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*6* ぶれない彼女と(笑いで)震える私。


 雪の白さが世界を覆う十二月。


 去年と時期を同じく開かれたコーゼル家の夜会には、去年までは見かけなかった顔触れが増えていた。考えられる原因は二つほどある。


 一つは長年愚図と言われ秘されてきた教え子の存在が、一定の貴族達の目に留まったこと。去年と今年の社交シーズンに、彼女が王都のお茶会でとった振る舞いが評価されたのだ。


 教養があり表舞台に出られ、ひいては家同士の繋ぎに使える、婚約者のいない上級貴族の娘がまだいるのだと。


 毎年参加している来賓ですら、去年の秋口からアウローラの立ち居振舞いに変化が出始めたことを知っていて驚くのだ。新規の人々は笑い話でしか耳にしていなかっただろうから、実物を見てさらに驚いたことだろう。


 正直この件に関しては教え子の努力の結果が誇らしくて仕方ないけれど、急な成長は出る杭と同義。これからは徐々に見せ方を調整していった方がいい。


 そして顔触れが増えた原因のもう一つは、純粋にアウローラの知人寄りの友人が増えたからだ。貴族社会では友人と書いてコネと読む。子供の友人として招いたり招かれたりというのはよくある。


 ――……ということは。


 周囲の風景からポリゴンめいた浮き方を見せる私の同僚兼友人も、自身の教え子でアウローラの親友(・・)を連れて出席しているということだ。


 今夜の彼女も絶好調にとんがっていたので、大勢いる招待客達の中から一発で見つけられた。しかも見慣れ始めているのか、可愛く見える。 


 そんな彼女の今夜の装いは、いったいどこで仕立ててもらったのか、どうして仕立屋や周囲の人間は止めなかったのかと言いたくなる、ショッキングピンクのゴスロリドレスにガッチガチの縦ロール。メイクも厚めに塗られた頬紅のせいで発熱しているように見えた。


「こんばんは、ベルタ様……って、まあぁ~……そちら顔好。婚約して下さいませ」


「アグネス様、語彙。望むものを見つけて荒ぶるお気持ちは分かりますが、せめて自己紹介が先かと思いますわ」


 初手で美形相手にいきなり突き抜けたキャラクター性を存分に発揮する辺り、彼女は本当に私と真逆の明るい人だ。思わず吹き出しそうになって頬の内側を噛む。一瞬絶対に笑ってはいけない某コメディー番組を思い出した。


「あら、いけない~。そうですわね。初めまして顔好様。わたしはアグネス・スペンサーと申します。当方見目の良い婚約者を募集しておりますの~」


「ははっ、オレはエリオット・フェルディナンドだ。よろしくアグネス嬢。随分お目が高いようだけど、この独特の美的感覚を持った面白いご令嬢はベルタ先生の友達なの?」


 フェルディナンド様の言葉の中にあるのが、本当に“面白い”という響きだけだったことに安堵しつつ、もしもそれ以外の感情が混じっていたら横腹に決めようと思っていた拳をソッと下ろす。


「はい。女性の家庭教師同士仲良くしてもらっております。教え子同士も友人で……ほら、あちらでアウローラ様とデザートを一緒に食べている子ですわ」


「ああ、あの凄い勢いでデザート消費して、アウローラ嬢に苦笑されてる子?」


「そうです、そうです。あの子ったら、少しでも目を離すとすぐああですの~。あとでちょっと注意しないと駄目かしら~」


 まずい、脱線の気配を察知。取り敢えずあちらのことはまだ実害もないし、後回しにしてもらわないと困る。


「それで話を戻しますが、私の方で声をかけたい人物は彼女ですわ。女の子向けの試作品の話は手紙ですでにやり取り済みですので、今夜はせっかくこの三人で顔を合わせられる機会でしたから、今後の話などしようかと思いまして」


 やや強引な会話の引き戻し方をした気はあったものの、二人は特に気にした様子も見せずにこちらに向かって頷いた。


「じゃあひとまず場所移動する? オレは婚約者探しとかまだそんなに興味ないんだけど、ベルタ()とアグネス嬢はそれで大丈夫?」


「ええ、それはもうご心配なく~。今夜のこの会場内で一番お顔の整っている殿方は間違いなく貴男ですもの。わたしの婚約者に求めるものは顔ですから、もうここにいても比較する対象がおられないので平気ですわ~」


「随分熱烈に褒めてくれるねー。オレの顔、そんなに好みなの?」


「顔が整っている方はすべからく好みですわ~。それに顔以外を褒められるほどまだ貴男のことを知りませんもの。ああ、ですが交際関係は六股まではかけていても平気です~」


「初見なのにオレの人相に対しての風評被害が酷いね?」


「そこまでお顔が良くて一途な方にまだお会いしたことがございませんので~」


「ああ……そう、成程ね」


「ぅふ……んふふっ、私も、それで問題ありませんから、もう、移動しましょう」


 突然始まった漫才のような二人のやり取りに、ついに堪えきれなくなって笑いが零れた。その後三人で会場の隅に移動して今後の策を練ったけど……ふとここにもう一人突っ込み役が必要だと切実に感じたのは、私の笑いの沸点が低いせいではないと信じたい。

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