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*12* 今後の予定。


 あのあと『この部屋は貴方の好きに使って下さい』と言い残して出ていかれたので、ひとまず仮眠をとった。我ながら図太いなとは思うけど、眠れるときに寝ておかないとね。


 後ろ手に拘束されたせいで寝返りを打てなかったけど、寝具が素晴らしかったので案外快適に眠れて、二度目の目覚めは爽やかだった。


 現在時刻は七時。あの脚本を憶えてくれているなら、アグネス様はきっともうあの宿屋にはいないだろう。いまの私にできることは天に祈りを捧げ、親友の活躍を信じて待つことだけ。


 芋虫のように身を捩って身体に巻き付けていた寝具から這い出していたら、部屋のドアがノックされた。ややあってから『お目覚めでしたら、入っても構いませんか?』というイザークの声。


 否も応もない立場なので「どうぞ」と声をかければ、外から解錠される音が室内に響く。施錠されていたのかと思う一方で、牢屋よりはだいぶマシな待遇で良かったと暢気な感想を抱いてしまった。


 暢気な感想を抱いたそのままの気分で、ドアが開いて滑り込むように入室してきた相手と朝の挨拶を交わす。うーん、攫われた感が薄い。


「先程手紙をあの男に届けさせるついでに貴方達の泊まっていた宿に使いを出したら、すでに彼女は発ったと報告を受けました」


「それは良かった。行方を訊ねられても答えられませんので、悪しからず」


 開口一番知りたかった情報を聞けたのは、きっと偶然じゃなくてイザークなりの気遣いなのだろう。ただそれを素直に感謝するのも癪なので軽く皮肉れば、彼は無表情のまま肩を竦めた。


「別に身柄の安全の確保ができているなら探しません。彼女に危害を加えるつもりはないと言ったでしょう。それより朝食は食べられそうですか?」


「……そうですね、頂きます」


「分かりました。飲み物は珈琲と紅茶のどちらが良いです?」


「頭をスッキリさせたいので珈琲でお願いします」


「了解しました」


 何だか面接みたいなやり取りだなと思いつつ、眠りたいときに寝られて、食べたいときに食べられることができるという環境はありがたい。少なくともここで変に意地をはって食事をしない判断は馬鹿だと思う。


「それはそうと、貴方は両手を自由にさせると案外何をしでかすか分からないので、着替えや身の回りの世話をさせるメイドを用意します。年齢や容姿の希望はありますか?」


 朝食のメニューを聞く延長線でサラッと人事を尋ねられた。悪意も害意もないのは良いけど調子が狂う。まさか今更こんなNPCみたいな反応をする人と行動することになろうとは……とは思いつつ。


「そんなことも選ばせてもらえるのですか?」


「貴方の立場はあの男を呼び出す餌以外では、あくまでお客人ですからね」


「餌呼ばわりは気に入りませんけど、人事に口を出させて頂けるならまぁ良いです。毒草農園で働かされているリベルカ人女性の中に、ユニという名前の息子がいる方を探して頂けませんか?」


「驚きましたね……この領地の農園に知り合いが?」


「主に貴男が殺したくて堪らない方のせいで増えた知り合いです。とは言っても、私は息子の方しか知らないのですけど」


 こちらの答えに思い当たる節があったのか納得した様子で頷くイザーク。そんな反応にちょっとだけ補足を加えてユニのことを話せば、彼は平坦な声で「では朝食後、農園に案内しましょう」と言ってくれた。


 あまりに軽い反応に不安になるぞ。これで連れていかれた先がただのリンゴ農園とかだったらどうしようレベル。


「この情報はもっと秘匿性の高いものだと思っていたのですが。領主代理とはいえ、勝手に判断して大丈夫なのですか?」


 情報が古かったら怖いので思わず単刀直入に訊いたところ、彼の言葉を信じるなら、この領地での悪巧みからすでに次のステップに進んだミドルは、王家からの言及があった際この地を切り捨てやすいよう、裏社会に通じる汚れ仕事を彼に押し付けた後らしい。


 要は自身の留守中に領地を探られても、知らぬ存ぜぬ、息子が勝手にやったことだと逃げ仰せるつもりだ。安定のクズぶりに感心するわ。


 ちなみに現在この屋敷内にいる使用人達は全員総入れ換え済みだとか。前の使用人達がどこに行ったのかはあまり興味もないし、一過性の好奇心でこれ以上立場を悪くするのも嫌なので放置。


 ――結果、


「農園に行くまでの面倒は見ますがボクはリベルカ語はできません。ですので、人探しは貴方ご自身でしてもらうことになりますよ」


「ありがとうございます、それで充分です。ただ私もリベルカ語は話せないので、できれば食後に紙とペンをお借りしたいのですが」


「手を自由にすることになるなら目の前で書いて下さい。それが守れるようでしたら構いません」


「分かりましたわ」


 ――ということで話はまとまった。


 その後は二人で朝食をとり、ガンガルに時々教えてもらっていたリベルカ語を思い出しながらどうにか書き、通じるかどうか不安なその短い手紙擬きを持って毒の園へと向かったのだった。

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