【2-28】オズワルド=フォン=ウィスタリア
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先代国王オズワルド=フォン=ウィスタリア様は、いつも何かを探していらっしゃるような素振りで、一日の大半は王城の最上部の窓から外を眺めてお過ごしになっていた。
オズワルド様は御心を病んでしまわれていて、公務をこなしていただけるような状態ではなかった。俺が王国騎士団に入ったときにはもう、そのような状態でいらっしゃったな。
ただ、昔からそうだったわけではないそうだ。オズワルド様は元々は非常に勇敢で、豪胆でお優しく、聡明な御方だったと聞いている。様子がおかしくなられたのは、御結婚なされた辺りかららしい。
オズワルド様の御結婚当時は俺も六歳か七歳くらいだったからな、その頃の詳しい情勢を把握しきっているわけじゃない。ただ、突然に四人と結婚されたこと、その中の御一人がアルス市国の姫君だったことが騒がれていたという記憶はある。御結婚の翌年には御子様が四名もお生まれになったからな、……キリエも含めれば五名だったわけだが、まぁ、とにかく、当時の王都ではお祭り騒ぎが続いていた。
──公務の大半は宰相閣下がこなされていたが、時にはオズワルド様御自身が御顔を出されなければならない場合もある。どうしても必要があるときは、厳重な護衛をしながら遠出していただくこともあった。
俺が夜霧の騎士という名誉称号を得るきっかけになったのも、遠方へ向かわれている道中でオズワルド様をお護りしたことだったんだ。
何を言われても、何をされても、大抵は物憂げな御顔のまま無反応だったオズワルド様だが、唯一はっきりと抵抗感を御示しになることがあってな。
──それは、ルース地方への遠征だ。何故かオズワルド様はルース周辺へ近づくことを嫌がられた。いや、嫌がっていらしたというより、何かを恐れていらっしゃったような気がする。怯えながらも悲しんでいらっしゃるような、そういった拒み方をされていた。
何故、ルース地方に抵抗感を御示しになられていたのかは、最後まで分からなかった。
ただ、新たな次期国王候補であるキリエの出現によって、その一端を掴めたような気はする。オズワルド様がキリエという息子の存在を御存知だったか否かは分からないが、キリエの母君と接点を持たれたのがルース周辺だったのではないだろうか。
勿論、これは俺のごく個人的な想像に過ぎない。
それに、誤解しないでほしいんだが、俺はオズワルド様がキリエの母君を嫌がっていたからルース地方へ近づきたがらなかったとは考えていない。
むしろ逆だ。何らかのご事情でキリエの母君を妻として迎え入れることが出来ず、それが原因で御心を閉ざされたり、ルース方面での公務を拒まれたりされたのではないか、と思っている。
ジャスミン様が仰っていたように、金ボタンに触れた際の発光は、現時点ではキリエが一番強い。つまり、オズワルド様の寵愛を最も受けられていたのはキリエの母君ということだ。
もしかしたら、オズワルド様はキリエの母君を正妻として迎え入れたかったのかもしれない。それが叶わなかった代わりに他の誰も正妻にされなかったと考えると、納得できることも多い。
あとは──、そうだな。オズワルド様の御顔立ちを最も強く引き継がれているのはジャスミン様、気質を強く引き継がれているのはジェイデン様だと言われている。
お元気だった頃のオズワルド様は好奇心が旺盛で、御一人で王城を抜け出されたりしては家臣を困らせていたそうだ。そういうところは、確かにジェイデン様とよく似ていらっしゃると思う。
……そして、オズワルド様は今年頭に御崩御された。
死因については徹底的に伏せられていて、俺も把握していない。御心が塞ぎ込みがちだったとはいえ、オズワルド様はまだ三十八歳という若さで、肉体的には健康であらせられたはずだ。なぜ突然にお亡くなりになってしまったのか……、どうにも腑に落ちない。
先代国王陛下について俺が知っていることは、このくらいだな。一介の王国騎士が知りえる情報は、この程度のものなんだ。オズワルド様はあまり人前へ御姿を見せられなかったから、謁見した機会もそう多くはない。
でも、とても優しい眼差しの御方だった。穏やかで慈しみ深い御心が滲み出ている、そんな瞳だったよ。
キリエの眼差しは、オズワルド様のそれとよく似ている。血の繋がりを感じられる、そんな目だ。
──なんだかんだ長くなってしまったが、俺がオズワルド様について語れることは以上だ。




