪してますよ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私が嘘をついてました。私が階段からわざと落ちたんです。ベルモットさんは私を突き落としてなんかいません、だから成仏してください!」
顔を青くして、床に座り込み、両手を合わせて謝罪するマリアさん。ああもうこれが嫌だったんですよ。いつも霊が降りたときってこんな反応が待ってるんです。
「……嘘だったのか、マリア」
「ごめんなさい、陛下、私はどうしてもあなたと婚約したかったんです。ベルモットさんが邪魔だったのですわ!」
ああもうやっと罪を認めてくれましたねマリアさん、やっとベルモット嬢が引っ込んでくれましたよ。
私ははあとため息をついて、ベルモット嬢は去られましたよと言いました。
するとマリアさんは周りをきょろきょろして、本当にいないわよね? としつこく確認します。
「マリア、君を愛している。だけどベルモットが死んだ原因が君にあることは確かだ……罪人を王妃にしておくわけにはいかないし、私も王として罪を償わなければいけない」
「陛下」
「あと、ベルモット嬢が死んだのは婚約破棄された心痛と驚きのせいで心臓発作を起こしたわけじゃないです。牢屋の床が濡れていたせいで、足を滑らせて転んで頭を打って、打ち所が悪くて死んだんです。その死因を医師が間違えたのです。あなたたちの腹痛を呪いと言い切った人が王宮の医師ですしねえ……誤診だったんです。だからその死の遠因は確かにマリアさんにありますけど、気にすることはないとベルモット嬢は言われてましたよ」
マリアさんがごめんなさいと何度も何度も私に頭を下げますが、もうベルモット嬢はいませんよ。
でも私は黙ってその謝罪を見ていました。陛下はすまないと涙を流して上を向きます。
なんとか冤罪は晴らしましたが、報復とやらはいいんですかねえ、報復してやるとしつこくあなたは言ってましたけど、ベルモット嬢。
私はまたため息を一つついて、謝る二人をただ見ることしかできませんでした。
『ありがとうシオン、私の言葉を伝えてくださって』
「これで成仏してくださいよ」
『わかっていますわ』
私は自分の部屋の寝台に腰かけています。夜、ベルモット嬢が現れて、やっと心残りなく成仏できるわと嬉しそうに笑いました。
銀髪碧眼の美しい乙女、生前そのままに……。死んでいるなんて嘘みたいにその姿は美しかったです。
「報復はよろしいので?」
『ええ、実は不幸が起きるように少し呪っちゃったのよ。だから雷が王宮に直撃したのは私のせいなの、あとは冤罪だけど』
「はあ?」
『あれでかなり二人ともとどめで懲りたみたいだし、まあいっかなって、私が死んでからもかなり後悔はしていたみたいですし殿下とマリアさん』
私は空に浮かぶ美しい乙女を見ます。透き通っていくその姿を見て、私はベルモット嬢にあなたはお優しい人ですねと笑いかけました。
私だったらあんなことされて、それくらいの呪いで許してあげたりしませんよ。
『ありがとう、あなたみたいな優しい人に恋すればよかったですわね』
「あはは、生前にそう言ってもらえていたら、私だってそれにはいとお答えしましたよ」
『ありがとう、さようなら、次に生まれ変わってきたら、あなたの恋人になりたいですわ』
「はい、お願いします」
『……覚えていておいてくださいね』
「はい、ベルモット嬢、いいえベルモット、愛していますよ」
『ありがとう、私もよ、シオン』
一か月ずっと一緒にいて、うっとうしい人だなと思っていました。
そして、早く離れたい、成仏してくれなんぞと思っていましたが、泣き笑いの顔で消えようとしていくベルモットを見て、私は彼女に恋をしていたことを初めて自覚しました。
私も鈍すぎますよ。
「わかるようにしてくださいよ、生まれ変わってもあなたがあなたであるように!」
『はい、ではまた会いましょう、シオン』
さようならは言わずに、消えていくベルモット、私は彼女の姿が完全に消えて、誰もいなくなった部屋の中で、どうしてこう死んだ人ってのは最後はみんな潔いのですかねと呟き泣きました。
人の魂は死んでも、また生まれ変わり転生する。
ならきっと私たちはまた出会えます。
きっときっと私たちはまた出会えますよベルモット。
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