*13* 記念式典①
間違えて悩んでた方をアップしてしまったので、
アップし直しました。前の読んでしまった方すみません(´TωT`)
屋敷で合流後、アンナはヴァルトブルク様と、私はアグネス様と同乗してお喋りを楽しみつつ馬車に揺られていたものの、目的地が近付いてくるに従って馬車が混雑し始めた。どうやら馬車の台数が多くて停車場が混雑しているようだ。
小窓から馭者に会場までの距離を訊ねたところ、もうすぐ目の前だという答えが返ってきたので、ウキウキした様子のアグネス様と一緒に窓から建物の外観を眺めようとした……のだけど。
「ほ、本当にここが式典の会場なのですか?」
「ええ、そうですわ~。パッと見だとお城みたいで立派でしょう?」
絶句する私の問いにのほほんと答えてくれるアグネス様には悪いが、パッと見どころか、どこからどう見てもちょっと小さいお城だ。
失礼ながらどうせ前世でよく○○ホールとか、○○会館と呼ばれる謎のハコモノ事業の産物よりは立派でしょ程度だと思って侮っていたから、驚きのあまり喉が変な鳴り方をしたわ。絶対普通に生きてたらお呼ばれする場所じゃない。
……まぁ、日常的に王城に出入りしてるくせに思うことでもないかもだけど。
しかしあれは歴とした仕事で職場。これはいわば仲間内で始めたサークル活動が一躍日の目を見てしまったプライベート。緊張しない方が無理だ。
「王都でも有名な建物だと思うのだけれど、ベルタ様はこちらにいらっしゃるのは初めてだったのかしら~?」
「は、はい。王都に来てから日は経つのですが……まだほとんど職場と自分の生活圏以外の場所は知らなくて」
言い訳がましくそう答えてそびえる白亜の城的な建物を眺めていたら、後方にいたヴァルトブルク家の馬車の方から「何なのあの建物!」という、可愛い妹の驚く声が聞こえてきた。私達は姉妹揃って知らなかったのだ。こんなに自己主張の激しい建物の存在を。
「実を言えばわたしも存在を知っているだけで、中に入るのは今日が初めてですの。ほとんどは上級貴族だけの大きな式典でしか利用されないのですって。立派なのは外観だけでないそうですから、楽しみですわね~」
「そ、そうですわね。ほんとに……楽しみです」
この状況下で楽しみとは羨ましい。アグネス様の肝の据わり方が尋常ではないことは良く分かった。本番に物凄く強いタイプだ。
今夜の彼女の装いは肩が少し見える水色のドレス。要所要所に上品にあしらわれたレースが、ほっそりとした彼女の姿をキリリと引き締めて見せる。甘さとクールさのミントキャンディー系女子っぽくて素敵だわ。
ようやく車列が少し進んでエントランスの下に入ったところで馬車から降り、後ろの馬車から項垂れて降りてくる義弟と、嬉しそうにはしゃぐ妹を見て、年長者として気をしっかり持たねばと己を奮い起たせた。
何より式典に出られる喜びで浮き足つ人達の中で、お通夜な雰囲気でここに立つのはよろしくないしね。
私よりヒールを履き慣れているアンナが「お姉さま、アグネス様、楽しみね!」と抱きついてきて、そんな妹の姿を見たアグネス様も「ね~」と微笑む。一人胃が痛そうな義弟に視線で“同じ気持ちよ”と伝えれば、彼は泣き笑いのような気弱な笑みをくれた。
けれどその直後にアンナと義弟は隣国でお世話になった知り合いを見つけ、そちらと会場入りすることに。
離れる前にもう一度ギュッと抱きついて「また後でね、お姉さま」と笑うアンナ達を見送り、さて入場しようかと思っていたら、エントランスの端っこで一塊になっていた私達の耳に「おーい!」と耳に馴染んだ声が届いて。
声がした会場の入口の方を見やれば、こちらに向かって歩いてくる人物が二人。ホーエンベルク様と、やや体重を取り戻せたフェルディナンド様だった。
「やーベルタ先生達も、今夜の式典にぴったりの装いだねー。華やかで綺麗だ」
「うふふ、フェルディナンド様こそ今夜もお口がお上手ですこと~」
「ええ、本当に。フェルディナンド様のようなとびきりの美人にそう言われては、女として自信をなくしてしまいますわ。ねぇ、アグネス様?」
「まったくもってそうですわね~。フェルディナンド様なら普段着でも見映え充分でしょうに、気合いの入ったドレスアップをしていらっしゃるだなんて……空気を読んで下さいませんと」
「ドレスアップって……男の正装なんてどれも白黒で同じようなものじゃない? それに普段着って、ここ最近は前衛的な色柄になった前掛けとシャツだし。オレがいくら美人でも流石に許してもらえないって。ヴィーもそう思うだろ?」
周囲の視線などお構いなしにこちらに近付いてきて、緊張を解こうとしてくれるフェルディナンド様の気遣いに、つい私達も軽口を返して笑い合う。
ついでにフェルディナンド様の後ろで笑うホーエンベルク様の声に耳を傾けていたら、その彼がこちらに向かい「自分の語彙が乏しいわけではないと思いたいが、良く似合う」と、サラッと褒め言葉をくれた。不意打ちは心臓に悪い。
しかしそんなこの流れに水を差すつもりはないけれど、今夜の式典は関係者以外は入場できなかったはずだ。だったらどうして彼はここにいるのだろう? ふと疑問を口にしようとしたそのとき、それまで穏やかだったホーエンベルク様の表情が不意に引き締まって。
何事かと彼の視線の先を追えば、そこにはこちらをジッと見つめるあのミドルの面影を持つ若き脚本家の姿があった。




