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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第4章(最終章)
330/335

【4-60】未来へ向かって

 ◇



 医務室を出たところで、リアムはキリエの顔を覗き込んでくる。次はどこへ向かうのかと問いかけてくる藍紫の瞳を見つめ返し、キリエは数瞬考えた後、答えた。


「地下へ、……ライアンに会いに行こうかと」

「……ライアン様、ですか」


 夜霧の騎士は意外そうな顔をしているが、その選択へ異論を唱えるつもりはないようだ。


「ライアンのところにはブルーノがいると思いますが、この状況ですから、地下に最新の情報が伝わっているか分かりませんし、カインたちがきちんとマデリンを連れてきてくれているということを教えてあげたいなと思ったのです」

「左様でございましたか」

「地下に行ってもいいですか?」

「御意のままに。キリエ様が足を向けられる場所へ、私もお供いたします」

「ありがとうございます、リアム」


 頷いたキリエが歩き出すと、リアムも歩調を合わせて付いてくる。大階段へ向かう廊下へ差し掛かったとき、道の先に見知った顔を見つけ、キリエは手を振った。


「あっ、キャシー!」

「まぁ、キリエ様」


 大きな銀盆を両手で持ったキャサリンは、振り返って一礼してから歩み寄ってくる。キリエたちからも近付き、正面に立った淑女は再び丁寧に頭を下げた。


「キリエ様、リアム様も、御勤め御疲れ様でございます。……お二人は、いずこかへいらっしゃるのですか?」

「あ、はい。城内で挨拶回りのようなことを、少し。これから地下へ行こうかと」

「まぁ、そうでしたか」


 キャサリンは微笑を浮かべてはいるが、心なしか困っているようにも見える。いや、困っているというよりは、どうしようかと悩んでいるのかもしれない。

 キャサリンは厨房で料理人たちの手伝いをしている。かつて彼女と交流があったような貴族たちは遠方へ避難済みであり、リアムとマクシミリアン以外の王国騎士と関わりがあったわけでもなく、王城勤めの知人もいないことから、今であれば「既に死んでいるはずの令嬢」が城内にいても大丈夫だろうと判断されたのだ。

 銀盆にはパンに干し肉やチーズを挟んだ軽食が載っており、キャサリンはそれをどこかへ届けようとしていたのだと思われる。それに関して何か困っているのだろうか。そう思って問い掛けようとするキリエより先に、リアムが口を開いた。


「キャシー。キリエ様と俺はこうして出てきているが、大広間にはまだ皆様が御揃いのはずだ。少なくとも、陛下は大広間での待機を続けておられる。……マクシミリアンも、御傍に付いている」

「あ……、その、」

「陛下も、他の皆様方も、ちょうど一息つきたいところだろう。持って行って差し上げてくれ。お前が訪ねることを見咎めるような方は誰一人としていないから、安心して行くといい」

「はい……!」


 安堵したように、かつ嬉しそうに笑ったキャサリンは、次にキリエと視線を合わせて優しく言う。


「キリエ様の分もございますので、大広間にお戻りになりましたら是非召し上がってくださいませ。わたくしが焼いたパンで作っておりますし、シンプルな軽食ですからキリエ様で御召し上がりになりやすいかと思いますわ」

「わぁっ、お城でキャシーの味をいただけるなんて、とても嬉しいです。緊張感を解せそうですね、ありがとうございます」

「そう仰っていただけますと、わたくしも嬉しいです。ありがとうございます。……それでは、失礼いたします」


 銀盆を持ったまま綺麗に一礼したキャサリンは、大広間を目指して再び歩き始めた。その後ろ姿を見送りながら、キリエはリアムへ語り掛ける。


「キャシーは、もしかしてマックスに会いたかったのでしょうか?」

「ええ、おそらくは。なかなか顔を合わせることも無いでしょうから、良い機会だと思って、運び役を引き受けたのでしょう」

「……もしかして、大広間に入りづらいのでしょうか。僕たちがいたほうが入りやすいのでしたら、一度戻ったほうが……、」


 キャサリンが心配になって彼女の後を追おうとするキリエの腕を、リアムがやんわりと掴んで止めた。


「いいえ、御心配には及ばないでしょう。確かに、少々不安だったのかもしれませんが、あの部屋に集まっている皆様でしたら彼女も問題無く対応できるかと。……それに、マクシミリアンがいます。彼ならば、彼女に何かあったとしても守るでしょう」

「……そうですね。キャシーは僕なんかよりよっぽどしっかりした人なのですし、心配いらないですよね。それに、大広間にいる皆は優しいですし」

「キリエ様こそ、しっかりされていらっしゃいます。約一年前、この城内を初めて歩かれていらしたときと今とでは、随分と御様子が違います。背筋が伸びて、視線もしっかりと前を向いていて、御立派になられましたね」


 再びゆったりと歩き始めながら、キリエは照れ隠しのように小さな咳をする。そんな主君の様子を、リアムは微笑ましく見守った。



 ◇



 地下牢がある階は相変わらず冷気と湿気が満ちており、薄暗い。背筋をゾクリと何かが駆け抜けていったように感じたキリエは無意識に足を速め、リアムも歩調を合わせてきた。

 地下牢区域に到着し、二人組の牢番に挨拶したキリエはライアンが入れられている牢を目指す。目的の牢が見えてきたところで、キリエは驚きの声を上げた。


「あれっ……、シーラ?」


 ライアンの牢の前にブルーノがいるのはいつものことだが、今はその隣にプリシラの姿もあった。未来の王妃である知的な令嬢は、キリエの姿を見るやいなや喜色を滲ませた笑みを浮かべ、可憐な仕草で一礼してから興奮した声を発する。


「まぁ……ッ、キリエ様! お久しゅうございます! ああ、本日もなんと可憐でいらっしゃるのでしょう! 陛下と御揃いの御衣装も、大変よくお似合いでいらっしゃいます……!」

「ありがとうございます。お久しぶりです、シーラ。お菓子やお気遣いのお手紙などを度々いただいて、ありがとうございました」

「いえいえ、そんな……! こちらこそ、そのように仰っていただけるだなんて幸いでございますっ」

「……ところで、シーラ。ライアンにご用なのですか?」


 意外な組み合わせに思ったキリエは、ライアンとブルーノの二人と会釈を交わしてから、プリシラとライアンの顔を交互に見た。リアムも不思議に思っているのかブルーノへ視線を向けたが、相手は心配無用とばかりに微笑んで頷く。プリシラはうっとりとキリエを見つめながらも、質問に答えた。


「私は、度々ライアン様とお話させていただいております。陛下がそう御望みでございますし、私も必要なことだと考えておりますので」

「そうだったのですね。……ということは、マデリンがカインたちに連れられているのも?」

「ああ、ちょうど今、報告してもらったところだ。──キリエは、それを知らせるために此処へ来たのか」


 ライアンに声を掛けられたキリエは、こくりと頷く。


「はい。マデリンのことをお知らせしたかったのと、君がどうしているかも気になったので、こうして来ました」

「そうか。私は何も変わりなく過ごしているから、心配には及ばない。そもそも、私は本来であれば心配してもらえるような立場ではないんだがな」

「……えっと、……また、戦いが終わったら改めて来ますね。無事に終わるように祈っていてください」


 プリシラがジェイデンの指示でライアンと話しているのであれば、邪魔しないほうがいいだろう。現在の状況も彼女から聞けているのであれば、尚更だ。そう考えたキリエは挨拶をして立ち去ろうとしたが、それを察したライアンが先回りして口を開く。


「──キリエ。ジェイデンが私に接触を計っているのは、いずれ私を宰相にするのはどうかと検討しているからだ」

「……えっ?」


 驚くキリエの隣で、リアムも息を呑む。


「私のような罪人をコンラッドの後継に据えようとは、彼の考えはよく分からんな。……君も、阻止したいと思うのなら、早めに手を打ってジェイデンを止めたほうがいい」


 生真面目な発言を聞いたキリエは、穏やかな表情で首を振った。そして、柔らかな声音で言う。


「僕はジェイデンを信じていますし、ライアンのことも信じています。ジェイデンと僕が目指している未来についてライアンが納得できるようになってくれたら、とても心強い宰相になっていただけるんじゃないかと思います」

「……そうか」

「はい。……では、行きますね」


 三人とそれぞれ挨拶を交わしてから、キリエとリアムはその場を後にする。牢番たちにも労いの言葉を掛け、階段まで戻ってきたところで、キリエはぽつりと呟いた。


「──みんな、未来に向かって歩き出しているのですね」

「左様でございますね。……私たちもまた、同様でしょう」


 リアムの言葉に頷き、キリエは一歩一歩踏みしめるように階段を上り始めた。

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