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*12* そんな軽いノリで渡されても。


 ――前世も今世もかわりなく師走の一日一日は、飛ぶように過ぎて。やってきてしまいました、ジスクタシア・リスデンブルク王国友好芸術文化賞当日。


 父が今日の晴れの日に合わせ、私とアンナに五国戦記の第二期主人公のドレスをお揃いで新調してくれたので、せっかくだからとお化粧や小物も同じ双子コーデにしてもらった。双子コーデってもう前世の世界だと死語なのだろうか?


 淡い白に近いくらいの紫のドレスに合わせるのは、濃い紫色のショールと、紫色のグラデーションがかったヒール。装飾品は真珠で清楚さを出し、髪は片側でまとめる形にして、私が右、アンナが左になるように結われた。


 悪役顔な姉と、ちょっと気が強そうだけれどそれがまた高嶺の花な魅力の妹。出来映えの差がえげつなくて同じ衣装なのが申し訳ないところだけれど、父を筆頭に使用人の皆や妹も喜んでくれたのでよしとする。

 

 我が屋敷の厳しいメイド達の最終チェックも済み、さぁ、いざ出かけるぞという段階になった玄関ホールにて。


「二人とも普段から十二分に美しいが、今夜は輪をかけて美しいな。しかしここまで美しいとなれば男が放っておくはずもない。くれぐれも暗い場所に一人で行ったりしないように。どうしても単独で行動することになってしまったら、誰に声をかけられてどこに行くのかを伝えて行くこと。もしも何かされそうになった場合は構わない。全力で潰しなさい」


 最初の台詞はとても穏やかに、次の台詞はこちらを案じる響きを含ませ、さらに幼い子供に言い含めるように付け加え、最終的に不届き者にかける慈悲などないという教えを授かった。


 今夜の文化賞に呼ばれる関係者枠には身内枠などはなく、純粋に表彰される人間に影響を与えた関係者に限られている。それ故の親バカ注意報が発令されたのだろうけれど――。

 

「お父さま、いつまでわたしとお姉さまを子供扱いするつもりなの? きっとこんな注意をされているのはうちくらいのものだと思うわ」


「聞きなさいアンナ。娘が可愛いから注意するのは自然なことだろう。第一付き合いのあるご令嬢達がそう言ったのかい?」


「そんなわけないでしょう。ただそうかなって思っただけよ」


「成程、では不確かな情報というわけだ。言われてもいないのに勝手に“うちだけ”だと決めつけるような視野の狭い大人になってはいけない」


「え? そ、それはそうかもしれないけれど……」


 ――無駄に綺麗な見目で何を言っているのだろうかこの人は。

 ――そんなに何でも素直に信じてはいけないと思うのだけど。


 そう思っていても声には出さない優しさを持つ使用人達の生暖かい視線に促され、頷き返そうとしたそのときちょうど玄関のドアが開き、半分だけ顔を覗かせたガンガルが「お嬢、迎えの馬車、来たよ」と教えてくれた。


 ガンガルに「ありがとう。そのままお待ちして頂いて。すぐに行くわ」と伝え、まだ続きそうな微笑ましい(?)言いくるめと、言い負かされを観察する時間を終わらせるために二人に向き直る。


「ほらほら、アンナ、お父様、聞こえましたね? 家族仲がよろしいのは結構ですけれど、そろそろ時間ですわ。ヴァルトブルク様とアグネス様をお待たせするわけには参りませんし、もう出かけないと」


 パンパンと軽く手を叩いてそう告げれば、アンナは「だってお姉さま、お父さまが……」と言い、父は「でもねベルタ、アンナが……」と似たような反応を返してくる。うちの家族可愛いかよ。


 だけど本当は分かっている。父が緊張しているアンナの心を、少しでも軽くしてあげようと思っていることくらい。実際に私の方を見る父の口許にはうっすらと微笑みが浮かんでいる。会場についてこられない父なりの檄なのだろう……たぶん。


 口紅で色付いた可愛らしい唇を尖らせたアンナが私の腕に抱きついてくる。その頭を髪型が崩れないように撫でながら、父と使用人の皆に「行ってきますね」と言えば、父は一等嬉しそうに目を細めて。


「行っておいで、私の可愛い自慢のお姫様達。お土産話を楽しみにしているよ」


 ――と、そんなキザな見送りの言葉と。


「ああ、いけない忘れていた。念のためにこれを持っていきなさい」


 ――と、ドレスの下にも隠せるサイズの小型ナイフを持たせてくれた。うん……前言撤回かな。やっぱりアンナの言う通り帰ってきたら一度しっかり話し合おう。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしお父様が現代の日本にいらっしゃったら渡すのはスタンガンでしょうか? なんとなく防犯ブザーだけではない気がします。 とっても素敵な家族ですねー(*´∇`*)
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