【2-71】国王の書庫
「ジェイデンは……、このままいけばライアンが次期国王になると考えているのですか? 即位への気持ちが一番強いのは、マデリンなのですよね?」
困惑しながらも素直な疑問をぶつけたキリエへ、ジェイデンは再び頷く。
「うん、どちらの問いに対しても『その通りだ』と答えよう。──だが、マデリンはおそらく、もう駄目だろうな。あの一騎打ち以降、彼女は何の動きも見せずに黙っている」
「公務などもしていない様子ということですか?」
「そのようだ。三日前、彼女の屋敷前を通りがかったから、少し寄ってみたのだよ。マデリンはずっと部屋に引きこもっているらしく、公務も放棄しているらしい。ヘンリエッタ様がどんなにお怒りになっても聞く耳を持たず、部屋から一歩も出てこない……と、傷だらけのランドルフが言っていた」
「傷だらけ? ランドルフがですか!?」
「ああ。おそらく、ヘンリエッタ様の暴力からマデリンを庇ったのではないか? 彼は今までそんなことをしていなかったはずだが、何か心境の変化があったのか、あるいは流石に庇いたくなるほどヘンリエッタ様の仕打ちが酷かったのか」
その両方が理由だろう、とキリエは予想した。
以前、マデリンの茶会に招かれた際、リアムはランドルフに対し側近騎士としての覚悟が足りないと諭している。その言葉に思うところがあり、さらにはヘンリエッタの虐待も過激化したことにより、身を挺して庇うようになったのかもしれない。
マデリンが引きこもり始めたのが一騎打ち以降ということは、彼女は自分が召し抱えていた騎士が王国一ではなかった事実を気に病んでいるのだろうか。たったそれだけのことで全てを投げ出したくなるかどうかは不明だが、心の中にある様々な基準は人それぞれだ。マデリンにとっては、「自分は王国一の騎士に護られている」と思うことが何よりの支えだったのかもしれない。
沈痛な面持ちで口を閉ざすキリエの横で、リアムも押し黙る。そんな二人に対し、ジェイデンは苦笑した。
「君たちが落ち込むことはないだろう? あの一騎打ちはマデリンが悪いし、ランドルフの実力と立場が見合っていないのは彼自身と王国騎士団に非があるんだからな」
「でも……」
「放っておけばいいのだよ。おとなしくして冷静に考えているうちに、マデリンにも見えてくるものがあるだろうとも。──というわけで、話を戻す。ジャスミンは即位するつもりは無いようだし、マデリン陣営が機能していない以上、濃厚なのはライアンの即位だ。実際、マデリンを支持していた有力貴族の一部が裏切って、ライアンについていたりもするらしい」
そこで溜息をついたジェイデンは、話し続けて喉が渇いたのか、一気に茶を飲み干す。すると、ジョセフがすぐに近付いて、金の王子のカップへ茶を注ぎ足した。
「ありがとう。ここのお茶は美味しいな。焼菓子も素朴で安心する味で、とても美味しい」
「勿体無いお言葉を賜り、光栄でございます。ありがとうございます。お褒めのお言葉をいただいたと、後ほど料理人にもお伝えいたします」
ジェイデンへ恭しく対応したジョセフの言葉を聞き、マクシミリアンがわずかに反応する。マクシミリアンとキャサリンも幼馴染だったということだから、気になってしまうのかもしれない。キリエはそう考えた。
「さて。……ライアンが即位してはまずい、というのは僕とキリエに共通していることだと思う。だからこそ、二人で協力体制を作らないかという相談をするために、本日はこうしてお邪魔しているというわけだ」
ライアンが選民思考であることは、キリエもリアムから聞いていた。彼が先々代国王と同じように、貧民を痛めつける国政を行うのであれば、確かに阻止したい。
だが、そうだとすると、ジェイデンはどのような国政を目指していくつもりなのだろうか。
「ジェイデンと協力し合えるのであれば、それはとても心強いことだとは思いますが、それは君がどんな国を目指していきたいのかにもよります。ジェイデン、君はどんな王様になりたいのですか?」
「うーん……、そうだな。とりあえず、貧富の差が開きすぎているから、それはどうにかしたい。地方の子どもが餓死して育てないような現状では、国が先細りするのは目に見えているからな。──ただ、正直に言うと、僕はまだ内政に関してはそこまで考えを煮詰められていない。だが、これだけは自信を持って言える」
組んでいた脚を直し、姿勢を正したジェイデンは、真正面からキリエをじっと見据えた。
「この国は、何かがおかしい。何か、重要な秘密がある気がしてならない。──そして、その答えは『国王の書庫』にあるはずだ」




