*20* 気心知れた友人達と<1>
今年も波瀾万丈な社交界シーズンが終わりに近付き、七月も残すところ一週間となったところで、
『あ、そうだベルタ先生、オレ達そろそろ領地に一旦戻るから』
『マリアンナ様はシーズンの終わる直前までハインツ家の方と行動されますし、ホーエンベルク様は職場が一緒な分、わたし達よりベルタ様を独り占めしていますから、今年は三人でデートしましょう~?』
『そーいうことー。ま、半分は冗談だけどさ、画集分のスケッチとかもしときたいんだよね。たっぷり五日間くらいお休みもぎ取ってきてよ』
――とフェルディナンド様達が誘ってくれたので、ホーエンベルク様に相談したのだけれど……意外なことにアウローラが引き下がり、マキシム様がごねた。
でもそこはフランツ様の『兄上はベルタさんが大好きですね』という煽りのおかげで、無事五日間のお休みをもらえることに。教え子の婚約者が有能で嬉しい。
一日目は、私が攫われたりしたゴタゴタでまだ観ていなかった、我がミステル座が誇る五国戦記の観劇に出かけ。
二日目は、街歩きをしながら画材屋さんを覗いたり、露店の雑貨を眺めて歩いたり、買い食いをしたりと、普通の若者らしいことを楽しんだ。
ちなみに休暇中の護衛は、
『うちの一族は狙われやすいのにフラフラ出歩くしとにかく弱いから、護衛はめちゃくちゃ強いよ。いつもはだいたいヴィーと一緒だからいらないんだけどね』
と言うので、フェルディナンド様のお屋敷の方々をお借りさせてもらっている。正直どこにいるのかまったく分からない。護衛される側にストレスを感じさせないのは凄いことだ。しかしそんな護衛の存在をいらないと言わしめるホーエンベルク様の武力がちょっと気になる。
三日目は、女の子向けの遊戯盤に出てくるアイテムを扱っているお店の視察へ。いつの間にかかなりの品数になっていて、店内は遊戯盤の攻略について熱く語り合うご令嬢で賑わっていた。見目麗しきオタク達である。
私はあまり服に詳しくないものの、アグネス様が数着王都限定のドレスを注文するのを眺め、フェルディナンド様が見立ててくれた小物を数点購入して店を出た。その後はいつも利用するカフェに寄り、ケーキと冷たい飲み物で遊び疲れた身体を癒やすことにした。
「うふふ、買いましたわね~」
「私も可愛らしいものが多くて珍しく購入してしまいましたわ。それにお店も大盛況で驚きました」
「でしょー。第二期の公演が始まってからは女主人公だしと思って、こっちでも商品を扱ってみたら大当たり。さらに人気が出てきたよ。劇中のドレスは注文できるけど、合わせる小物の中には王都限定のものもあるからね」
「何を隠そう、わたしもそれを購入しに来たのです。マリアンナ様がどうしても欲しがられて。ほら、このイヤーカフがそうですわ~」
そう言ってアグネス様が見せてくれたのは、透かし彫りにされた銀細工の大蛇の紋章と、そこに嵌め込まれたアメジストが揺れるイヤーカフ。劇中では男装をする主人公の耳許についている……らしい。
かなり前列の良い席を押さえないと見られないのだが、広告の絵には確かに耳許に描かれている。芸の細かさに思わず溜息が漏れた。
「まぁ……大蛇の紋章って女の子は嫌がるかと心配しましたけれど、格好良いのに可愛らしくできていますね」
「うちの一族は芸術系にだけ特化してるからねー。これくらいは当然だよ。職人の技が光ってるでしょ」
「流石にこれをつけて大きなお茶会には出られませんけれど、こういう小物で仲間を探すのも楽しそうですわよね~」
小休憩のつもりがいつの間にか新しい商品の話に広がり、さらに次の女の子向け遊戯盤の話にまで及んで……。
――、
――――、
――――――四時を告げる鐘の音で正気に戻った。
「いけない、もうこんな時間。今日はもう場所を移動するには遅いですし、明日の予定だけでも先に立ててしまいませんか?」
「ホントだ。時間配分まずったねー」
「でも楽しかったのだから、こういう失敗もたまには構いませんわ~」
「だね。残すところはスケッチだけど……枚数描くから二日は欲しいな。どこか公園にでも行く?」
肩をすくめたフェルディナンド様が出した案に頷きかけたものの、横から銀色に輝くフォークを持った手で制したアグネス様がゆるゆると首を横に振る。
「こんな季節に野外などお肌の大敵です。スケッチでしたら、是非我がスペンサー家にお越し下さいな~。大した屋敷ではないのですけど、わたしのお見合いに使う絵を描いてもらう専用の部屋がありますの」
「へぇ、良いねー。じゃあせっかくだし借りよっか?」
「ではアグネス様のお言葉に甘えさせて頂きますわ」
――という感じでトントン拍子で場所決めも完了し、メンバー中で一番門限の厳しい私に合わせてくれた二人と一緒に三日目を終えた。




