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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
62/335

【2-44】御披露目の挨拶

 ◇



 御披露目の儀が、いよいよ始まった。

 まずはキリエ以外の次期国王候補たちが入場・着席し、宰相であるコンラッドが挨拶を述べている。その後でキリエが入場・挨拶をして、順次、来賓を代表した数名の祝辞を受けるという流れだ。

 扉の外側で待機しているキリエまでは、コンラッドの声は聞こえない。だが、もうすぐ入場になるはずだ。ちらりとリアムを見上げると、藍紫の瞳が励ますように見つめ返してくる。側近仕様のリアムは口数が少なく、表情もあまり変動しない。しかし、その眼差しは、確かにキリエを支えてくれるものだ。頷いて見せたところで、扉が細く開かれ、伝令役の騎士が合図を出してくる。それを確認した案内役の騎士が、キリエの前に跪いた。


「キリエ様、いよいよ御入場のときとなりましたが、御用意はよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です。お願いします」

「はっ、かしこまりました!」


 案内役の騎士が退き、入口の両脇にいる騎士がそれぞれ扉を開く。大広間の中から眩しい光が漏れ出し、キリエは一瞬だけ目を細めた。


「それでは、皆様、どうぞ拍手でお出迎えください! キリエ=フォン=ウィスタリア様の御入場です!」


 コンラッドが声を張り上げ、歓声と拍手が湧き、楽団がおめでたい曲調の音楽を奏で始める。大広間の中では、キリエの予想以上に多くの来賓が待ち受けていた。室内の装飾も、礼服姿の賓客たちも、漂っている雰囲気も、何もかもが華やかで煌びやかだ。

 今まで縁が無かった世界に怖気づきそうになりながらも、キリエはまず、堂々と一歩を踏み出した。一歩、一歩、ゆっくりと前へ進んでゆく。すぐ後ろを同じように歩いているリアムの気配が、心強かった。

 前方に設置されている階段を上りきると、既に檀上の椅子に座っている兄弟たち──といっても、ジェイデンとジャスミンだけだが、彼らはキリエを励ますように微笑んで頷いてくれる。キリエも微笑を返してから賓客たちを振り向き、ゆっくりと一礼した。


 すると、それまでの賑やかさが嘘のように、しんと静まり返る。演奏も拍手も止み、皆がキリエに注目していた。銀髪銀眼をもつ新たな王子の言葉を、皆が待っているのだ。

 賓客たちへ一礼したリアムがキリエの横に跪き、胸元に仕舞っていた紙を取り出して広げ、手渡してくる。挨拶の原稿を受け取ったキリエは、ゆっくりと話し始めた。


「皆様、本日はこのようにお集まりいただき、僕からご挨拶をする機会を与えてくださって、ありがとうございます。僕の名は、キリエと申します」


 静寂のためか、それとも、大広間の造りの効果なのか、キリエの声は意外と響いているようだ。さすがに後方までは厳しいだろうが、中央くらいまでの人には声が届いているように思える。


「今まで、王子王女は四人でした。そこへ、急に五人目が現れたと聞いて、驚かれた方も多いのではないでしょうか。僕も、驚きました。つい先日まで、僕は自分が王子だなんて知りませんでしたし、思いもしなかったのです。……僕は、つい最近まで、教会で育った孤児上がりの新成人でした。本当に、ただそれだけの存在だったのです。この金ボタンが、父は先代国王だったのだと示してくれましたが、母がどこの誰であるのかは今でも分かりません」


 金ボタンの話を出すと同時に、左胸にあしらわれているそれへ触れて王家の証を輝かせると、人々は感嘆の吐息を漏らしていた。しかし、すぐに唇をつぐみ、キリエの声へ耳を傾ける。


「僕は次期国王候補の一人であるようですが、だからといって、僕自身が次期国王を目指そうなどという分不相応な気持ちを抱いてはおりません。僕は決して良い育ちとは言えませんし、自分の母親が誰であるのかも知らない身元不明瞭な存在であることも確かです。だから、国王になるつもりは、一切ありません」


 キリエがそう断言すると、壇上の宰相や兄弟たちも、大勢の来賓も、皆が驚いたようだった。一瞬だけざわめく声が上がっていたが、しかしすぐにまた静かになる。キリエが次に何を語るのか、皆が心待ちにしていた。


「──ですが、せっかくの次期国王選抜の場ですので、僕が出来ることを頑張っていきたいと思いました。それは、皆に優しい王国を目指したい、それを一緒に目指してほしいと次期国王へ訴えかけることです。……それが僕が生まれた意味であるのだと、そう考えました」


 話しているうちに、緊張していた感覚が麻痺してくる。キリエは原稿の端を握り直し、気持ちを込めて次の言葉を紡ぎ出した。

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