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*13* まさかのスライド式断罪ルート。


 どれくらい意識を失っていたのだろうか……固い床に下ろされる感触に目が覚める。乱暴に運ばれて来たのかまだ浮遊感が残っていて気持ち悪い。袋からようやく顔を出せた時は、泣きそうになった。主に鉄格子の内側にいる不安で。


 ――が、目の前でニヤニヤと嗤う二人組のチンピラを前に、すぐに浮かびかけた涙も引っ込んだ。モブ仲間のはずなのにちっとも親しみを感じない顔。前世で見かけたら避けてた深夜コンビニ前でたむろしておられるタイプ。


 誰でも良いからこの状況を冗談だと言って欲しい。この歳で簡単に攫われるとか格好悪すぎるし……怖い。攫われるのってこんなに怖いのか。


「こ……どもに、悪事の片棒を担がせたのね」


 けれど泣くのも癪だ。涙の代わりに喉に込み上げてくる胃液を飲み下して、何とかそれだけは言った。前世も今世も教育者の身としては許せない。


「お貴族様らしい言い分だな。子供だって飢えりゃ悪事を働くさ。金がもらえるならなおのことな」


「ぬくぬくと育った連中には分からんだろーがね。何せ人を疑うことを知らんくらいだからな」


 ……確かにそれはどっちもごもっとも。図星を指されて睨み付けることしかできないこちらに向かい、男が嫌味ったらしく指先で弄んで見せるのは、私の持っていたアンナからのカードだ。

 

 でもこれでまた分かったことがある。たぶんこの誘拐計画は結構前から練られていたのと、最初から私だけが狙われていたということだ。そこだけは本当に本っ当に良かった。アンナのように綺麗な子なら、ここで一気に青年指定のとんでもない案件になっていたに違いない。


「おい、怖くて声も出ないのか」


「ふふ……そう見えるのなら、そうでしょうね?」


 そうだよ。怖いよ。怖くないように見えるなら、悪役顔が一役かっちゃってるんでしょうね! ちゃんと怖いし一人になった方がまだマシなんだから、さっさと失せてくれませんか?


「チッ、可愛げねーの。あぁ、それと奥に先客がいるから仲良くしろよ」


「地下牢に先客?」


 もー……結局一人にはなれないのか。しかもこの状況下ではその先客とやらも絶対にろくな奴じゃないな。男達は私だけを鉄格子の内側に残して外へ出ると、人をいたぶるのが大好きだと言わんばかりの下卑た笑みを浮かべる。


「あんたが少し前に俺たちに付き出した“不審者”だよ。貴族の娘を拐うにしても、殺すにしても二度も失敗したからな。散々絞られて転がされてる。あんた恨みをかってるだろうから、殺されないように気をつけな」


 ほら見ろ。名推理すぎて泣けるわ。動物園の猛獣小屋に放り込まれた気分。生意気な貴族への意趣返しのつもりだったのだろう、こちらを見る男達のニヤニヤ嗤いが一層深くなる。


「そう言うなら、せめて入れる牢屋を変えて頂戴」


「ダメダメ、贅沢言うなよ。世話をさせられる身にもなれって。第一普通ここは出してとか逃がしてとかじゃねーの?」


 あのな、自分を殺そうとした相手と相牢屋だぞ? この男の頭の中で贅沢の項目がどうなっているのか、是非とも見てみたい。お前それ猛獣がうろつくサバンナの真ん中でも同じこと言えるのか?


「牢屋を変えてと頼むだけで駄目なら、頼んだって無駄でしょう。できないことをねだるほど子供ではないの」


「はっ、そりゃそうだ。アンタあんま美人じゃないけど、ここでキャンキャン泣き出さないのは上出来だね。賢くはないけど肝が座ってら」


 せせら笑って言いたいことだけ言うとこれ見よがしに鍵をかけ、男達は来た方向らしき方へ消えた。人殺しとどう仲良くすればいいというのか。せめて手足の自由があるかどうかくらいは聞いておけばよかったと後悔する。


 少し離れた場所にあるトーチカの明かりが、カビた石造りの地下牢の床をうっすら照らし、奥で蹲っている男の背中らしき影を映す。でも……気のせいだろうか、あのトーチカの形に見覚えがある気がするのは。


 正直さわらぬ神に何とやらなのだけれど、こちらを捕まえるのに失敗したせいでリンチにあって転がされていると聞いたら、流石に気になる。人間だもの。第一後ろで死なれたりしたら怖すぎる。


 前世でそんな経験をすることは当然なかったし、ニュースで流れるのを他人事として耳にした程度だから馴染みがない。


「その怪我を負う羽目になった原因が言うのもおかしいけど……大丈夫?」


 いや、元々はそっちが悪いんだけども。ビクビクしながら声をかければ、その背中がもぞりと動く気配がした。しかも何やらブツブツ譫言(うわごと)を言っている。これでもし“殺してやる”なら追加で一撃入れよう。


 けれど私が非情な決意を胸に不審者ににじりよってか細い声を拾う前に、男達が去って行った方角から怒声のようなものが聞こえ、思わずそちらを振り向いた。身代金の分け前か何かで仲間割れだろうか?


 切れ切れに聞こえてくる会話内容が気になって、目の前に転がっている不審者への興味は一気に失せた。鉄格子の方まで戻り、息を詰めて聞こえてくる会話に耳をそばだてる。


 ――いわく、


 “もっと悪評を浸透させてから”だとか。

 “まだあの娘の筆跡で手形が切れた”だとか。

 “王子を悪様に書いた手紙の公表を早めろ”だとか。

 

 ――とまぁ……要するに、行方知れずになっていた手紙の真相がこの言葉達に集約されていた。しかも驚くべきことにうっすらと見覚えのあるトーチカとこの現状が、朧気だった記憶をビビッと刺激して、幾つ目だったかのバッドルートを思い出させてくれた。


 実際悪役令嬢ならではのお約束過ぎる断罪ルートは、原作ゲームだとガッツリ悪事に手を染めた教え子が見られましたけども。ノベル画面で一人で過去を回想する教え子のシーンで、今そこに見えているトーチカが映り込んでました。ええ。


「これって……もしかして私がシナリオ通りに動かなかったから、そのしわ寄せで罪状をでっち上げられて断罪されるルート……?」


 キャラクター変えてスライド式断罪ルートとか、原作脚本の理を曲げられないのは乙女ゲームだけの特権にして欲しいと、どこに嘆願すれば良いのでしょうか転生の神様?

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな奴ら許せませんね 者共とりあえず武器になりそうなもの手にとってカチコミだ なるべく殺傷能力の低そうなものを持つよつように じわじわいたぶって手を出したこと一生を後悔させてやる ああ…
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