表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/240

*4* 続編はファンの反応が大事。


 アンナとヴァルトブルク様の求婚劇を見たあと、早速三人で取りかかった新しいシナリオのお話が膨らみに膨らんで寝る間を惜しみ、まったく休暇にならなかった休み明け……の休憩時間。


「先生がお休みだった間にアンナお姉様が婚約されたのですか!? 大変、急いでお祝いのカードと贈り物を考えないと!!」


「それにお相手が脚本家のヴァルトブルク殿で、小説担当のアンナ嬢と一緒に五国戦記の新作を製作中ですか……素晴らしい。公演はいつ頃です? 今回も遊戯盤の支援者には優待があるのでしょうか?」


「お二人とも落ち着いて下さい。まだゲームの途中ですわ。それに喜んで頂けるのは嬉しいのですが、アウローラ様は声の大きさが少し……」


 普段の優等生と淑女ぶりはどこへやら。食い気味に遊戯盤の上に身を乗り出すフランツ様とアウローラに気圧される。この分だと案外この子達は、将来似た者夫婦になれそうだ。


「二人とも騒がしいぞ。あと、早く駒を動かせ。順番が回ってこないだろう!」


「はは……ベルタ嬢が不在だった二日間とはまるきり逆の光景だな」


 一日の授業を少し早めに切り上げての休憩時間は、夏休み初日の塾に似ている。全然別の校区の子達が一斉に集まるから、塾だけでしか会う機会のない友人との会話に熱が入るのだ。


 大体そういった初日の授業はこういう浮わついた空気のままで終わる。今日の場合は遊戯盤で遊ぶ時間がこの話題で潰れることになるだろう。


 せっかく二日分の敗けを取り戻すために、今日の授業のほとんどを遊戯盤で用いる戦術に割いたマキシム様は悔しそうだ。こちらとしては広域で考えれば統率と知力の能力に振り分けた授業と言えなくもないので問題はない。


「申し訳ありません、ホーエンベルク様にマキシム様。教える時と場所を見誤ったようですわ」


「「そんなことはありませんから、情報開示の続きを」」


 いや、こっちが構うしハモるな。絶対に見誤ったわ、これ。せめて一回ゲームをクリアしたあとに言うべきだった。所在なさげな盤上の駒達が切ない。


「すまない、フランツ様は一度興味の対象を見つけると俺の声も届かなくなる。何より俺もその新しい脚本というものに興味があるな」


「――だ、そうだぞベルタ。今日はもういい、諦める」


 ホーエンベルク様の補足に不貞腐れた声でそう言うマキシム様に苦笑を向ければ、彼は憮然としながらも続けて「後で妹の名を教えろ。祝いの品を贈る」と言ってくれた。


 おお、心遣いが成長してる。他人を気遣う精神が……分かりやすく言うと魅力が上がってきているとみた。統率、知力、魅力か。王様らしい王道な学習コマンドの上がりと言えるだろう。


「妹にお心配りを頂きまして、光栄です。マキシム様からのそのお言葉だけでも、千金の価値がございますわ。そのように自然に心配りができる殿方は素敵だと思います」


 できなかったことができたら、小まめに褒める。今回は以前のような養殖のものではない自然な言葉で褒めることができた。マキシム様は「当然だ」と言いつつも、照れているのか頬を赤らめている。


 すると横からアウローラが「わたくし、珈琲を無糖で飲めるようになりましたわ」と勢い良く挙手し、その隣で「私は模擬剣で素振りを百回できるようになりました」と控えめな挙手。


 そして何故か三人の権力ある子供の頭を順繰りに撫でる羽目になった私。この場を他の貴族に見られていたら、あのライバル劇団とその後ろ楯の脚本を鵜呑みにされてしまうことだろう。


 ホーエンベルク様はそんな私達を微笑ましそうに眺めつつ、途中で放り出された盤上遊戯の戦場を片付けてくれた。本物の戦場も掌に収まるものならいいのに。


 すっかり広くなったテーブルの上に、ワゴンから直接サーブしていたお茶菓子と紅茶のアフタヌーンティーセットを並べ、興味津々の四人に、この二日間アンナ達と練った新たな脚本の概要を話すことになった訳だが――。


 前作の五国戦記の舞台と小説を知らないマキシム様から度々飛び出す質問に、説明は難航。途中でアウローラとフランツ様の二人が焦れ、フランツ様が自室から前作の小説版とパンフレットを持ってきたのには笑ってしまった。


 先に前作の世界観を叩き込むからと一時中断された説明と、仲良く小説とパンフレットを開いて覗き込む子供達。時々注釈を加えられて素直に頷くマキシム様と、若干オタクの片鱗である早口で作品内容を教えるフランツ様とアウローラ。


 そこに前世の殺伐とした関係性は欠片もない。微笑ましい気分でそんな子供達の姿を眺めていたものの、ふと視線を感じてそちらに顔を向けると、ホーエンベルク様の紺に近い青い瞳とぶつかった。


 気付いてしまったからにはこちらから逸らすのも感じが悪い。そう思って見つめ合っていると、彼が僅かに笑みを深くする。たったそれだけのことなのに、何となく頬が熱くなった。


 視線の逸らしどころを失くした見つめ合いは、マキシム様の「成程……では次の物語の主人公は、ベルタが良く使うメンコのキャラクターなのか!」という、合点の声でようやく解けた。


「え、ええ、そうですわ。憶えていて下さってありがとうございますマキシム様。次回はあの紫の大蛇が紋章の国の宰相が主人公になる物語なのですけれど、当初の予定と内容を大幅に変えておりまして――……、」


 説明の内容に食い付きを見せる子供達と、説明の途中でこの脚本の意図に気付いて悪い笑みを浮かべる大人。両者の対比に満足した私は、可愛い妹と義弟の読みが当たったことに安堵したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やったぜ100話! おめでとうございます!! この読み応えある内容でほぼ毎日更新の100話とは……頭が下がります。 あ、何故かしらん。考えただけで目の前が真っ白に(バッタリ) マキシム視…
[良い点] 楽しそう!(*´艸`*) 素晴らしき100話目! ジャ○アンの成長、子供たちの仲、恋愛(微)、今後の展望?が詰め込まれた回! 100話、おめでとうございますヽ(=´▽`=)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ