*24* 脚本破綻。
主人公の手によっての流血表現があるのでご注意下さい((uωu;)
悪い人間が一番油断するのは弱い者虐めに愉悦を感じているときである。敵の人数は三人。不意打ちで襲うには少し厳しい数ではあるけど、パッと見た感じはチンピラ素人。勝算はまあまあか。
しかし三人の奥にまだ続く通路らしきものが見えるから、もう少し仲間がいそうな感じもある。コイツらが雑魚でも仲間はどうか未知数だ。こんなことなら玄関の鍵を閉めておくべきだった。
とはいえ後悔したところで遅いので、なるべく音と声は立てない方が良いだろう。これだけで難易度がかなり上がる。こんな物騒なことで悩むとか……私の本職って何だっけね。
考えを巡らせて待つうちに、がら空きの背中をこちらに向けたまま男達のうち一人が、蹲るイザークを引き摺り起こそうとしゃがんだ。視線は全員足許で蹲る哀れな子羊に注がれている。接近するなら――いま!
爪先に入った鉄芯で靴音を立てないように細心の注意を払って走り出し、初速を生かしたまま、しゃがんだ手前の男の背中を踏み切り板に見立てて蹴る。袖口から出したロープを馬の馬銜を噛ませる要領で噛ませ、力任せに思い切り後ろへ引く際に背骨を鉄芯の入った爪先でガツンとやるのも忘れない。
正面にいたもう一人の男の顔面に前のめり気味にナックルダスターをぶちかました瞬間、男の鼻の骨が折れる鈍い感触を感じた。顔面に強襲を受けた相手は鼻血を噴きながらもんどりうって後ろに倒れる。まずは一人目。
驚いて声を上げかけたもう一人の口に咄嗟にクナイを突っ込みそうになるも、慌てて掌底で顎を打ち上げ強制的にノイズキャンセル。衝撃で歯が二本ほど折れて零れ落ちたけど、舌を噛み切らないで済んだようだ。悪運が強い。
「~~~っ!?」
「お静かに、ねっ」
憤怒の表情で掴みかかろうとしてくる努力は買うけれど……頭突きしたら髪が汚れるので、下からキドニーを抉り込むように打つ。相手は人体急所にめり込んだ私の拳に悲鳴にならない呻きを一つ、白目を剥いて倒れた。ナックルダスター大活躍。これで二人目。
強かに蹴りつけられた背骨を押さえて状況を把握した踏み切り板……もとい最後の一人が起き上がりかけたところで、ちょっと嫌だったものの手袋を着けてるからセーフと見なし、男の脂ぎった髪を掴んで顔面に渾身の膝蹴りを一発。
くぐもった声を漏らして崩れた男の頭に今夜の功労者(?)、ナックルダスターを駄目押しプレゼントで終了。鼻血塗れの手袋がしっとりして気持ち悪いので、ナックルダスターを昏倒している男の服で拭ってから、叩きつけるように脱ぎ捨てた。
男達の服を漁って質の悪いダガー六本とナイフを二本、火がつきそうな度数のお酒が入った小瓶を三本くすねる。この間一言も漏らさず倒れ臥していたイザークを覗き込むと、彼はきちんと覚醒していた。
血の雨が降り注いだ彼の顔は、赤い染料で霧吹きをされたみたいに斑になっているものの、こちらを見つめ返す瞳は相変わらず虚ろである。顔の半分がどす黒く変色しているところを見るに、すでに相当痛めつけられた後のようだ。去り際にチンピラ共の足の甲にクナイを打っておこう。
「ようやく見つけましたよイザーク様。これに懲りたら、ご自分の作品に出さない短絡的なヒロインのような真似をなさらないで下さいね?」
反応を見るために傍に膝をついてそう皮肉れば、イザークは息を詰めて浅い呼吸を繰り返しながらも薄く笑った。
「……思ったよりも……見つかるのが、早かったですね。てっきり、もう少し、現場で足止めを……食らうかと」
やっぱり確信犯か。だけど試し行為をして良いのは子供だけだ。大人にやられても腹が立つだけである。思わず握りしめた拳に力を込めたものの、すでに殴られている人間相手にムキになるのも大人気ない。
「ええ、それはもう難儀しましたけれど。貴男がなけなしの情で観察する場所を教えて下さったから、こうして無事に辿り着けました。少し遅かったみたいですけれど、その痛みは勉強代だと思って下さい。何にせよ命があって良かった」
話ながらイザークの上半身を膝の上に寝かせるように起こし、骨に異常がないかを調べてみるも、珍しく苦悶に表情を歪める彼を見て焦りが生まれた。内出血に腫れと熱。左腕と肋骨の数本にヒビが入っているかもしれない。
普通に考えればここで助けを待ちたいところだが、奥にまだ誰かいる危険性を考えれば早く安全なところに避難させた方が良いだろう。
「自力で立つのは……難しそうですね。背負われるのと、肩を貸されるのならどちらが良いですか?」
「は……貴方は、びっくり、するくらい……お人好し、ですね」
「いいえ? 内心張り倒したい気持ちはあります。でも怪我人に手を上げるのは人間的に駄目でしょう」
「いま、血の雨を降らせた人が……それを、言います、か」
「悪人を相手に武力で語るのは罪に入りませんわ。それよりも運ばれ方を――、」
選んで下さいと続けようとしたそのとき、場違いな拍手が地下に響いて。瞬間的にクナイを手に視線を奥へと続く通路へ向ければ、案の定そこにいま一番会いたくなかった人物がお仲間を引き連れて立っていた。




