*12* 庭園にて。
「あら、やっぱり昨日の舞台の記事が一面に載ってますわね~」
「そんなの当然よ。でも先生の記事が小さいじゃない。この記事を書いた記者は分かってないわね。もっと大きくしなさいよ」
「わたくしだって先生の似顔絵をもう少し大きくして欲しかったですわ」
「ええと……アウローラ。ベルタ先生の切り抜き用に同じ新聞を五部も持っているのだし、良いのではないかな?」
「オレも似顔絵を馴染みの記者に頼まれたとき、本当はもっと正面からベルタ先生を描きたかったんだけどねー。ベルタ先生が恥ずかしがるかと思って横顔のやつを渡しちゃったんだよー」
麗らかな春の陽気。
普段ならその陽射しと小鳥の声が降り注ぐ王城庭園の一角にある東屋にて、現在三月ウサギも真っ青な姦しすぎるティーパーティーの真っ最中だ。
「ありがとうございます、フェルディナンド様。その判断で間違いありません。まさかこんなに大きく載るなんて思わなかったので心底ホッとしています。記事も大袈裟過ぎて居たたまれないのに、これで正面からの絵だと恥の致死量です」
「貴方が作った学業の入口がそれだけ素晴らしい功績だったのだ。この記事は相応しい評価を下していると思う。それに今回の脚本はイザークが以前書いた脚本で貴方を貶めたことへの贖罪として、かなり頑張ったとアンナ嬢達に聞いた」
ホーエンベルク様のフォローに苦笑を交えて頷くと、横からマキシム様が身を乗り出して私と彼の間に陣取った。本当にこういうところは可愛げがある王子様だ。
昨日の舞台に招かれていた貴族の皆様は、一連の騒動で入れ替えられた新しい中枢を構成する人員だったらしい。
そして以前のイザークが手掛けた脚本で私を快く思っていなかった一部の人達へ、次世代を担う王子達とその伴侶が私の庇護者であることを知らしめる場だったとか。発案者は安定の教え子だった。
「今回陛下にわたしの名でお前に贈る勲章を作らせても良いかと聞いたら、珍しく笑って『好きにせよ』と仰った。今年の年末にある叙勲式を楽しみにしておけ」
「ねえ、それってまさかベルタ先生の分だけじゃないわよね?」
「そう言うと思ったからアグネス嬢に贈る分も用意させている」
「兄上、流石です」
「フランツ様は時々マキシム様に対して目が曇っていらっしゃいますわ。先生もそう思われますよね?」
いつもの顔ぶれが揃って囲むテーブルの中心に広げられた新聞には、昨日の五国戦記の初日公演の記事と、その記事に大きく添えられた私の似顔絵が載っていた。それを囲んでのお茶会の賑やかさたるや、凄まじい。常に誰かが喋っている。
内容の多くは五国戦記の製作に加わった中心人物としてアンナやヨーゼフや劇団員達、芸術担当として辣腕を奮ったフェルディナンド様、服飾の監修に携わってくれたアグネス様、そして新しく入団した新進気鋭の脚本家としてイザークが。それぞれの分野でインタビューに答えた記事が掲載されている。
私はそれとは別枠で設けられたコラム欄で、教育についてのインタビューを受けた記事と一緒に、件の似顔絵を晒されていた。緊張しすぎて面白味も飾り気もない教育主観について受け答えをしたはずの記事は、馴染みの記者の手によってなかなか読みやすいものへと変わっている。前世で読んだ週刊誌や新聞の内容もきっとこうして作られていたのだろう。
そんなことを考えつつ、新聞記事の考察と昨日の公演について盛り上がっている皆を眺めていたら、アウローラとマリアンナ様に集中砲火を食らっていたマキシム様が急にこちらを振り返り、一瞬言い淀むようなそぶりを見せて口を開いた。
「おい……ベルタ」
「はい、どうしました? マキシム様」
「ホーエンベルクとの婚約準備を済ませたら、また王都に帰ってこい」
せっかくの綺麗な顔を仏頂面にして、ぶっきらぼうにそう言ったマキシム様をまじまじと見つめれば、後ろから彼を押し退けたアウローラが「王都に戻った際には、一番先にわたくしを訪ねて下さいね先生」と可愛らしい微笑みを浮かべて。
どちらに先に返事をしようかと迷っていたら、その後ろで「先生は当分王都にいるのよね?」とマリアンナ様がアグネス様に迫っている。
苦笑を浮かべるホーエンベルク様と、兄の味方をすべきか嵐が落ち着くのを待つか悩むフランツ様。アグネス様の隣で意味深な笑みを浮かべるフェルディナンド様。騒がしくも楽しい昼下がりに静寂が訪れる暇はない。




